28 恐怖に極振り
「ボス!」
真っ先に反応し声を上げたのは後鳥羽璃桜の部下、ノアだった。
先ほど二人で姿を消し、そして慌てた様子もなく後鳥羽が戻ってきたのを見て“勝ちを確信”し、笑顔を見せる。
長きにわたる戦いの軍配が自身のリーダーに上がったのだと喜んだのだ。
対して、駒込班はその逆。原理はまるで分からないが、何処かへ消えた二人のうち卓也だけがこの場に戻ってこない事を受け、班員たちは敗北を察した。
先ほどまで互角か、卓也優勢で進んでいたにも関わらず、消えてから短期間で後鳥羽が勝利し帰還するという事実は信じがたい…。が、目の前の結果だけを見ればその事実を飲み込むほかなかった。
そして心にわだかまりを残すも、部下から一通り労いの言葉を受けた後鳥羽は残された僅かな時間で駒込班の後始末をするため近付く。
「…………お前たちの大将は敗北した。大人しく投降すれば命までは取らないが、どうする?」
温情措置。
特対以外の能力者同士の戦いにおいて、殺されずに勝敗が着くのは恵まれている。
ましてや駒込班は今や各々が強大な戦力を有しているため、このまま後鳥羽陣営に取り入れば好待遇も期待できるところ。計算高い者であればすぐにそう解を導くであろう。
当然特対の道は絶たれるが、ここであえなく殺されるよりかは―――そう思う者も多くいるハズだ。
しかし彼らは…
「どうするもこうするもねえ。最後まで戦って死ぬ。それ以外になにがあるってんだ」
「投降も、黙ってやられるつもりもありません」
火実と才洲が真っ先に答える。そして消耗しながらも戦いの構えを取った。
瀑布川も、何も言わないが構える。自身にありったけの戦闘用技能を張り付け、一秒でも長く抵抗する姿勢を見せた。
皆川は…皆川もみんなと同じ答えだが、家族の事を思うと他の班員よりも前のめりではいられなかった。
卓也に力と根性を鍛え直してもらった皆川は、ここからかっこいい姿を子供に見せて失った威厳を取り戻す…そう画策していた。卓也からも一段落付いたらそうしろと言われていたのだ。
それが叶わなくなりそうだと感じたが、それでも投降は考えない。
また、皆川のみならず班員の共通認識として『こんな時、副班長だったら"迷わず投降しろ"と言うだろうな』と感じていたが、そうしなかった。
それはやはり卓也があそこまで必死に戦ったのに、自分だけが潮目が変わったとたんに逃げるなんてありえない…と思ったからに他ならない。
後ろめたさからでは決してない、生き様の問題である。
皆川は『ここで逃げて、再び家族に胸を張って顔を見せることが出来るか』と自問し、『否』と感じた。
入念に用意された今回の襲撃…おそらく"父は最後まで抵抗して散った"などという情報が子供に届くことはない。
一瞬で灰にされ、表向きは【試験中に行方不明】となるだろう。そのまま何十年経っても子供や奥さんが真実に到達することはない。
それでも"義"を取る無責任な父を許してくれと、心の中で謝罪した。
「戸川さんは無理して私たちに着いてこなくていいですよ?」
「そうそう。一応駒込班のゴタゴタに巻き込まれちまっただけだからな」
瀑布川は一見突き放すような言い方だが、そんなことはない。
今回何度か助けられた事には感謝しているし、最初から襲撃に備えていた自分たちと違って、結果的には突然巻き込んでしまった事を申し訳なくも思っている。
一方の火実は揶揄うような、ほとんど答えを知っているかのような口ぶりで投降を促した。
それを受け戸川は苦笑いを浮かべながら答える。
「いやいや…ここまできて無関係はないでしょう。水臭いって」
先ほどのノア達への抵抗で覚悟は決まった。今さら逃げるはない。
彼も最後のあがきを見せるため泉気をみなぎらせ、周囲の鉄を集めて槍を作った。
「後悔しても恨み言は聞かないからな?」
「言わないって。それに案外この”刺し穿つてつのやり”が不死鳥の弱点かも知れないぜ」
「命中する遥か手前で溶かされますよきっと」
こんな状況でも軽口を言い合う若手職員候補たち。
もはや恐怖から来る硬直など微塵も感じられない、戦闘において理想とする精神状態だった。
とはいえ、あとは焼き払うだけ。
コンディションや覚悟や意気込みなど霞むくらいの圧倒的力を有し、なおかつ時間の無い後鳥羽だが…
「お前ら、何故そんなにヤツに心酔してやがるんだ?」
理外の質問をぶつけた。
これにはノアたち部下も驚きの表情を見せるが、指摘する者はいない。
「まだ会って間もないだろ、ヤツとは。洗脳でもされてんのか?」
「…? なんの確認だよ。だとしたら何だ? 俺たち敵同士だろうが」
「……そう、だったな」
火実に至極当然の指摘を受け一瞬止まる後鳥羽。
これまで対峙した相手にも手心を加えることはあったが、相手の心境を探るような質問をぶつけたのはこれが初めてだった。
「洗脳だろうがなんだろうが、俺たちは降伏はしない。来るならさっさと来い」
「…覚悟は固いみたいだな…それなら」
しばらくのやり取りの後、完全融合した後鳥羽の手に火球が5つ発生する。
そして手を振りそれを発射しようとした時、後ろで異変が起きた。
アルファードがヴォクシーの名を叫んだ。すぐにそちらを向くと、ヴォクシーが体中から血を噴き出して倒れるのが見えた。
そしてその後ろにいる異形の存在に嫌でも目線が吸い寄せられる。
「…キサマは……!」
紫色の甲冑を纏い再び目の前に現れたのは、まぎれもなく先ほどまで対峙していた男…塚田卓也だった。後鳥羽にはそれが実感できた。
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とある日の修行中
「なあ琴夜」
『はい、なんですか卓也さん』
「琴夜と融合してもユニみたいな変化はないんだな」
位相を変えた自宅庭での一幕。
琴夜と完全融合した卓也は、彼女のシンボルカラーとも言える紫色に髪が変化し、体から大量の沼気を放出している。
しかし卓也の言うように、見た目の大きな変化…例えば角が生えたりなどはしていなかった。
そのことについてふと気になって投げかけた卓也の疑問に琴夜はさらっと返す。
『そりゃそうですよ。私には霊獣みたいな角とか牙とか翼みたいなシンボルはありませんからね』
「そうなんか。でもこの前の黒い翼は…」
『あれは私の"沼気の具象化"で作ったに過ぎないので、自動で出るわけじゃないんです』
「なるほど…そういうもんか」
納得のいく説明に卓也が手を顎に当て何かを考えこむ。
そして少しして…
「じゃあさ、完全融合した時に変化する姿を決めておくってのはどうだ? なるべく相手をビビらすヤツでさ」
『……いいですね、それ!』
「だろ?」
完全な悪ふざけ。
予め使う武器を具象化するとか、移動に特化した形態の考案といった効率は二の次で、趣味全開の提案が次々と湧いてきた。
しかしそれも仕方がなかった。上位存在と融合してなお効率的運用が求められるような相手など想定していなかったのだ。
『ベタに大鎌とマントはどうです? で、口上で"俺の姿を見た者はみんな死んじまうぞぉ"って』
「うーん…ちょっと喋りすぎかなぁ…。もっと底冷えするような…例えば落ち武者みたいなさ」
『えー、もうちょっとカッコよくしましょうよー』
「じゃあ…かくかくしかじか―――」
『あらほらさっさ―――』
こうして相手をビビらすアイデア出しが行われた結果…
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「…あれは……誰なんだ?」
一番離れている駒込班の面々は、突如現れた甲冑の騎士に後鳥羽たち同様驚いていた。
顔は兜で隠れ、T字に開いた部分からでは顔を確認することが出来ない。確認できないよう沼気で覆っているので、距離は関係なく誰も分からなかった。
背中には剣や槍などの武器がフワフワと浮いており、手の部分も鋭い爪がこしらえてある。
殺意が高いその見た目と暗い紫色、そして漂う謎の気(沼気)を見て、駒込班の面々はただただ不気味さを感じずにはいられなかった。
「てめぇ…よくもヴォクシーを…」
血を噴き出し倒れたヴォクシーの近くにいたアルファードは、目の前で仲間がやられたのを見て怒り、すぐさま戦闘形態へと変化した。
湧き出そうな恐怖心を怒りで塗り替え、飛びかかろうと足に力を入れる。
しかし…
「許せね―――ガっ!?」
彼が飛び出すよりも早く騎士の手が発射され、アルファードの喉元を掴んだ。
そして手から直接沼気を(死なない程度に)注入されたアルファードもまた、ヴォクシーと同じく体から血を噴き出し地に伏した。
それを見ていたノアたち部下三人は完全に戦意を失う。
完全なる想定外。
姿かたちが、戦力が、正体が
全てが謎に包まれた殺人マシーンが、まるで流れ作業のように近くにいた人間を血祭りにあげていっている。
唯一分かるのは、自分も立ち向かえば"ああなってしまう"という事だけ…。
倒れた仲間と騎士を交互に見て、足が地面に張り付いた。
「……塚田ァ!」
この中でただ一人怖気付かずに対峙できたのは、完全融合した後鳥羽だけだった。
正体が卓也であることも確信し、それを口にする。
ただでさえ相手が霊獣使いだったことが想定外なのに、2体目の霊獣を有していたことにはさらに驚いた。
しかし湧き出る多くの疑問を封じ込め、代わりに熱線を発射する。
さっさと始末するために。
「おっと…」
凄いスピードで迫りくる複数の熱線は、同じく空中に複数発生させた盾で逸らせた。
ユニのシールドほど頑丈ではない沼気の盾だが、使い方次第で卓也の身を守ることは問題なくできる。
琴夜は自信をもって具象化した物質を操作し、第3ラウンドを始めようと構えた。
ところが…
『限界です! すぐに帰還します!!』
もう確認や同意など得る暇すら与えず、フェニックスが後鳥羽の体の主導権を取ると"羽"を使い、飛んだ。
部下たちを一人残らずアジトに運んだのである。
その見切りの速さに拍子抜けする卓也。
しかし、証拠を残さないため結界装置をフェニックスが回収したことで空が本来の色を取り戻すと、卓也は急いで融合を解除し支給されたデバイスを班員たちに返そうと動く。
こうして、後鳥羽の一度目の襲撃は痛み分けに終わった。
いや、ユニを封じられた卓也にとっては『何とか撤退させた』というニュアンスの方が相応しいのかもしれない。
それでも、強力な霊獣使い相手に班員の一人も犠牲が出ずに済んだことは上出来であったと、卓也は安堵するのであった。
いつも見てくださりありがとうございます。
財布を新調しました。
けっこう物持ちがいいので、前のはなかなか綺麗な状態でしたが
お金が逃げるとかなんとか言われたので、同じブランドのを購入。
まだ違和感
というか、軽い…




