31 不死鳥の正体
「攻略法って……そんなものがあるんですか…?」
駒込さんが信じられないといった表情で聞いてくる。
ここまでの俺の話を聞いただけでは、とてもじゃないが人間にどうこうできるレベルを超えてるように思えただろう。
まあ、実際そうなんだが。
「そんな大層なもんじゃないですけどね。まだ知らない相手の手札があれば簡単に覆る…そんな程度の手段です。けど、試す価値はあります」
観察をしたおかげで見えてきたものがある。
相手の特性。フェニックスという怪物の能力の正体が。
「いきなり手段だけ話しても分かりづらいから、まずは俺が戦ってみて分かった相手の能力の説明をします」
「お願いします、塚田さん」
先ほど伝えたのはただの事実。
そしてここからが考察だ。
「…まず、フェニックスの能力ですが……【不死・不死身・蘇生】といった能力…ではないと考えます」
「え…」
いきなり俺の口から飛び出した"フェニックスという存在の象徴"を否定する言葉に駒込さんが驚く。
だが否定したいわけではなく、"過程"の話がしたいだけなのだ。
「フェニックスはおそらく『時間の回帰』か、それに類する能力だと考えます。結果としてそれが後鳥羽を不死たらしめていると仮定すると、他の現象も含めて一番しっくりするんです」
「時間の回帰…敵は肉体が蘇生するのではなく、"元の状態に戻った"と…そういうことですか」
「そうです。そう思う根拠を話します」
理解が早い駒込さん。説明が捗るね。
「まず最初にして最大の違和感が、俺が後鳥羽の泉気を封じた時です」
「その時からですか…」
「はい。直後にヤツはフェニックスと融合し俺を迎撃したのですが、その時『後鳥羽自身の泉気も戻っていた』んです。死んでもいないのに」
あの時は確かに後鳥羽とフェニックス、両者の気が混じっていた。
「それが…違和感なのですか?」
駒込さんはよく分からないといった様子だ。
『死なずに泉気が戻ったこと』と『時間の回帰』が結びついていないのだろう。
これを…この感覚を全て駒込さんに伝えるのは難しいな。
「まあ、テレビゲームとかをやると当たり前になってくるんですが…"毒"とか"混乱"とか"麻痺"といったいわゆる状態異常になっても、"死"から蘇ると大抵ぜんぶチャラになるんですよね。それほど死という異常は重いということを表しているんでしょうけど」
「そんなものなのですね…」
「ですね。でも後鳥羽の場合は死んでもいないのに泉気の停止から復活した。だから違和感を覚えた。でもその時は『ああ、そんな効果を持っているんだな。無力化の手段の一つが潰されたな』とすぐに割り切ってしまいましたけど」
「早いですね…切り替え」
「命がけでしたからね」
まだフェニックスの存在もちゃんと認識していなかったし、いつまでもそのことについて頭を悩ませている余裕は無かった。
「次の違和感は、倒す手がかりを探るために何度もヤツを殺している時でした。死んで、炎に包まれ、力が増して復活する…と、基本はこのサイクルで回っていたんですけど、ある時から"衣服に汚れ"が付いているのが分かったんです」
「汚れ…ですか? まあ、それだけやり合えば普通は…と思ってしまいますが」
「ですよね。でもそれ以降は復活する度に、どんなに全身が汚れても、同じところ…そこだけに必ず汚れがあったんですよ」
「……確かにただの蘇生とは毛色が違いますね…」
「でしょう?」
俺の言いたいことが少しづつ分かってきた駒込さんと違和感を共有できた。
「それで俺、どこの時点で付着する汚れが残り続けるのか試すことにしたんですよ。何度も殺しながら。そしたら…」
「そしたら…?」
「炎に包まれて復活して、後鳥羽の"体全体を泉気が覆う"直前でした」
「そんなタイミングで」
「これもおそらくですが…ていうかここまでほとんどおそらくなんですけど、ヤツは復活した直後の状態を保存しているのだと思います」
「状態を保存?」
「ええ。だからさっきは『蘇るたびにパワーアップする』と説明した能力も変わってきます」
死ねば死ぬほど強くなる、という結果に変わりはないが、そのプロセスは若干異なる。
本当は…
「死んで蘇れば一度だけパワーアップする、という能力を、状態保存をすることで永遠に上昇し続けるようにした…これがヤツの無限パワーアップのからくりでしょう」
本来なら一度パワーアップしてもそのあと死ねばパワーアップ前に戻る。そして復活してまたパワーアップ…という繰り返しなのだと思う。
それをパワーアップ状態を次に引き継ぐことで永遠と強くなる仕組みに変えた。
保存に泉気を大量に要するからなのか、全身を気が覆うタイミングというのが状態保存の直前ということの裏付けになっている。
後付けで後鳥羽が何かしたのか、本来備わっているフェニックスの能力なのか。それは分からない。
『死ぬほど強くなる能力でいいじゃん』と思うが、それは人の範疇から逸脱しすぎないためのストッパーとなっているのかもしれない。
とにかくそんな仕組みのおかげで、付け入るスキが出来た。
「そして最後に、敵はユニコーンを封印する際に【時回廊】と言っていました。まあこれはモロですよね」
「ははは…」
「まあこのワードのおかげで、遡って考察することが出来たと言えます」
脆く歯抜けだらけ、外的要因であっけなく千切れそうな一本の線が繋がった。
そしてそこから導かれる攻略法。
「それで塚田さん、そこからどう攻略するのですか…?」
「はい。ここからは火実たちも良く聞いてくれ」
これまで黙って耳を傾けていた班員たちが俺の呼びかけに頷く。
細かい条件はいくつもあるが、骨子となる部分には彼らの協力がいる。
いやむしろ彼ら無くしては成立しない。
「ではこれから、【詰みセーブ大作戦】の内容を伝える」
このハレルヤチャンス、ものにしてみせる。
いつも見てくださりありがとうございます。
モンハンワイルズ欲しくなっちゃった…。
PS5もスペック高いPCもないけど…。




