32 2点のズレ
P-1
私は人間の醜い部分ばかりを見てきた。
強欲、色欲、嫉妬、憤怒…いや、ヒトの罪は七つでは足りない……
いつの時代も醜く汚らわしい核に、肉と皮が付いただけの存在。
それが私にとっての人間だった。
だからなのか、それともそれが私の本質だったのか
いつぶりかの適合者である璃桜を、私は溺愛していた。
本性が出るという今際の際において尚、両親を気遣い笑顔を見せる優しさと―――
芯に熱いものを秘めたその気高き魂に―――
それは彼が歳を重ねても、変わることは無かった。
私にとって人間の寿命など一瞬だ。
だから可愛い可愛い璃桜が天寿を全うするまで、彼が幸せで居続けるよう努めた。
私の持つ権能や知識は可能な限り全て与え、璃桜がやりたいと言ったことには頼まれずとも助力した。
そうして彼の地位も力も、盤石なものとなったのだった。
しかし同じ組織にいる童女もその気になればすぐにでも消し去ってくれるというのに、璃桜は頑なにそれを拒んだ。
自分でやるからと言って聞かない。
まあそんなヤンチャな所も可愛らしい。
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G-1
両親から、俺が幼い頃に病気で死にかけた話は何度も聞いた。
だがその時の事は正直それほど覚えていなかった。
確かに生活するのに不自由していたような気はするが、それはいい。別に苦しいときの記憶なんて忘れているに越したことはないからな。
幼い時の記憶で鮮明に覚えているのは、俺が初めて能力を使った時の事だ。
今も忘れない。手が熱くなり、熱くて熱くて、その熱を逃がそうと手を前にかざした時、炎が出た。
最初はマッチのように小さい火だった。しかも数回使っただけで疲れるような燃費の悪さだ。
だがそれを毎日何度も続けるうちに火は段々と大きく強くなり、力の消耗も少なくなっていった。
俺は能力と共に気持ちが昂っていくのを感じた。
これが俺の力。俺だけの力。
泉気のおかげで同年代や上級生にだって喧嘩で負けたことがない俺は、大人にだって負けない能力を得たんだと興奮した。
『後鳥羽…璃桜くんはいらっしゃいますか?』
程なくして超対というところから使いがやってきて、ピースという機関に入るようスカウトされる。
俺はそこでもトップの成績を維持し続け、さらに上の組織である特殊公安部にまで辿り着いた。
気分は最高だった。
実力が認められ、みんなに尊敬され、とことん上まで駆け上る高揚感と達成感。
もちろんまだまだ上には上が沢山居るが、今に追い抜いてやると意気込んでいた。
だから
『私はフェニックス…貴方の霊獣です』
俺は、初めてフェニックスが現れて
『私の気に充てられ覚醒したのでしょう―――』
俺の身に起きた出来事に理由をつけるのを聞いて
『私の権能を以てすれば人間など容易く―――』
―――ひどくガッカリしたのを覚えている
人間というのは、力があればそれを試し、誇示したがる生き物だ。
何もそれは腕っぷしだけの話じゃない。学力・技術からセンスに至るまで、あらゆる力を計り、それが優れているのだと声高に誇る。
なら俺の力は―――
どこからどこまでが―――
俺の力なんだ―――?
いつも見てくださりありがとうございます。
よう実発売まであと1か月を切ったなぁ
たのしみすぐる




