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【現実ノ異世界】  作者: 金木犀
【卓也VS廿六木VS後鳥羽 下】
380/417

27 エンダー

「全員を葬送って…何を言っているんだ……? それに責任てなんだ?」

『………』


 俺はヤケになっている琴夜に向かって質問を投げる。

 しかし答えは返ってこない。決意を固めた漆黒の瞳だけが俺を捉えていた。


「…………一旦落ち着こうか、お前も、俺も。そもそも、人類全滅って、そんな事どうやって実行するつもりだ?」


 俺は話を少しだけ逸らし時間を稼ぐことに。

 本当は猶予などないのだが、今の琴夜にはやると言ったらやるスゴ味を感じる。

 下手に刺激して即実行なんてことになったら目も当てられない。

 それに手段を知っておけば、止める方法も見つかるかも…なんて淡い期待を込めてみたり。


 質問から少しして、琴夜はやっと重い口を開いた。


『……コレです』

「これは………笛…だな」


 白く綺麗な、まるで血の通っていないような小さな手のひらの上には黒い横笛が乗っていた。

 所々欠けているのに年季を感じるが、なにより特筆すべきはこの濃縮された沼気にある。

 笛に沼気が込められているのではない。沼気が笛の形に固まったと言ったほうが正確だ。

 市ヶ谷が黄泉で譲り受けたナントカって刀…存在としてはアレに近いだろう。


「これがその…葬送の道具か?」

『はい……。名を”夜明けを告げる笛“と言います。これから私が全力で吹いて、まず北半球の人類を葬送します』


 広っ!

 聞いたことないぞ、射程距離:北半球なんて…。どんな漫画でもだ。

 だが、にわかには信じ難いものの、本物だった時を想定して話を続けることにした。


「…そんなに凄い範囲の攻撃に力を使ったら、疲れるだろう?」

『そうですね…次の使用まで10分は休まなくてはならないです』


 クールタイムみじかっ!

 そんなホイホイ連発できるんかい。

 参ったな。ガチで殺しそうな気配がしてきたぞ。

 ここはしっかり説得しないと…


「………なあ」

『はい……』

「前に言ったと思うけど、勝手に葬送なんてしたらマズイよな? しかも全人類って、怒られるってレベルじゃなくなるぞ」

『…………』


 沈黙。

 以前はもっと冗談っぽく…というか、俺の為にやります! って息巻いていた。

 しかし今は思い詰められに詰められて、重い冷たい感情で話している。

 あの時とはワケが違うようだ。


「一体どうした? 何をそんなにヤケクソになってるんだ?」


 思えば、ここ最近は後鳥羽対策に夢中でこの娘に気をかけてやれてなかったかも知れないな。

 だからこんなにも思い詰めている。何かに駆り立てられているのだ。

 今からでもそのケアをしないと、先に進めない。

 そう思った俺は火実たちの無事を信じつつ、しっかりと話を聞くことにした。


『………………って』

「…?」

『だって…私は役立たずの、ダメダメだから…』


 振り絞るように出した答えは、自らを貶めるような言葉だった。


「何がダメダメなんだ?」

『先日の夢の能力の人から、私は卓也さんを護れなかったから…』

「あぁ…」


 何かと思えば、俺の夢で色々やってたという能力者の件か。

 確かあの時の俺の見張り当番が琴夜で、俺にかかっている能力に気付けなかったとかで気にしてたっけ。

 でも、まだ引きずってたのか…とっくに割り切っているものだと。


『…主人を護れない私なんて……』

「いやでも、ユニも気付けなかったし、仕方ないんじゃないかってなっただろう。殺傷目的の能力でない場合、気付きづらいって言うし」

『…でも、その日の夜も私、卓也さんの寝顔が可愛くて……ほっぺたをつついたり、手を握ったりして…。そんなピンチだったにも関わらず私………』

「…………」


 それは敵に襲われてなくても止めてくれ…


 まあでも、こうなっている原因は分かった。

 俺が下手したら死んでいた場面に見張り役をやっていて、スルーしていたどころか呑気していた自分を悔いていたと。

 それも今日までずっと。


 志津香と水無雲が捕らえた能力者に何をやっていたか吐かせた時にも、一応気にするなと声をかけたのだが。

 それでは足りなかったということか。


「それで、俺の脅威となりえる人類そのものを滅ぼそうと?」

『…はい』

「ちなみに、その笛を吹いてる琴夜の真横にいる俺はどうなんの?」

『……葬送されます』

「そうか…」


 まあそうなるよな。

 なんなら順番的には一番最初まである。一番近いし。

 早々に葬送…。さて、どうしたもんか…


 いや、どうもこうもない。

 今ここでなんとかしなければ、火実たちも、いや全人類を助けられない。

 それにユニと同じで世話の焼ける可愛い俺の契約者を、いつまでも曇り顔にさせておくのは忍びないしな。


 こっちもかなり照れくさいが、やるしかない…!

 決意を固めた俺は解決に向けて話を始めることにする。



「……俺は二人に護ってもらえて、果報者だという自覚は十分にある。だが日頃から感謝を十分には伝えられていなかったかも知れない。そこは申し訳なかった。いつもありがとう」

『……』


 顔を伏せ、再度膝を抱えて座り込む琴夜の正面に立膝をつくと、彼女の両肩を強く掴む。

 そしてハッキリと日頃の感謝を伝えた。

 超常の存在に、それも二人に毎晩交代で守護してもらう。もしかしなくても超安心のサポートだ。

 ミサイルが飛んできても生き残るだろう。

 そのことに不満などあろうはずもないのだ。


「君には黄泉から出るための助けにもなってもらったし、ネクロマンサーとの一件でも、他の誰にも出来ない“死者を見分ける”というサポートで助けられた。君が居なかったら、俺はただの傍観者で終わっていただろう」


 もしかしたら西田からの最期の言葉も貰えず仕舞いだったかもしれない。

 あそこまでネクロマンサー事件に深く関われたのは間違いなく琴夜のおかげだ。

 抑制剤で消して判別するのではなく、ただ観て分かる。

 これのおかげでプライムライブ好きの少年たちとも仲良くなれたし、飛行能力で尾張の元にも最短で飛んでいけた。


 感謝しかない。

 だからどうか自分を卑下するのはここまでにしてほしい。

 それを今から伝える。


「俺の感謝なんてもらっても、自信にはなんの足しにもならないかも知れないが―――」

『そんなことありません!』


 ようやく声に少しパワーが戻った。

 顔はまだ下を向いているし、発せられたのは否定の言葉だが、それでも半歩前進だ。


『卓也さんは…凄いです。私と会ってからも、会う前も、色んな事件に関わって、解決してました』

「はは…。師匠や志津香にも言われたけど、以前の俺は失う物がない”無敵の人“だったからな…。それで色々無茶して、結果的には良い方に転がっただけさ」

『それだけじゃないです…。初めて会ったときも、私の悩みなんてすぐ解決してくれて』

「家の蔵でのやりとりか。懐かしいな」


 出会った時の琴夜も、今みたいに泣いていた。

 仕事をする上で葬送する相手の"最期の顔"を見るのが嫌だと泣いていたのだ。

 黄泉の国の総務職員である葛さんも言っていたが、彼女は優秀なのに性格が優しすぎるため活かしきれない。

 ノリに乗れればそのポテンシャルを遺憾なく発揮できるのに、それが中々難しかった。


 だが俺と一緒に行動するようになって、実力の片鱗も彼女の人となりもかなり分かってきた。

 彼女に足りないのは自信。だが自信の無い人間に"自信を持て"と言っても意味がない。

 自信はある程度の成功体験によって自発的に積みあがるものだと思っている。


 中には成功しても自信が持てない人や、なんの実績も無いのに自信だけある人もいるが。

 いざという時に力を発揮するのは後者の人間だったりもする。それくらい自信は行動にとって大切な要素だ。

 俺の言葉で目覚めるかは賭けだが、やるしかない。今こうしている間にも表では班員たちがピンチなのだからな。

 躊躇っている暇はない。


「なあ琴夜。例えばな」

『…』

「もしあの時、君の悩みを聞いた上で…『最期の顔を見るのが嫌なら、先に顔を切り落としてから葬送すればいいじゃん』って俺が提案したら、どうした?」

『………………え?』


 少しの沈黙の後、顔を上げて目の前の俺を見る。

 目を見開き、何を言っているのか理解できないと言った表情をしていた。


『それって…どういう……』

「今でもいい。そんな提案をするような男と関わりたいと思うか?」

『それは…えと……いえ。怖いと…思います』

「だよな。俺もそう思う。それは―――」

『同じ…ですよね。今の私と。すみません…とことんダメで……私』


 俺の意図を汲んで先回りして謝る琴夜。その表情は暗い。

 役に立たない自分がせめてもと提案したことさえ間違っていた。

 その事実が彼女の表情にさらに暗い影を落とす。

 だが俺が言いたいことはそこじゃない。今から一緒に頑張ろうということだ。


「琴夜はダメじゃない。それは俺が一番分かっている」

『いえ、いいんで―――』

「だが自覚は足りないな」

『……自覚?』


 現実でもまだしたことないのに、死後の予定が決まる。

 そんなこれからの事に期待と不安が混じるが、不思議な感覚だった。

 どうなるかは分からない。でも進むしかない。


「君は俺を…閻魔大王にしてくれるんだろう?」

『…………………え』

「閻魔大王の嫁なんだから、些細なことで狼狽えるんじゃない」

『え…? え? ええ!?』


 突然のプロポーズみたいなことに驚く琴夜。

 目線だけでなく首を左右に振って分かりやすく慌てている様子だ。

 そんな彼女の両肩から手を放し、今度は両手で頬を掴むとまずは両方の親指で涙を拭う。

 そして目にかかっていた髪の毛をずらして、紫紺の瞳をじっと見据える。


「なんだ? この前のは、やっぱ冗談だったのか?」

『え…でも、その! いいんでっか?!』


 動揺して噛んで関西弁のようになる。

 頬を赤く染めてあたふたして、そんな様子だけでもおかしくなってしまう。


「もちろん君みたいな優しくて綺麗な娘が奥さんなんて、男冥利に尽きるだろう」

『あ…あのっ、でも』

「だがこのままじゃダメだな、きっと」

『え…?』

「俺は志半ばで敗れ、君はヤケになって人類滅亡…。それで君のお父さんはなんと言うだろうか?」

『……』


 真剣に考えシミュレートしているのが目に見える。

 暗い雰囲気から一転、本来のお転婆さが出始めていた。

 そして、いくら現実世界の約束ではないとはいえ、やはり純真無垢な娘を騙しているような気分になる俺。

 しかしもう後戻りはできない。後戻りする道はいらないのだ。


『すみません卓也さん…。私、どうかしていました!』

「うん。それで?」

『まずはここを出て、さっきのやつを二人で倒して、特対本部に帰りましょう!』

「そうだな。それにしても、随分と楽しそうだな」

『どうせ死んでから始まるなら、道中を楽しめってことですよね? 私もそうします!』

「よく分かっているじゃないか。とはいえ、楽な逃げ道はもう許さないからな?」

『はい!』


 俺の考えを理解して代弁してくれる。

 付き合いはまだそれほど長くないが、融合中などは思考がダイレクトに流れる分、理解も早いのかもしれない。

 一先ず人類滅亡の危機は回避された。俺の死後という些細な予定が埋まったくらいでその成果なら、上々だろう…うん。


『じゃあ、行きましょうか』

「ああ。急がないとな」

『融合します!』


 琴夜はふわりと宙に舞うと、俺の後ろに回り両手を前に回してきた。

 そして、班員たちのもとへ戻るため、完全融合したのだった。

















 __________________


















「覚悟は固いみたいだな…それなら」


 しばらくのやり取りの後、完全融合した後鳥羽の手に火球が5つ発生する。

 大将を失い心中を決めた火実たち一人ひとりを消し去るための数だ。

 不本意な気持ちを消化しきれていない後鳥羽だが、これで一旦終わる。

 また"次の機会"を期待して、この場を収めようと手を振り上げようとしたその時―――


「ヴォクシー!!!?」


 後ろから仲間が仲間を呼ぶ声がした。アルファードの声だ。

 いや、呼ぶというより叫ぶ方が近いその声量に後鳥羽が振り向くと、視界には胸を押さえ苦痛に顔を歪ませるヴォクシーの姿が写った。

 直後、口や鼻、目からも血が噴き出し、前のめりに倒れる。


 本当にたまたまだった。たまたま運悪く、"戻るポイント"の近くに彼女が居て、発生した高濃度の沼気に当てられて倒れた。

 そこには狙いや意思などなく、事実のみが残る。


「…キサマは……!」


 すぐに駆け付けて羽を使いたい後鳥羽だったが、それができない。

 突然現れた異物を警戒し、自身を臨戦態勢に切り替えることを最優先としたからだ。


『……………………』


 鈍く光る紫色の甲冑を身に纏った不気味な異物を見逃さないために、後鳥羽は動かなかった。


いつも見てくださり、ありがとうございます。


急に寒い!

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