24 生涯最後の
病めるときも 健やかなるときも ただ ずっと一緒に居たかった
「末路って、別にんなもん―――」
『ユニコーンは、そのあまりに人間本位すぎる便利な能力と、人の命が軽い時代・国で簡単に触媒を生成できた事から、幾度となくこの世に顕現し、人と契約していました』
興味無さ気に聞き流そうとする卓也に対し、フェニックスは半ば強引に話を進める。
後鳥羽も内心『水を差しやがって』と思っているが、それでも好きに話をさせた。
これが自分に利する行為だと信頼していたからだ。
「知ってるよ、んなこたぁ」
『では、宿主が必ずしも幸せな人生を過ごした"ワケでは無い"ことも教えてくれましたか?』
『―――っ!』
フェニックスからもたらされたのは、目を背けたい暗い過去。
ユニコーンが幸せに出来なかった人の話。ユニコーンも幸せにならなかった話だった。
『確かにユニコーンの権能は素晴らしい。呪いや病気はおろか、人間相手であれば傷付く心配も皆無でしょう。ただ、所詮は個人。強すぎる力があっても大成するとは限らない…。ある者は孤独になり失意の中で死に至り、ある者は力を恐れ契約解除。そういえば、たしか別の霊獣使いに狙われて家族を失った者もいましたねぇ』
『…』
『貴方もです、ユニコーンの宿主よ。この時代は霊獣使いだけでなく多くの能力者がいる。つまり貴方を殺す手段などごまんとあるという事…。例えば契約解除しないと宿主とその周りの人間が傷つくよう仕向けたりとかね』
「はぁ…」
ユニと卓也の信頼関係を逆手に取った手段を披露するも、卓也はここまで終始呆れたような反応だ。だがそれもそのはず。
フェニックスから語られた昔話は、どれも宿主の自己責任の範疇を出ない内容であったからだ。
上手くやれた者も、やれなかった者も、結局は宿主の技量次第。
所詮は献身的に尽くしたユニの力を上手く扱えたかどうかでしかなく、彼女に責任は無い。
しかし内容の整合性はそれほど重要ではなく、とにかく卓也に不信感を抱かせシンクロ率を下げることがフェニックスの目的であった。
そしてその目的は、フェニックスの思惑とは少し違う形で達せられた。
「…ユニ」
フェニックスの目的にすぐに気付いた事と、独自の死生観を持つ卓也には揺さぶりは一切通じなかった。
ところがユニの方は違ったのだ。
『そういう宿主が居た』事と、それを言わなかった事。そして先日の”夢を見せる能力者“から卓也を守れなかった事を気にして、その後ろめたさからシンクロ率が低下してしまった。
ユニにとって卓也ははじめて自身を相棒だと認めてくれた人間であり、自分も今までと違う関係性を築けると思っていたのに…それは独りよがりな願望だと思ってしまった。
純粋なユニの性格が、フェニックスの揺さぶりに耐えきれなかったのである。
『さぁ、璃桜。今のうちに――』
相手の出力が下がったのを見てフェニックスが反撃の合図をしようとした矢先、今度は卓也が口を開いた。
「じゃあ俺からもひとつ、いいことを教えてやるよ」
『…なに……?』
不敵な笑みを浮かべ、人差し指を立てて”1”を表現する卓也。
そのあまりにも強い自信の様子から、フェニックスも後鳥羽も訝しげに卓也を見た。
「知ってたか? 完全融合した状態で飯を食うと、霊獣も味が分かるんだ」
『………………は?』
少しの沈黙のあと思わず聞き返してしまったフェニックスだが、反応など気にせず話を続けた。
「最初は感覚が共有される延長で俺の好みがそのまま反映されているのかと思ったが、そうじゃなかった。例えば俺はヒレカツが好きだが、ユニはロースカツの方が好きだったからな」
『…何を訳の分からないことを―――』
「はは。やっぱり知らなかったんだな。ユニも知らなかったしな、これ」
「何が可笑しい…」
フェニックスも後鳥羽も、卓也の意趣返しにもなっていない反撃に、得体の知れない何かを感じ取った。
あるいはどちらかの感情が伝播したのか、普通なら鼻で笑うところを、それができないでいた。
完全融合した状態で飯を食う―――普通はやらない"意味のない行為"。
それをこの戦闘中に自慢げに語る卓也の真意がつかめない。分からないから、警戒も当然の反応だった。
ここまで後鳥羽を追い詰めたような男がここにきて意味のない話をするのか?
時間稼ぎ? 本当に意味がない? だから何だ?
様々な感情がどちらかともなく発せられ、それが完全融合していることで共有されてしまう。
落ち着こうとするも収まらない鼓動。何故なら正体不明だから、解消しようがないのだ。
大丈夫(何が?) 大したことない(何が?) 問題ない(何が?)
ドツボにはまる。
だからそれを解消しようとしてしまうのも、仕方のない行為だった。
『さっきから貴方は何が言いたいのですか?』
「ふっ…分からんか」
訪ねると、そんなことも分からないのかと、笑う。
「ユニは特に焼き芋が好物でな。ちょっと良さげな安納芋とかあげると、うめーうめー言いながら喜んで食うんだ」
『だからそれがどうしたと言うので―――!』
思わず口を挟むフェニックスと、それを遮る卓也。
これはユニにあてたメッセージだから邪魔をするなと凄む。
「そのロクでもない末路を迎えたっていう連中も! 幸せに死んでいった連中も! 好物食って幸せそうにする可愛いユニの姿を知らないなんて、可哀そうだなって話をしてんだァ!!」
『―――!!』
言いたいことを言い終えた瞬間、卓也から凄まじい気が放出される。
正確には融合したユニから、途方もないエネルギーが溢れ、止まらない。
『こ…れは…!?』
シンクロ率100%超でも、パワーアップを繰り返した後鳥羽でも及ばない霊獣と人の真の力が、まだロクに権能を知らない状態の卓也から発せられているのだ。
「いいかユニ! 不安なら何度でも言うぞ! 俺はお前が契約解除してくれと泣いて頼むまでは、お前を手放す気はないからな!」
『うん…!』
「そして俺たちはもはや一蓮托生。俺の生き死にとかつまらんことでもう悩むな!」
『うん…! うん…!』
「黄泉までの道のり、付き合ってもらうぞ! ユニコーン」
『どこまでも一緒だ。死ぬまでも、死んでからも!』
卓也が後鳥羽たちも知らない情報を伝え、寿命という概念の無いユニコーンが生涯最後の宿主を決めた。
そして二人の力が、完全に相手を凌駕した。
「…あれはどういう事だ、フェニックス」
『そんな…初期状態の…癖に…!』
溢れる気に圧され距離を取った後鳥羽たちは先ほどから熱線を何度も放っている。もちろん手加減など無く、本気で焼き尽くすために。
しかしその攻撃は届かない。
卓也にも、卓也に纏わせたユニコーンのベールにも。
熱線は放出される膨大な気によって減衰し、その温度が卓也に届くことなく霧散する。
そして大事な会話が終わった二人は後鳥羽に向き、ゆっくりと歩きだした。
『く…!』
「止められるものなら止めてみろ。俺たちの絆に、敵うものがあるのならな」
「くたばれ!」
ゆっくりと、しかし確実に近づく卓也に後鳥羽の炎はまるで通じない。
シンボルが角だけの開示レベルの彼らに、限界まで情報を共有した二人の攻撃はまるで歯が立たなかった。
"上位存在"というだけありそのほとんどの関係に上下が付く人間と霊獣。
心を通わせたらどうなるか、そんな情報は広まっていなかった。
「何回も生き返るなら、何度でも分からせてやる…! 俺たちの、力を!」
「…舐めるなあぁぁぁぁ!!」
飛び道具が効かない卓也に対し、拳に炎を纏い突撃する後鳥羽。
命の危機ではない、久しく感じたことの無い敗北感を焼き尽くすように直接攻撃をしかけた。
しかし―――
「オラァ!!!!」
卓也の右ストレートが、後鳥羽の顔面に刺さった。
いつも見てくださりありがとうございます。
学園アイドルマスターにハマりました。
とはいえまだまだ最初のモードが抜け出せない新米故、頑張ります。
好きなキャラは…ことねとリーリヤとウメちゃんかな?




