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【現実ノ異世界】  作者: 金木犀
【卓也VS廿六木VS後鳥羽 下】
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49 出力

「能力戦において大切なのってよぉ…“出力”だと思うんだよなぁ、オレ」

「…」


 膝をつき息を整える志津香を遠くに見下ろしながら、男は『空中に腰を掛け』自らの持論を展開する。

 与し易しと侮っているのか、それとも単なる気まぐれなのか。

 男は志津香にトドメを刺すことなく語りだした。


「どんなに優れたポテンシャルを秘めててもよぉ、それを外に出せなきゃ意味がないわけ。まあ能力とか関係なく一般社会においても"そう"なワケだけど」

「…」

「例えば1兆℃の熱を生み出せる能力者が居たとしてだ…。まあそりゃすげえよ? 人間の出せる熱量じゃねえよな。でも、じゃあ指先からライターくらいの出力しかできません…ってんじゃあ駄目だよなぁ? そこまで近づかなきゃならねえなら、別に1000℃でもよくね? っていう」


 男が両手を横に広げ首を傾ける。

 身体全体で"ヤレヤレ"といった感情を表現した。

 だが志津香は一言も発さずじっと見つめるばかりで、それも予想通りだと男は目線を遠くに向ける。


「そういう意味では、アイツらはすげえよ。辻斬りボウヤたちは今まで三味線引いてた事が今日分かったし。特対の男も、ありゃあ現実じゃ出せないわな。多分正直に上へ申告しても、三言目には『要人の送迎ができる空飛ぶ小舟出せる?』って聞いてくるぜ? あいつ等バカだから」


 男はひとりで『折角の超出力が台無しだ』と特対の上層部に対し憤慨している。

 実際にこれまでも一部の政府のお偉いさんを能力で安全に運ぶという行為は行われてきた。

 卓也が神のゲームに勝利した直後に見たドラゴンも、竜化能力を持つ特対職員が変身し送迎している様子である。

 それを知ってか、男はもったいない使い方をさせるどこかの誰かに悪態をついたのだった。


「―――話がそれたな。そんで刀を差してる男も、得体のしれないオーラをビンビン発しててヤバかったな。鳥肌が止まらんかったわ。………ただぁ!」


 男はタメを作り、この後行うであろう指摘を強調してみせる。


「おたくはダメダメだ。全然ダメ。応用が利くのかもしれねえが、出力がまるでダメ」

「―――っ」


 男がダメを連呼している隙に、志津香は咄嗟に植物の種を掌から相手に向かって射出した。

 だが男はすぐにそれに反応する。


「なってねえ!」


 男は掌から勢いよくジェット噴射のように気を放出し、迫りくる種を全て打ち落とした。

 そして座っている姿勢から、両足裏からの気の放出で一気に志津香へ距離を詰めると、右かかとの放出で勢いよく横に3回転し強烈な回し蹴りを放った。

 志津香は地面から太い幹の木を生やし防ごうとするも、蹴りの威力の方が強く木ごと遠くへと吹き飛ばされてしまう。


 なんとか受け身を取りすぐに臨戦態勢を維持するも、確実に志津香の体にダメージが蓄積している。

 その痛みを押し殺しながら、彼女は再度立ち上がった。


「ほらな? 便利な能力も、出力不足なばっかりにそうやって何度も地面を転がることになる。俺のチンケな能力に簡単にぶっ飛ばされるわけよ」


 男は空中に浮きながら、志津香に向かってそう吐き捨てた。

 男の持つ【殺人的な加速(エアマスター)】は体からジェット噴射のように気を放出することのできる能力である。

 足の裏から揚力や加速を得ることで空を飛んだり、尻からジェットを出して空中に座る事も可能だ。

 手から放出すれば相手の体や投擲された武器を吹き飛ばすこともできる。


 ちなみに後鳥羽のジェットアーツ(男が命名した噴射を使った格闘術)は彼が教えたものだ。


「…っ」

「無理すんなって…もう寝とけよ。見ちゃいらんねえぜ」


 何とか立ち上がろうとする志津香に対しキツイ言葉を投げかける男。


「まあ出力うんぬんの話したあとで何だけどよ。結局は"不死身"には勝てねえと思うぜ? ボスは出力もさることながらアビリティも一級品だ。だからそんな無理したって意味ないって。どうせ向こうのお仲間も塚田の後に殺されるって」

「…」

「だからここで死んどけ? あっちで塚田と永遠に一緒になれるぜ」

「………………………いい」

「あ?」

「そういうのは、いらない…」


 ようやく初めて口を開く志津香。

 しかし必要最低限な事しか話さないため、思わず聞き返す男。


「何がいらないって?」

「私は生きて卓也と一緒に居たいし、死ぬ時も一緒に居たい。けど、死んでから一緒とかはいらない」

「…あっそ」


 何を言うかと思えば…と冷めた目で見下す男。

 死ぬ前に少しでも恐怖を和らげてやろうとしたのに、と至極勝手な気遣いが無下にされて不機嫌になる。


「じゃあ死ねよ。永遠にお別れだ…!」


 上空から志津香目がけて急降下し蹴りを入れようとした。が…


「…うお!」


 何故か彼女の前にみっともなくうつ伏せに倒れる。

 落下ダメージこそないが、今度は自分が這いつくばることに。


(…は? 何で俺が地べた這ってんだよ…。つか動けねえ)


 男は自分の身に起きたことが分からず考えを巡らせている。

 しかし接触したのは蹴り足だけであり、何かの直撃を受けたわけでもない。

 つまり今この症状が出ている原因が分からずにいた。


(ってことは、コイツがコッソリなんか仕掛けてきたってことか…!)


 相手によってはここで種明かしタイムになり、どういうやられ方かを解説してくれることもあるだろう。

 トリカブトの成分を抽出し男のジェット気流に乗せ気付かれないように、かつ男だけが摂取するよう散布していたことを、相手によってはここで話していただろう。

 だが志津香は喋らない。

 言いたいことはさっき言ったため、もうこれ以上男に話すことはなかった。

 故に、男にとっては自分の身に起きた状況だけがすべてである。


(くそ…っ動け…! クソがぁ…!)


 志津香は立ち上がるとまず地面から木を生やし、自分の身長と同じくらいの槍を作成した。

 そしてゆっくりと男に近付き構える。

 狙いは頭。ここで完全に殺すつもりであった。

 卓也の脅威を少しでも排除しようと動く。


(う…ごけぇ…!)


 だが、槍が突き刺さる直前でかろうじて"羽"を取り出すことに成功した男はすぐに発動させ、空間から消えたのだった。


「…逃がした」


 志津香の前には、誰も居なくなった。


















 __________________

















「ふぅ…」


 後鳥羽のアジトのひとつ。

 今は当然ながら全員出動し、もぬけの殻。

 そこに一人だけ帰還した人物が。

 志津香と戦っていた男。名を【走入(はしり)(すい)】という。


 フェニックスの権能の一部を封じた羽で、彼は『アジトにいた時の自分』へと回帰したのだ。勿論毒や服の汚れも消え、完璧な状態で。

 後鳥羽が保険のために部下に持たせていたこれで、走入は難を逃れた…かのように見えるが、これは最初から彼の計画通りだった。


「えーと…廿六木さんの番号は…っと」


 走入は頭の片隅にある自身の主である廿六木の番号を思い出しながらスマホの画面にタッチしていく。

 いつスマホを見られてもいいよう電話帳などには登録せず、通話後もすぐに履歴は削除している。

 会話をすること自体も、ほぼない。

 特別な用事でもなければ…だが。


『はい。廿六木です』

「あ、もしもし? 廿六木さん?」

『何でしょうか、走入さん』

「塚田の仲間の能力と、その程度が分かったんで報告したくて電話しました」

『そうですか』


 誰も居ないアジトで、しかし声は控えめに、自分に割り当てられた個室で話し始める走入だった。


「えーとまず、参加者なんですけど―――」


 走入は疋田の能力、七里姉弟の能力の強さ、そして一応志津香の能力で出来る事を順に報告していく。

 廿六木もある程度は掴んでいる情報なので、そこまで大きく驚くことなく相槌を打つ。

 時折走入の話を深堀りしつつ、頭の中で事前情報から確定情報へとアップデートしていった。

 そして最後に、話題は市ヶ谷に。


『あと参加していたのは市ヶ谷くんでしたか。いかがでしたか?』

「……アイツはヤバイですね」

『ほう…ヤバイとは』


 男の反応に興味を示す廿六木。

 あまりこういう事は言わないので、どんな内容が聞けるのか期待する。

 対して男は思い出したくない記憶を呼び起こすように、ゆっくりと緊張しながら口を開いた。


「直接は見ることができなかったので推察も多分に含まれますが…市ヶ谷は能力を使用したと思われます」

『ふむ』

「その時に感じた気は、殺気とかそういうのではなく、もっと根源的なものでした」

『…根源的とは?』


 走入の話す内容はまだ抽象的で、具体性に欠くものであった。

 しかし普段の彼の報告は簡潔であり、そんな彼がこう表現するということは、これが‘生の声’なのだと感じる。

 なので急かしてさらに収拾のつかない事にならぬよう、焦らず先を促した。


「対峙した相手にこちらを殺す気がある時に出るのが殺気だとして、その多寡とか力量の差で結果的に感じるのが死の恐怖だと思うんですけど。先ほど感じたのはいきなりの死でした」

『…それはそれは』

「殺意とか恐怖とかじゃなくて、死そのものがそこにあるような、そんな感じでした。あそこに行けば死ぬな…と」


 走入は本能で感じ取っていた。

 死後の世界である黄泉の中でも、最も沼気の濃い場所に浸かっていた刀。それが具現化したことにより、間接的に自らの死後を。

 生者の、耐性のない体では七ツ星の前に立ってまともに会話をすることも難しい。

 それほどまでに濃縮した沼気の顕現を駆る市ヶ谷は、走入の目には死神に見えていたかもしれない。


「覚悟なしで直面したらフリーズは確実ですね」

『なるほど。その間に一刀両断だと…。で、対策はありそうですか?』

「それは簡単ですよ」

『ほう? いったいどんな?』

「本人に‘慣れさせてくれ’って頼めばいいんです」

『……現状打つ手無しということですね』


 ため息混じりに話す廿六木。

 走入も落ち着いたのか、冗談交じりにそうですねと回答する。

 そして廿六木の頭の中では、仮に市ヶ谷と正面切って戦うなら自分だということにし、他の情報を整理するため話を切り上げようとした。


『他に連絡事項はありますか?』

「いえ、特には。とりあえずこの勝負の決着がついたらどっかで抜け出してそっちに戻ります」

『承知しました』


 会話が終了したところで、スマホからツー ツーと電子音が流れ始める。

 男は画面をタップして受話器を切りスリープモードにすると、それをポケットにしまった。


「…さて。ほんじゃ今できる事をやっておきますか」


 男は何かをするため自室の席に座る。

 そして…


「……………部下のほうが大将より強いことなんてざらにあるよな」


 と、まだ完全に振り切れていない評価の天秤に重りを乗せ始めた。


「でも報告じゃこの前の戦闘で『不死身なしなら負けてたかも』とか言ってたやついたしなぁ…。いやでも不死身だぞ? しかもこっちから仕掛けてるし、不死身をどうにかできる罠なんかあるか? もとに戻るんだよなぁ」


 男はしばらく自問自答していたのだった。



夏アニメまだなーんも見てない!

バタバタしててそれどころじゃなかった

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