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【現実ノ異世界】  作者: 金木犀
【卓也VS廿六木VS後鳥羽 下】
376/417

23 ユニコーンVSフェニックス その3

「はぁ!」


 掛け声とともに熱線が放たれる。

 衛星も含めて5本の紅い光が卓也に向けて、常人では反応する間もなく貫かれるほどの速度で向かう。

 しかし…


「―――っと!」


 卓也はそれを空中に発生させた盾を足場にして跳躍し回避する。

 そして跳躍した先にも盾を地面と垂直に発生させておくと、それを蹴って後鳥羽の元へと跳んだ。まるで水泳のスタートのように、上ではなく真横へ推進するために。


 常に視線は後鳥羽に向け、観察する。

 どこかに弱点はないか

 違う殺し方をすれば何か変わるか

 違和感はないか

 戦いの中で常にチェックをしているのだ。


 もちろんゲームの敵キャラのように『光る弱点部位』など存在しないものの、泉気の反応と復活の過程からフェニックスの能力の仕組みの一端を理解するに至る。


「ちょこまかと鬱陶し―――グっ!」


 盾の足場を飛び継ぎながら後鳥羽に辿り着くと、その喉をえぐる卓也。

 小さくうめき声をあげる後鳥羽。都合13度目の死により飛行していた後鳥羽の羽や金冠は粒子となって消え、地面へと自由落下していく。

 だが今回も体から発生した炎に包まれ、直後に服なども含め綺麗な状態で復活を遂げた。


(やっぱり、さっきの復活の時はあった"服の汚れ"が消えてる…。そして復活直後の気の膨らみ…まるで)


 復活した後鳥羽の様子を見ていくつかの仮説が立つ。

 それが弱点かどうかは現段階では分からないが、一定ではない変化に気付く卓也。

 その綻びが後鳥羽+フェニックスという怪物の脅威を解くに足るか、思考を巡らせる。


「オラァ!」


 復活直後の後鳥羽に空中からかかと落としを繰り出す卓也。

 当然避けられるが、地面は大きく抉れた。

 すぐさま避けた後鳥羽に迫り、殴り合いとなる。


(おかしい…)


 殴り合い…に見せかけた一方的な卓也の攻撃を見て、フェニックスが思案する。

 後鳥羽の全ての攻撃にカウンターを決めてみせる卓也。

 特対・特公仕込みの後鳥羽の体術はまるで通じていない。


(もう既にかなり能力の底上げがされているはず…身体能力だって…。なのに)


 一撃も当てられずよろけ、頭を垂れる後鳥羽の顔面に蹴りをかます卓也。

 しかし倒れずなんとか踏みとどまり、口と鼻から出る血を拭いながら卓也を見る後鳥羽。

 その表情は笑っている。


「ククク…」

「ははっ、頑丈じゃねーか、ええ? おい」


(そうか…、そういうことですか)


 お互い楽しそうに戦う様子を見て、何かを察するフェニックス。


(以前、璃桜の同僚の童女(廿六木)が言っていたことは本当だった。特公のトップ級ともなれば実力が拮抗する相手というだけで得難いもので、戦えば成長につながると)


 以前後鳥羽と廿六木が話していたことを思い出すフェニックス。

 お互いと卓也は自身の成長のための糧だという理屈。それは死ぬほどに強くなるスキルとは別の意味での話。

 それについて賛成票を投じるくらい実感するフェニックスだったが。


(しかしそれは…璃桜や童女だけではなかった…。この男もまた成長している…。つい先日まで一般人だったこの男が、特公を糧とし、羽化しようと…!)


 戦闘中に卓也も笑っているのを見て確信した。

 ユニコーンの盾があれば回避する必要のない攻撃を、途中から悉く回避していたのは、楽しんでいるから。

 後鳥羽の弱点を見極めているのと同時に、自分でもどこまでやれるか…盾は使うがただつっ立っているだけでなく、いつまで動けるか…。この土壇場で試していた。

 神経を研ぎ澄まし、全ての無駄をそぎ落とし、錬磨。


 地位が固まってからは後鳥羽の前に立つことさえ難しい能力者。稀に手ずから始末するため立ちはだかれば、懇願。

 圧倒的な力量の前に全ての相手は命乞いか諦めて無抵抗。

 対等に話をしてくるのは特公の一部の人間くらいなもの。


(この男は獰猛に襲い掛かってくる…!)

「おらよっ!」

「くっ…!」


 広範囲の炎をユニコーンの盾で防ぎ接近した卓也は心臓を一突きしたあと首を折る。

 二か所同時攻撃+奪った心臓を遠くに投げ捨て様子を見た。

 しかし、やはり炎と共に復活を遂げてしまう。



「これもだめか」

「……好き勝手やりやがって」


 吐き捨てるとともに気を膨らませる後鳥羽。ステータスはまたしても上昇する。

 しかし後鳥羽もフェニックスもある問題を抱えていた。

 それは『実力判定テストの時間切れ』である。


 いま卓也たち駒込班と戸川、そして後鳥羽達のいる結界。直径数百メートルとその上空を覆う大きなドーム状の決戦場。

 これは特対の技術開発局の傑作の一つとも名高い、【路傍の花園】という魔導具だった。

 範囲内で起きることに皆は無関心になり、入ろうとする者は興味を失い引き返す。

 撮影機器や能力的な観察までもが無関心となり、中で起こることは中に居る者しか分からなくなるという効果がある。

 普段使用者は対象を絞り、自分を巻き込む形で展開させるのが主な使い方で、人の多い市街地などでの犯人逮捕で活躍することが多い。


 その利便性から様々な組織が目を付けているが、特別な能力と設備が揃っていないと再現するのは難しく、非合法な組織は特対職員から奪ったり、劣化コピーを作成したりして使用しているというのが現状である。

 しかし特公に所属している後鳥羽がいま使用しているのは紛れもなく本物であり、効果や性能で劣る複製品ではない。それが自身を追い詰める要因となっていた。


『璃桜、試験終了までそれほど時間はありません』

(分かってんだよ、んなこと)


 技術開発局で作られる魔導具が特対で正式採用されるには"いくつかの条件"が存在するが、その中に『確実な対処法』というものがある。

 それは万が一敵に奪われ使用された場合を想定し、必ずどのように対処すればよいかのメソッドないしは"意図的に作られた弱点"を仕様書と同時に提出する必要があった。

『魔導具は完全無欠である勿れ』とは技術開発局の掲げるモットーである。

 これにはいつまでも満足することなく高みを目指せという意味の他に、人間が対処できないモノを対処できない状態で世に放つなという戒めが込められていた。


 後鳥羽の使った【路傍の花園】は正規品であるが故に、特対が解除することが出来る。

 実力判定テスト終了後も駒込班と戸川が戻らず、観測できない状態とあれば当然捜索隊がやってくるのだが、その時に【路傍の花園】が使われていることはバレてしまう(探知専門の人間がくる)。

 解除されるまでに退散しなければ本テストにとって異物である後鳥羽は追及され、セオリー通りの対応をするならば所属先である特公には抗議の文書が送られる。

 その後の対応は特公部長の汐入に一任されるが、決して後鳥羽の都合の良いようにはならないだろうことは明白だ。

 だから決着を焦り始めていた。

 1日もあれば完全に卓也を上回る力を手にすることができるのに、それができないもどかしさ。

 また、フェニックスには卓也に猶予を与えてしまうことで自分たちの脅威になるという、なんとなくの予感がしていた。


 だからこんな行動に出てしまう。



『ユニコーンのマスターよ』

「…ん?」

(おい、急にどうした)


 フェニックスは卓也の前にヴィジョンで現れ、語りかけ始めた。


「何か用か? フェニックスとやら」

『貴方は知っていますか?』

「何をだ?」


 襲撃を止め耳を傾ける卓也に、フェニックスは一呼吸おいてこんなことを話し始めた。



『ユニコーンのマスターとなった者の、悲惨な末路を』


 それは、シンクロ率を下げ戦力を削るための毒であった。


あけましておめでとうございます!


久々の更新になってしまいました。

親戚が来たり大掃除したり、飲んだりはしゃいだりラジバンダリ…

今年もよろしくお願いします。

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