52 起爆
G-2
「……なんだこりゃあ…」
15歳で特公にスカウトされ入職した俺は、既往歴があるという事で診療録の提出を求められた。
といっても保存期間は過ぎていたし今は全快しているという事は特公も把握していたことだから、『まあ、形式上だし』という総務職員の言葉を飲み込み、仕方なく両親に俺がかかっていたという病院の名前を聞き取り寄せることに。
この頃には侑李も生まれており、手がかからなくなっていた(というか届かなくなっていた)俺よりも両親はそっちに夢中だったので、全部自分で手続きをした。
そして届いた分厚い紙の束を見て、俺は驚かされるのだった。
謎の病に侵され刻一刻と命をすり減らしていく様子を医者が手書きで記している。
症状や状態、俺の両親の様子などを医者が紙に綴り、日付の区切りの部分…つまりその日の最後には必ず(言い方は違えど)『明日までもたないかもしれない』的な事が書かれていた。
そして急転直下
最期の時を家で過ごす、の記載から、快方に向かう…となった。
端折りすぎだろうと見る者が突っ込みを入れたくなる内容だが、実際そうなのだ。また、途中でページが抜き取られているのかと思われるかもしれないが、この切り替わりはA4用紙の途中での出来事である。
つまり本当に一気に回復した。
『凄いでしょう? 私って♪』
"この霊獣"の力によって…。
疎ましいと思う存在は、同時に俺の命の恩人でもあった。
それ以来、俺の中には嫌悪半分・恩義半分という妙な感情が芽生えることになる。
相変わらず自分の功績を主張する霊獣を疎ましく思うが、確かに借りはあって、それを度外視するほど腐っちゃいない。
だから俺はステージを変えることにした。
自分の組織を作る。
人脈と政治力。霊獣の及ばないそれで成り上がることが出来れば、それは完全に俺のものだ。
設立は上手くいっていた。もう少し人員と地盤を固めることが出来れば、強引にでも特公を辞めて…それで…。
しかし弟が殺されたところから雲行きが怪しくなっていく。
恐らく塚田や廿六木の裏には汐入部長も噛んでいる。
俺がこいつらに牙をむいても部長が出てこないのは、俺を消すための刺客として擁立したのだろう。
大分予定が狂っちまった…。
だがもう進むしかない。
もう戻れない。
さっきフェニックスの力で2体目を封印したところで、ようやく腹をくくった。
もうなりふり構っていられない。
どんな力を使ってでも、俺は特公を離れ自分の国を作るしかないと…。
霊獣の力を失い、徐々に消耗する塚田を見て、そう思った。
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「…ふぅー」
深く息を吐く卓也。
消し飛んだ左腕を再生させつつ、構える。
琴夜が封印され、光輝を元の位相に飛ばされてしまったことで融合状態の後鳥羽に打つ手なし。それでも最後まであがいて抵抗している…"そう見せるため"戦い続けている。
演技をしているとはいえ卓也が余裕綽々か…と聞かれればそんなことはなく、このまま続けていればいずれ後鳥羽に軍配が上がる。そんな窮地には立っていた。
それでも後鳥羽が、光輝のように『ネズミを狩るのにも全力で』というようなタイプではないことは何度かのやり取りで把握済みの為、自身の戦略を信じて勝負が決する直前の"ゆるみ"を誘うように振舞い、機を待った。
接近戦は打撃と発勁、遠距離は投擲。相手が常人であればお釣りがくるくらいのパワーだが、今の後鳥羽にはあまり有効とは言えない。
この『通常攻撃ではダメージを与えられなくなってきている』という事実を徐々に刷り込んだ。
(本当に、死にバフでもう打撃はほとんど効かないな…。そろそろ仕掛けるか…?)
技術面では圧倒しているが、ステータス面で差が付いたことを実感した卓也はようやくその時が来たことを感じた。
チューナーによりまだまだ埋められる差をあえて埋めず、勝負に出ることに。
「はぁぁぁぁぁぁ…!」
丹田に力を込め、気を充実させる。本来であれば悪手とも取れる必殺の宣言。
だが、それが逆に後鳥羽の精神的ガードを下げたのは卓也の戦略の賜物であった。
「―――っ!」
卓也が駆け出し、それを後鳥羽が迎え撃つ。
いくつかの衛星が赤い熱線を放ち卓也を焼き払わんとするが、何度も食らったおかげで目がその速度に慣れていたため、一度の被弾もなく後鳥羽の懐に潜り込むことが出来た。
そして卓也は両手の拳を上下にくっ付け、後鳥羽の胸部に押し当てる。打撃ではなく、勢い無く付けると、叫んだ。
「"双輪勁掌拳"ッッッッ!!!!」
渾身の発勁。敵の内部を破壊する最強の技。
しかし、魂の叫びから数秒が経過するも後鳥羽の体にはなんの異変も起きない。
よもやの不発か、あるいは強くなりすぎた故のノーダメージか。
どちらにせよいつまでも接触している卓也を疎ましく思った後鳥羽は、簡単な牽制攻撃で彼を下がらせた。
「いつまでも触るな。退け」
炎の直撃を避けるようバックステップで距離を取る卓也を見て、後鳥羽は勝利を確信する。
攻撃が効かなかった事実だけではなく、自身に力が漲る確かな実感があった。
これが、拮抗した相手と戦う事で得られる経験値による成長であると信じて疑わなかった。
「ククク…」
いつでも目の前の卓也を殺せる…そう判断した後鳥羽は"次の相手"に備えるべく能力を発動させる。
身体から気が放出し、爆ぜるようにして散った。
「さて、そろそろ―――」
気が霧散し、同時に言い放とうとした勝利宣言。
しかしそれは最後まで言い終わることなく…
「―――ガッ…!」
後鳥羽の体が爆発し、上半身が吹き飛んだのであった。
だが薄れゆく意識の後鳥羽も、彼に憑くフェニックスも、この時はまだ状況を正確に把握していない。
最後っ屁が遅れて放たれた
恐らくその程度の認識。
卓也からは爆炎で顔が見えないが、内心ほくそ笑んでいることは想像に易しい。
元通りになって、完全に焼いて、それで終わる。
なんならもう意識は廿六木に向いていたかもしれない。
そう思っていると予想した卓也は、敵の行く末を見守ることにした。
そして、やはり…
爆炎の後、金色と緋色の混じった炎が上がり後鳥羽の体全体を包むと、やがて中から一つの影が現れる。
何十回と見た光景。何十回と繰り返した作業。
後鳥羽にとっては何の感傷もなく、むしろよく頑張ったと卓也を称賛する言葉を紡ごうとした。
「よくもまあ―――」
だが、後鳥羽の言葉を遮るように、二度目の爆発が彼の体を吹き飛ばす。
油断とか不意打ちとは関係なく、問答無用に死をもたらす威力を湛えた爆炎は、復活から間髪入れずに再び後鳥羽の体を地面に倒した。
また炎が包み、また復活する。
「お前―――」
そしてまた爆発し、また死に、また復活する。
また
また
また
爆発は後鳥羽の命を狩り続けた
また
また
また
いつも見てくださりありがとうございます。
バタバタしてて書けなかったァ!




