46 戦艦
「なんだここは…草原…なのか?」
後鳥羽の部下たちは突如見覚えのない場所に連れて来られ、みな一様に狼狽していた。
現実空間でもなければ、つい今までいた第2層の霊域でもない。気付いたら緑豊かで青空が広がる空間におり、一先ず辺りを見回すほかなかった。
数人を除いて…
「おぬしら、油断するな。目出し帽の三人以外にも、特対が二人合流しておるぞ」
「ホントだ」
「あ、あの特対の女は俺が殺ろうかな」
「じゃあ私はあの赤ジャージで」
「ワシはあの刀のヤツじゃからな」
後鳥羽の部下の中でも5本の指に数えられるほどの精鋭三人が誰を担当するか話し合う。
結果、侍のような格好の老人は市ヶ谷を、金髪にピアスのチャラい青年は志津香を、眼鏡の誠実そうな女は魅雷に標的を定めた。
侍以外は相手の人選に特に理由はない。ただ何となくである。
そしてそれを少し離れたところで聞いていた塚田軍。
「ご指名だとさ、お前ら」
「そう」
「刀使いは引き受けようと思っていたから、丁度良かったです」
「あたしその他大勢で良かったのにー…」
「まあいいじゃん、どっちでも変わらないでしょう、たいして」
卓也が後鳥羽以外の露払いにと用意したのは五人。
七里姉弟に市ヶ谷、そして志津香に疋田である。
他のメンバーには別で役割があったため、この場にはいない。
彼らの役目は仲間たちを後鳥羽の元に行かせない事であり、何らかの方法で元居た位相に戻ろうとする気配を感じたら即座に無力化するつもりであった。
そのため、誰が誰を担当するかを決めるという相手の動きは志津香たちにとってはこれ以上ないほどの好都合と言える。
後は目立たない雑兵(サソリたち含む)が妙な動きをしないよう警戒するだけ…
「おぬしら、2対50じゃぞ。負けるんじゃ―――む!」
老いた侍が他の仲間らに檄を飛ばそうとした時、視界の端にターゲットに決めた市ヶ谷が走って離れていくのが見えた。
誘っているのか、逃げているのか―――どちらにせよ追いかけない道理はなく、言葉を切りすぐさまそちらに向けて駆け出したのだった。
志津香と魅雷も同様にそれぞれが別方向に動き出し、精鋭二人が追う形で離れる。
結果、その場には冬樹と疋田、そして大量の後鳥羽の部下が残された。
「…まさかこの俺が雑魚狩りとはなぁ」
「まあいいじゃん。案外ストレス発散になるかもよ?」
「……まあいいか。やるわ」
指名されなかった疋田はやや不満げである。
鷹森班の俺が、まさかその他大勢の処理をさせられるとは…なんて内心思っていた。
しかし後鳥羽の部下たちはモブでもその他大勢でも、ましてや雑魚でもない。
だからそんな二人の態度に怒り心頭だった。
「お前…特対だからっていい気になってんじゃねーぞ!」
「…あ?」
「この人数差で、よくそんな余裕がこいてられるなぁ、オイ…」
後鳥羽の部下たちの発言は当たっていた。
いくら特対に入れない能力者といえど、人数の差は勝敗において大きなアドバンテージとなる。
ましてや後鳥羽の集めた能力者は、彼が自ら品定めした精鋭。その戦闘力は特対職員にも引けを取らない。
この状況で舐められる道理はないのだ。
それでも…
「2つ…言いたいことがある」
疋田が切り出す。
2本の指を立て、相手に見えるように掲げる。
「あぁ? 何だって…?」
「1つ、この態度は特対だからってわけじゃねえ。俺だからだ」
「はぁ?」
「そしてもう1つ…"この人数差"って、どの"差"のことだぁ…オイ―――」
瞬間、疋田から凄まじい泉気が噴出し、後鳥羽の部下たちは目を覆う。
それは突風にも似た勢いの強い波動。
そして気の奔流が収まりようやく目を開けることができるようになると、そこにあったのは…
「あ…れは…?!」
「ウソだろ…?」
「おー、兄さんやるなぁ」
彼らの視線の先…遠くの空にはおよそ50隻の大小様々な戦艦が浮いていたのだった。
小…とは言っても、それは戦艦スケールの小であり、そのサイズは1隻でも後鳥羽の部下全員が集まっている面積を軽く凌駕する。
そんな巨大な船が彼らと同じ数現れ、砲塔はもれなく敵に狙いを定めていた。
最も中心にある戦艦の一番先端には疋田が腕を組み仁王立ちし、米粒くらい小さく見える後鳥羽の部下たちを確認し呟く。
「相手にとって不足ありだが、塚田には感謝しねえとな…」
やっと自身の能力の"半分弱"の性能を引き出せたことに満足し、このフィールドに足を運ぶきっかけとなった卓也に心の中で礼を言った。
疋田の【雄弁の戦艦】は130隻の戦艦を召喚し使役するという能力である。
しかし彼はこれまで一度としてフルでその能力を発動させたことが無かった。
それもそのはず。1隻でも特対本部やピースで船を召喚すればたちまち建物は崩壊し多くの犠牲者が出てしまうからだ。
そのため特対には『大砲や機関銃を作り出す能力』と、"超超過少申告"していた。(それでも強いが)
同じ班の仲間には一度だけ、特対所有の無人島を訓練と称して借り、何とか1隻だけ見せたことがある。
だが本来はこれだけの制圧力を持った能力だという事を、班員たちは知らない。
そしてそれは、本人も例外ではなかった。
「いい天気だなアルマダ。こりゃあ帰りも心配なさそうだ」
光輝の影に隠れているが、疋田もまた怪物である。
いつも見てくださりありがとうございます。
仕事がごたついてて遅れたー…




