8 敵はまだいる
【全ての財宝は手の中】メンバー矢井田創の能力【男たちの万化】は、任意の男性の姿へと変身することが出来る能力である。
しかも見た目だけでなく、声まで変身した相手のものとなる。
この能力は情報収集やかく乱などの諜報活動に向いており、矢井田は普段組織を陰で支える活動を中心に行っていた。
組織が警察などに正体を悟られずに活動できるのも、矢井田の変身能力が大きく貢献しているからだと言える。
彼自身、みんなを先頭でグイグイと引っ張っていくよりも裏方で支える方が自分には合ってると思っているし、なによりリーダーの虎賀に尽くすことに心から喜びを感じていた。
虎賀の為なら命も差し出せるし、彼の不利益になるくらいなら死んだ方が良いと思う程心酔していたのだ。
なので普通であれば嫌がるような泥臭い地道な活動も彼は喜んでこなした。
ちなみにこの能力、諜報活動だけでなく暗殺や奇襲などとも非常に相性が良い。
ターゲットと親しい者の姿に変身し、油断したところを攻撃したり。
潜入したい施設の職員に変身し中からロックを解除する、といった事もお手の物であった。
ミッション内容によっては彼だけで完結してしまうこともある。
しかも終始彼の本当の姿を晒すことなく実行できるのだ。
今回はターゲットの宿泊するホテルを事前に掴んでいたので、計画としては部屋の近くで待機しターゲットが訪れたらホテルマンの一人に変身し、殺害するという算段だった。
彼の能力自体には攻撃能力は無いので、秘密裏に仕入れた銃火器を用いて事に当たる。
今回用意したデザートイーグルはハンドガンの中でも最大級の大きさと威力を誇り、例え能力者でもまともに食らえばただでは済まない。
ましてやターゲットの白縫千歌は開泉もしていない一般人。
12.7mm弾を食らって無事でいられるワケがなかった。
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「バカな…」
襲撃者が酷く動揺している。だが無理もない。
なにせ自分の放った弾丸が、全て白縫の体に弾かれてしまったのだから。
発砲の瞬間、白縫の前に出て弾丸を代わりに受けてやる時間は無かったが、俺は右手を目一杯伸ばしてなんとか白縫の肩に触れることが出来た。
なので白縫の服や皮フ、骨に至るまで全ての硬度の強化が間に合った。
それでもあのデカイ銃の弾丸だ。
貫通はしないまでも衝撃だけで相当だと思ったので、痛覚も消し受けたダメージも即座に回復した。
白縫への被害は最低限に留められたハズだ。
強化を行う為に置いた右手で、今度は白縫の体を俺の方に引き寄せその分俺は前に出た。
襲撃者を叩く為に、前に。
「くっ…!」
襲撃者も立て直し、すかさず今度は俺に銃口を向ける。
が、前進してから間髪いれずに繰り出した左回し蹴りが弾丸の発砲よりも早く襲撃者の手を薙ぎ払った。
そして蹴りをマトモに受けた手はダメージに耐え切れず、持っていた銃を部屋の床に落としてしまう。
瞬間、ゴトっという重い衝撃音が耳に入り、俺は使用した武器から襲撃者の殺意の重さを再認識した。
「デザートの、礼だ…!」
「ゴぁ…!!」
蹴りの体勢からすぐに立て直すと、今度はボディ目がけて右手でパンチを繰り出す。
動揺と手へのダメージが効いたのか、俺のような素人の攻撃もあっさり決まり、襲撃者の顔を苦痛にゆがませることが出来た。
襲撃者のみぞおち辺りにめり込んだ手からは、骨が砕けるような感触が伝わった。
最後に左手でふらつく相手の頭を掴み、顔面を部屋の壁へ思い切り叩きつける。
「ぶっ…!」
衝突音で聞こえなくなるくらい小さく短い声を発したのを最後に、襲撃者の体から力が抜け壁に顔をつけたままズルズルと床へ伏し、完全に沈黙した。
そして俺はすぐに倒れた男に触れ、身体機能の低下及び気泉の封印を施す。
これらを行う事で、ようやく敵を無力化したという安心感が得られるのだった。
「…ふぅ、…ん?」
一息ついたのもつかの間、驚くべき光景が俺の目に入る。
なんと男は、先ほどまでのホテルの従業員の恰好から普通の私服姿に変化したのだ。
俺はすぐにうつ伏せになっている男を仰向けにし確認してみた、
するとやはり、顔までが佐野という従業員のものから知らない男性の顔に変化していたのだった。
「…」
俺はこの状況について、少しの間考えある仮説を立ててみた。
まずこいつの能力は【変身】である可能性が高いということだ。
俺が能力の源である気泉を封じた事で変身が解除され、元の姿に戻ったと思われる。
わざわざデカイ銃を持ち歩いているのも、コイツ自身攻撃向きの能力では無い為に仕方なくと思えば一応筋は通る。
攻撃向きの能力があるのに日本で銃を持ち歩くのはあまりにリスキーだからだ。
では何故、この男は"攻撃の手段"を用意しているのか。裏社会の関係者?警察?
はたまた能力者組織の一員か。いずれにせよ白縫を殺そうとする理由が分からない。
男は間違いなく白縫を殺しにかかっていた事から、身代金目的だとかそのあたりの線は消える。
死んでしまっては金の対価としての役目は無くなってしまうからだ。
なら怨恨か?例えば白縫の親父さんの事業で不利益を被った人間がいるとして、恨みを晴らすため娘を殺すようそいつに雇われたのがこの男…。いや、違う気がする。
白縫を殺すのにわざわざ能力者を雇う必要がないだろうし、親父さんへの復讐で娘を殺す…無くはないのだが…どうもしっくりこない。
勿論たまたま殺しを依頼した組織に能力者がいたとか、そもそも白縫自身を恨んでいる人間がいるという可能性だってある。
もしくは依頼ではなく、コイツ自身に白縫の命を狙う理由が存在するという事もある。
だがその辺りは本人に直接聞いて確かめるしかない。
幸いにもこちらにはいのりがいる。素直に口を割らなくても情報を引き出すことは十分できるだろう。
そうと決まれば、さっさとコイツを叩き起こして話を聞こう。
「ぁ…た…」
俺が男を起こそうとした時、後ろから白縫のうめき声が聞こえてきた。
そういえば、突然の銃撃の後彼女になんのフォローもしていなかったな。
流石に状況がカオスすぎて、パニックに陥っているのかもしれない。
俺は慌てて白縫に声をかけて、何とかこの場を取り繕おうと試みた。
「悪い白縫、怪我はないか。驚いただろうけ…ど…」
俺の予想に反し、白縫はパニックに陥ってなどいなかった。
眼前には目や鼻や口から血を流し、今にも倒れそうな白縫の姿があったのだった
「白縫!!」
俺は慌てて白縫を抱きかかえ、床に倒れないよう支えた。
「ごぼッ!」
かかえた白縫の口からは更に血が吹き出し、苦しそうにしている。
「待ってろ…今治すからな」
おかしい…先ほど、ダメージは完璧に治したハズだ。
襲撃者の能力が変身であるならば、弾丸に追加効果があるとも考えにくい。
にも関わらず何故白縫はこれほどまでにダメージを負っているのか。
銃に別の能力者の仕掛けが施してあったのか?答えは分からないが、とにかく今は能力でいち早くライフを回復させないとならない。
ならないのだが…。
「アン…タ…ごほっごほっ…!」
回復を行ってみて分かった。
白縫のライフが、回復させた矢先に減少していっている事に。
「ぐっ…う…!」
そして、気づけば白縫と同じ症状が自分の身にも表れた。
目はかすみ、手足の先が痺れ、目や鼻からは出血している。
どうやら白縫の症状は、先ほどの銃撃ではなく現在進行形で受けている攻撃によるものだったようだ。
敵はこの男1人では無かった。
まだ危機は、一向に去ってなどいなかったということだ。
いつも見てくださりありがとうございます。
ちょい細切れになってしまいますが、ここで区切るのがちょうどいいかなと思いました。
過去の章もちょくちょく見直して修正してますが、内容に関する部分はいじらず、表現だけ直してます。
あとブクマ登録ありがとうございます!ちょっとずつ増えていって嬉しいです。
引き続き宜しくお付き合いください。




