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【現実ノ異世界】  作者: 金木犀
【卓也VS廿六木VS後鳥羽 下】
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8 戯れ

「誰か火実の消える瞬間を見ていたヤツはいるか?」

「私は上を見ていたのでしっかりとは…。ただ、一瞬で消失していたように見えました」

「僕は周囲に気を取られていた。申し訳ない」

「私もです」


 みな消えた瞬間の火実の様子はしっかりとは見ていない。

 俺も直前の犬による襲撃に気を取られ目を離してしまっていた。情けない話だ。

 とはいえ、お互いの距離はそれほど離れていなかった。それこそ目線を少しずらせば火実の姿だって視界の端に捉える事は出来たハズ。

 つまり、誰かの攻撃を受けたとか、飛んできた何かによって…という類のものではなさそうだ。

 今は頭を切り替えて、新たに空中に浮かんだ【1/5】という数字を考えつつ突破口を見つけるとしよう。


「アレ…小出しにしてきて、イヤな感じですね」

「同感…」


 瀑布川が愚痴りそれに同意する皆川。

 カウント数、ラウンド数、そして恐らく最後のはリタイヤ数。この結界内の何かが進行する度に開示されていく情報。

 嫌らしい機能だ。

 しかしまだ分からないことは多いが、分かってきたこともある。


「なあ才洲」

「何でしょうか?」

「この結界のルールはやっぱり“動き”に関することじゃないかと思うんだが、どうだ?」


 結界内に入ったと認識した俺たちは、以降ほとんど動いていない。

 もちろん多少の動きはあったものの、足は一歩も進んでいなかった。

 唯一歩いたのは、襲い掛かってきた犬を確認するために火実が進んだ時だけ。結果、条件が満たされ彼だけがどこかへ飛ばされた。

 その時の状況を踏まえると、一つの仮説が生まれてくる。


「…そうですね。あの目が開いている時に火実さんが動いたら消えた。それが能力の条件だと、今の段階では思います」

「だよな。犬には効かなかったようだけど。なあ?」

「…」


 目線を下にやると、頭と胴体を切り離された犬が横たわっている。

 火実が腕時計型デバイスを停止させていたが、消えた瞬間に解除されると踏んだ才洲が解体したのだ。

 今は体が動かせずにただ地面に転がっており、だんまりを決め込んでいた。


「まあいいや。それよりももうすぐ、また、目が開きそうだ。このままラウンドが進めば負けになるだろうし、ルールに抵触しない人間以外の動物で襲われてもやられるな」

「ですね…」

「一応1個やってみたいことが―――」

「次は私が確認します」


 俺がこの結界のルールについて立てた仮説を元に試してみたいことを提案しかけたところ、ピシャリと瀑布川が言葉を遮り宣言をした。

 具体的な内容が分からない俺はその先を促す。


「確認、というのは?」

「どうすれば消えてしまうのか、です。次に目が開いたら色々と動いてみます」

「いいのか? 普通にテスト失格になるかも知れないぞ」

「火実さんがそうなっていないということは、きっと大丈夫でしょう。それに、何か掴みかけているんでしょう? 副班長」


 瀑布川の言う通り、火実はまだ首輪の機能で転送されていない。もし敵に撃破されたのなら腕時計型デバイスで分かるようになっている。

 一時的にどこかに囚われているのだろう。空中に浮かぶ数字からそう推察できる。


 そして何かを掴みかけているというのも、それらの要素から俺は結界内のルールが”ある遊び“を想起させていることを感じていた。

 それを確認し突破するのにあと2ターンは欲しいところだった。


「たぶん私の能力や経験はこの状況打破には役に立ちませんしね。それに、この初見殺し能力にシナジーマシマシ構成の"忖度班"には負けたくないですし」

「…それは、そうだな」


 冗談っぽく恨み言を言う瀑布川に思わず笑ってしまう。

 確かに敵はメインの空間系能力にその干渉を受けない動物への変身能力、そして姿をくらます能力と、少なくとも班員の三名が相性の良い組み合わせとなっていた。

 駒込さんとは逆、非常に強い権利で以て候補生の中から好きに組んだに違いない。


 ふと、昔やったカードゲームを思い出す。

 お互い構築済みの初心者用デッキセットに10個の拡張パックを加えた計150枚のカードプールから、使用する50枚のデッキを構築し対戦するというもの。

 安定を取るか、ロマンを取るか。対戦前から構築力と運の要素が入った変則ルールである。

 しかし戦いの中、稀に通常ルールでの『環境トップ』のデッキのコンボが完成する時があった。

 当然あり合わせで組んだデッキに勝てるはずもなく…。


 そんなことが脳裏に浮かんだ。

 こっちは元あり合わせのグッドスタッフデッキ、向こうは(多分)環境最強コンボデッキ。

 やってやろうじゃないの。



「目が開きました。確認します」


 瀑布川はそう言うと、空中の目が開いた後に俺の指示で手を回したり振ったり顔を動かしたり、"移動"以外の事を一通り行って見せた。

 そして何も起きないと、次に目が閉じた際に周囲を駆けまわったり飛び跳ねたり、自由に動いて見せる。

 だがここまでやっても瀑布川は消えない。どうやら読みは当たっていたようだ。


「全く発動しないねぇ…」

「ですね」


 周囲を警戒する皆川と才洲にも余裕が生まれた。

 俺が瀑布川に指示したこと=取っても問題ない行動であると分かり、そこまで露骨ではないせよ移動をして監視に当たっている。

 瀑布川も、覚悟を決めていたとはいえ発動条件を満たさなかったことに安堵している様子だ。


「副班長、どうです? 私に能力が発動しないようですが、考えは当たっていましたか?」

「……おそらく、この結界は"だるまさんがころんだ"を強制させる能力だと思う」

「だるまさんって…あの、子供がやる遊びのですか…?」

「ああ」


 一仕事終えた瀑布川に俺の仮説を言って聞かせる。

 目を瞑っている時には何をやっても良く、開いている時には動いたらアウト。

 10のカウントも秒数ではなく『だるまさんがころんだ』と唱える時の文字数だと思うと納得できなくもない。(実際は唱える速さには個人差があるのだが)


 それに目が開いている時も移動さえしなければ良い…つまり手での防御ならアウトにならないというのは、こちらとしてはありがたい差異だった。

 それにだるまさんがころんだになぞらえた空間だとしたら…


「ということは相手の術者はこの範囲内にいるということですかね」

「かもな…」


 才洲が俺と同じ考えを口にする。

 多少の差異はあれど、もし遊びのルールを強いるという空間であれば絶対に変えられない"大前提"があるハズだ。

 それは だるまさんがころんだ と唱える役を、他の参加者が唱え終わる前にタッチするという行為である。

 これが現状考えられる俺たちの唯一の突破口だ。


 このクリア方法がなければ、もはやただの結界。ラウンド数や脱落者数表示も意味のない要素となり、俺たちは詰んでいる。

 だからそれは頭から排除して動かなければならない。でないと、どっちみち俺たちは負ける。

 これだけ確認作業をしても相手が攻めっ気を見せないという事は、やはり10ラウンドで強制的に負けが確定することに他ならないのだからな。


「どうやって探しますか? 見たところ範囲内には木々や岩はたくさんありますけど、人が隠れられるようなスペースは…」

「地面か、あるいは消えているかだねぇ…」


 瀑布川と皆川は範囲内を注視しているが、依然敵が見つからない事に辟易としている様子だ。

 ここは割と木や岩が多く点在する森林エリアになる。見通しはそれほど良くはない。

 それでも敵班が全員いるとしたら残り四人の人間がこの中に居ることになるのだが、そんなスペースはないだろう。

 姿をくらます能力はステルス系か土系か、あるいは別の何かか…。いずれにせよルールに気を付けつつ居場所を探らなければならない。


「私の切断能力を適当に撃つというのは…」

「回数切れになるだろうな、流石に。それよりも、もっといい方法を思いついた」

「いい方法ですか…?」


 俺は適当に拾った石を才洲に見せて、その方法を説明することにした。

 やはり真っ先に反応したのは皆川だった。


「…死なないかな?」

「問題ない。あくまでもリタイヤ狙いだ。威力はそこそこでいい」


 名付けて追い込み漁作戦の開始である。


いつも見てくださりありがとうございます。


負けインの八奈見ちゃんが今季ナンバーワンまである。

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