22 ユニコーンVSフェニックス その2
「…………あれはなんですか? 才洲さん」
卓也と後鳥羽。二人の激しい攻防が繰り広げられているのを遠くに望みながら、瀑布川が才洲に質問をする。
このありえない状況について最も情報を持っていそうなのが特対職員である才洲だと判断したからだ。
その判断は正しい。実際彼女は班員の中で最も能力者歴が長く、実戦経験に富んでいる。
さらに他の班員は知らないが、才洲はピースに在籍していたので普通の職員では知り得ない情報を多く持っていた。
より強い職員にするために、今日までに蓄積されている能力者の世界の情報をある程度叩き込まれる。
しかし―――
「すみませんが今の状況は私の経験と知識をとっくに超えています。なので瀑布川さんの望む回答を差し上げることはできそうにありません」
上位存在を知る者は特対でもごく一握りのため、現在戦っている二人の見た目の変化やあり得ないオーラの理由を説明できる知識を、才洲は持ち合わせていなかった。
彼女は戦闘の様子を凝視しながら、瀑布川の期待に応えられなかったことを形だけでも詫びた。
「…そうですか。そうですよね。私こそすみません…」
「…ただ、状況の整理はできます。副班長は本来の能力とは別にパワーアップの手段、あるいは他の能力を持っていた。しかしそれは相手も同じで、二人のあの髪色の著しい変化からも読み取れます」
才洲の言葉を受けチラリと二人を見る瀑布川。
ただし確認したのは髪色ではない。
「…随分な切り札ですね」
「そうですね。二人の戦闘力は最早他者の加勢でどうこうできるレベルを超えています」
「ガジラVSメカガジラの足元にいる仮面ファイターが僕らってことかい?」
「…よく分かりませんが、それであっています」
女子二人の会話に割って入り、滑る皆川。
またしても通じないネタを披露し、流れを止めてしまった。
しかし三人とも呆れたり恥じたりする余裕がないくらい、緊張している。何故なら、卓也たちから漏れる余波や余剰エネルギーがすでに殺人的だからだ。
今も火実と、運悪く巻き込まれた戸川の、バリアと盾が守ってくれなければ致命的なダメージは免れないような状況だった。
「………」
「? どうかしましたか、才洲さん」
「いえ…」
ノアたちの方に視線をやる才洲に気付いた瀑布川がどうしたのかと尋ねる。
それに対して才洲は答えをはぐらかした。
本当は混乱に乗じてノアたち五人を始末しようとした才洲だったが、あまりの後鳥羽のオーラに気圧されてしまう。
恐らく襲撃の素振りを見せれば片手間でも殺される…そう思った才洲は卓也にやられ満身創痍のノアたちにとどめを刺しに行けなかった。彼女の誤算である。
そしてバカ正直にそんな理由を話すわけにもいかず、結果的に才洲は瀑布川の質問に曖昧に返答するしか無かった。
「戸川さん、やるな!」
「そういう火実くんも、すごいね!」
班員たちの先頭に立ってそれぞれ金属の盾と遅延のフィールドを張って防御を行う二人。意気投合していた。
火実は迫る炎の動きを止め、それそのものを炎や熱気を防ぐ盾に。戸川は融点を操作した卓也の槍を混ぜ込んだ分厚い金属の板を形成し、物理的な盾にする。
両者とも咄嗟に思いついたものだが、能力活用の有用性と伸び代を予感していた。
無論一点突破の後鳥羽の攻撃は防げないが、それは卓也がさせない。
少しでも意識を別に向けようとすればすぐに即死攻撃をする。そう立ち回っていた。
後鳥羽もこの状況でわざわざ班員を狙う理由はなく、結果的に余波さえ凌げれば途中で倒れることはないような状況になっているのだった。
「そんなに能力使い続けて保つのかい?」
「副班長に鍛えてもらったから問題ない。そういう戸川さんは、途中でへばるなよ!」
「当然!」
同じ死線をくぐっている最中の二人に芽生えた仲間意識。
お互いの今後に良い影響を及ぼすことになるだろう。
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「最強の盾はユニコーンで、矛はヤツ自身の体術ってわけか」
3度殺され復活した後鳥羽は炎の中から蘇りつつ、そんなことを呟く。
ユニコーンの防御能力と、それを身に纏いながらの卓也の攻撃は隙がない。
虎の子のフェニックスによる強力無比な攻撃は全て防がれ、自身の防御は全て突破される。
体術はかなりの差があり、殴打戦はやられる一方だった。
ここまでやられることは久しくなかった後鳥羽。
それでも表情に焦りが見えないのは、フェニックスの能力により半永久的に蘇ることに起因する。
しかも少しずつパワーアップして復活するというおまけ付きだ。
『最終的には勝つ』
そう信じて疑わないだけの破格の能力があった。
しかし、それとは別に本人も自覚していない感情が顔を覗かせていた。
「フェニックス。霊獣の情報を取得しないことで得られるメリットは何かあるか?」
興味、好奇心。
今まで神憑きではない…霊獣使いは自分一人だけだと思っていたところに、突如舞い降りた同類。
普段であれば他者が自分の領域に近付くだけで不快で仕方がないはずなのに、今は違った。
圧倒的有利さが警戒心を幾分か下げ、変わりに『他の霊獣使いはどんな感じなのか』という関心が芽生えているのだ。
『メリットなど何一つありませんよ、リオウ。普通の宿主であればまず真っ先にスペックを確認しますからね。ただ、シンクロ度合いは非常に高いようですから、今の彼らは結婚相手の本名も年齢も分からない状態…といったところでしょうかね』
「歪な関係ってことか」
『理解できません。話さないユニコーンも、聞かない宿主も…』
霊獣とも友人関係を築こうとしていた卓也のスタンスが招いた結果が、フェニックスには不可解で、不気味で、意味不明であった。
そして恐らく卓也たちの心情を聞いても腑に落ちないだろう。
かつてのユニコーンの宿主たちは皆一様に便利すぎる能力を骨の髄まで貪り尽くしたのに対し、卓也はそれを良しとしなかった。
その差が、塚田卓也という人間の全容をボヤけさせるのである。
情報開示の度合いが低い例として、霊獣が乗っ取る形で人間を意のままに操る時、今の卓也のような感じになる。
主導権が霊獣にあるならば、宿主の知識は全く必要ないからだ。
だが今の卓也とユニコーンは、フェニックスも語るようにシンクロ率が異常に高い。
この事実が『普段なら取るに足らない相手』と認識して差し支えない状態の卓也に対し、フェニックスが警戒を強めた理由だった。
「それで、お前の知識の中に、ユニコーンに『不死鳥を殺せる能力』はあるのか?」
『あり得ません。こちらの攻撃が通るほど脆弱な護りではないですが、こちらを封殺できるほどの武器をユニコーンが持っていたという記憶もありません』
「なら問題ねえな」
『それにいざとなれば”アレ“を使います』
フェニックスには奥の手がある。
後鳥羽も、まさか使うことに”なりそうな状況が来るとは“思いもしなかった奥の手。
果たして次のジョーカーは切り札足り得るのか、まだ誰も分からなかった。
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「ヤな予感はしてたんだよな…」
空中にあるユニコーンの盾に足をかけながら、眼下に後鳥羽を望む卓也。
その顔は苦々しく、嫌気を隠す気もなくさらけ出していた。
『気配を感じていたのか? タク』
「いや、全然。ただ、確かに能力者として強いけど、それだけであの特公に入れるわけねーよなーって…さっきまでのヤツを見て思ってたとこだ」
ユニの質問に対し返答する卓也。
霊獣に気付いていたのではなく、特公でトップ争いをする術者には見えないということで、切り札の存在を予感していたことを告げた。
以前廿六木から特公に入りやすい条件として"自己完結型能力者"であることを聞いていたため、先ほどまでの後鳥羽がそれに当てはまらないんじゃないかと感じ、見事的中する。
また同時に、想像以上の切り札に辟易としていた。
「しっかし、生命力に不死に…いい能力者を揃えてやがんなぁ、特公サンは」
『まさかタク、怖気づいたのか?』
「冗談。殺すゾンビが一人増えただけだ。それに久々に本気のバトルなんだ。気持ちで負けてらんないでしょ」
最近は修行か弱い者いじめしかしていなかったなと振り返る卓也。
バトルジャンキーではないが、本気のぶつかり合いの中でしか生まれない物を理解している為、前向きに取り組む姿勢だ。
「打ち上げはトリキだな」
炎の中から姿を現す後鳥羽を見てそう呟く卓也。
足下に段のように盾を配置し、一段ずつリズムよく下りて後鳥羽に近付いていく。
『あたしは釜飯が食べたいー』
「おう、頼もうな」
敵の考察に時間を費やす後鳥羽と違い呑気なペア。
勿論行き当たりばったりというわけでも、相談相手として不足していると思っているわけでもなく、これがニュートラルなのだ。
必要であれば聞くし答える。
同じ霊獣使いとの本気の勝負だが、呼吸は変わらない。
「無駄な努力を、よくやる…」
「無駄かどうかはお前を殺し続ければ分かるさ」
「そんな呑気でいいのか? もうかなり力が増したぞ」
幾度かの復活を経て、少しずつだが後鳥羽の能力が上がる。
フェニックスのスキル『七転八起』は復活するたびに、適応という名のステータスアップを宿主にもたらすのだ。
無尽蔵の復活にシナジーの高いこのスキルは、仮に霊獣使いという同じステージに立てた者も絶望に落とす。
「お前の霊獣の護りもいつまで保つか楽しみだ」
後鳥羽の片方の手に炎が集まる。
霊獣の力などなくてもかなりの脅威であったのに、更に研ぎ澄まされていく力。
しかしそれを見ても卓也は揺るがない。
「いつまでも保つさ。先にお前を潰してやるよ」
正面から近付き堂々とした様子の卓也。
本日何度目かの仕切り直し。
そして、次の戦いが始まる。
いつも見てくださりありがとうございます!
ダンまち見なきゃと思いつつ食指が動かない
4期までは普通に見てたんだけどね




