16 力がほしい
「見えてんのよっ!!」
才洲の斬撃をかいくぐり、ヴェルファイアが鎌を振るう。
懐までもぐり込まれた才洲はステップでそれを躱し再び”解体する斬撃“を放つも、やはり相手には当たらなかった。
「無駄なんだって…!」
鎌だけでなく蹴りも織り交ぜ執拗に才洲を追い詰めていく。
多分に漏れず変身系能力者ならではの鍛えた体術でダメージを与えようと攻撃を続ける。が、才洲も同じく体術が能力に与える影響が大きいためかなり鍛えており、上手く捌いていた。
つまりどちらも決め手に欠けている状態だ。
リベンジを名乗り出るだけあってヴェルファイアは才洲に負けず劣らずの戦闘力を誇っている。
普通の職員であれば一瞬でバラバラにされていただろう。
しかしかつてはエリート1課職員だった才洲、能力によるフィジカルブーストを得た相手に鍛えた肉体と技で対応していた。
「…チッ。化け物かよ…」
卓也がノアたち四人を一方的に痛めつけている様子を見て、そう吐き捨てるヴェルファイア。
スピードもパワーもそれ以外も、異なる4種の生物に変身できる彼らを軽く凌駕していた。
変身系は素の戦闘力が高い反面、切り札とされる手段に乏しい。(変身する動物によっては隠し玉がないこともないが)
故に戦闘力で勝てない相手に逆転することが難しいのだ。
しかし五人がかりでも勝てないという状況が、逆にヴェルファイアを才洲に集中させることに。
『コイツだけでも』という思考に至った。
「あの化け物に目ェ付けられる前にテメェを始末してやるよ。この“第2段階”でなァ…!」
他の四人と同様巨大化し禍々しく変貌していくヴェルファイア。
より原型であるカマキリに近づきつつ、確実に怪物へと能力を増して。
そんな強敵と相対している才洲だが、頭の中は敵のことではなく、ある決意で溢れていた。
(…足りない。副班長の右腕を名乗るなら、もっと地力が居る……。殴り合いでこの人に勝つくらいじゃないとダメだ……)
卓也が少し離れたところで第2段階の四人を圧倒しているところを見て、才洲は己の実力不足を痛感する。(間違った物差しではあるが)
アドリブや発想力も勿論大切だが、今は能力や奇策に頼らずに勝つ強さを渇望する才洲。
そしてそれはまだないと自覚し、冷静に目の前の敵を見据えた。
(まずはここを乗り切ったら…ですね。さっさと倒してしまいましょう)
無いものねだりなど決してせず、特対職員の中では強い方という評価に甘んじることなく、より高みを目指すべく動き出す才洲なのであった。
「切り刻んでやるっ…!」
第2段階になったヴェルファイアが物凄い速度で攻撃を仕掛けてくる。
突き、唐竹割りといった斬撃から蹴りやタックルなどの肉弾戦。普通であればそれだけで大勢の能力者を葬れそうなくらいの圧倒的暴力だ。
しかし才洲はそれらを冷静に捌き、"そこそこ"反撃を行いながら機を待った。
「どうしたどうした!そんなんじゃあたしは倒せない…よっ!」
「―――っ!」
距離を詰めてのヴェルファイアの横薙ぎが、咄嗟にガードした才洲の両腕を切断する。
才洲はバックステップで距離を取るが、好機と見たヴェルファイアがそれよりも深く、素早く踏み込み、真っ二つにしようと鎌を振り上げた。
そして―――
「そぉら! !―――だりわ終でれこ」
ヴェルファイアの上半身と下半身が断たれたのだった。
脚は司令塔を失い地面に倒れ、上半身は支えを失い頭から地面へと落ち仰向けになる。
急に視界が少しの空と多くの森の木々で埋め尽くされ、ヴェルファイアの思考はフリーズ。状況を完全に見失っていたのであった。
「残念でしたね」
「…て…め。なんで…」
「これです」
目の前に自分を見下ろす仇敵が現れるが手足を失ったヴェルファイアは身動きが取れない。
代わりに目だけを動かし敵意を絶やさずにいるものの、才洲はもはや憐みの目を向けるばかりである。
それがさらに怒りに火をそそぐのだが、何もできない以上どうしようもなかった。
そして勝利を確信したヴェルファイアが地に倒れている理由について、才洲は自分の両腕を見せることで種明かしをする。
「そ…れは……。そうか、自分で……」
才洲の両腕は肘の少し先辺りで切断され失われていた。が、切断面からの出血は見られない。
彼女の腕は切られたのではなく『自分で切った』のだ。厳密に言うと、能力で一時的に外したのである。
外したあとすぐに後ろに下がって手を置いてきて、自分を追ってくるヴェルファイアの背後から能力を当てたというのがからくりだ。
色々と条件はあるが『自分だけ切り離した部位も操作ができる』というあまり知られていない特性を生かして、地面に落ちた腕から斬撃を発射しヴェルファイアを両断。
才洲の奇策は見事にハマったのである。
「防御したのはわざとか…」
「正解です。そして残念でしたね」
才洲は地面に落ちている手をくっつけると、ヴェルファイアに向けて二振りする。
すると上半身と下半身がそれぞれさらに二つに分かれ、とうとう喋ることも叶わなくなった。
そんな彼女に向けてさらに言葉を続ける才洲。
「次があれば、能力を使わなくても倒せるようになりますから」
このあと、彼女らは特対に引き渡す予定となっている。刺客がやってきて倒したら、そうするよう駒込とあらかじめ段取りをしていた。
だからきっと次は無い。それでもこの勝利に満足しない彼女なりの決意表明ともいえた。
才洲美鈴 特対の同期トップの地位から一度は転落し、ここにきて再び羽化する。
王道と外道、正攻法と奇策を使い分けどこまでも強さを探求する戦士に向かって突き進むのであった。
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「…ごほっ」
卓也に頭を掴まれ持ち上げられているノアが吐血する。
何度も回復してはやられ、再生してはやられを繰り返し、癒しの速度がダメージに追い付かなくなっていた。そうなるよう卓也がギアを上げ始めたのだ。
他の三人はもう既に意識を失い超人モードとなった卓也の足元に伏している。
結局襲撃はワンサイドゲームのまま終わりを迎えようとしていた。
「………やれよ化け物。実力を見誤った俺たちの負けだ」
「……」
何も言わずノアの表情を観察する卓也。
諦めの目をしている彼を見て、卓也も諦めかけたその時―――
「待たせたな」
卓也の立つ少し先から突如声がした。
そしてピントがノアから声のする方に合わせられるかどうかの刹那に、その男は現れたのだった。
スーツ姿で、強烈な闘気を身に纏った男が、いつの間にか居た。
刺客たちのボス 後鳥羽璃桜が登場したのだった。
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地獄の11連勤が終わったぜヤフー




