10 正義の悪徳警官
「ふっ…ふっ…」
規則正しい呼吸を繰り返し、コンクリートの地面を蹴って前へと進む。
俺は今、皇居ランニングの最中だった。
俺はいのりたちが帰っていったあと軽く昼飯を済ませると、スポーツウェアに着替えた。
そしてカバンにサイフやスマホや着替えなどを詰め込むと家を出て、皇居ランニングのスタート地点となる日々谷駅に着くころには15時を少し回っていた。
駅に着くと俺はまずランニングステーション(通称ランステ)という施設に向かった。
皇居周辺にはランステという、ロッカーやシャワー、レンタルシューズ、レンタルウェアなどランナーをサポートする設備やサービスの整った施設が無数に存在する。
料金は店によって様々で、会員制や非会員制、月額制や都度払いなど形態もいくつかある。
ランニングスポットとして有名な皇居は、遠方からのランナーや仕事終わりにひとっ走りするサラリーマンランナーが一定数おり、ランステはそういった人たちにとって非常に有り難い施設となっている。
俺の勤務地である神多からも比較的近いので、仕事終わりにたまに使わせてもらっていた。
俺は適当なランステに荷物を預けると、軽くストレッチをし早速走り始めた。
久々なので軽く流す感じで走っていく。
7月ともあって気温が非常に高く、少し走っただけでじっとり汗が流れてきた。
だがそれも今は心地よかった。
今日俺がランニングをしに来たのは、体を鍛える為じゃない。
勿論基礎体力の向上は能力による上昇幅を底上げするので、やっておくに越したことはない。だが俺の目的は別にある。
それは、心のリフレッシュだ。
昨日と今日で俺は多くの情報を得られた。
能力の事、組織の事、警察の事…異世界に関する基本的な事を学んだ。
だが同時に、色々と考えるべきことも増えてしまった。
これからの身の振り方や、いのりの問題のことなど…
昨日は情報収集をガイダンスなどと言ったが、ガイダンスと履修登録と中間考査が近い感覚で来てしまったような、そんな状況かもしれない。
なので一度何も考えずに体を動かして、心をスッキリさせたかったのだ。
これまでも仕事でストレスが溜まった時などは、帰りにサッさんと一緒に夜の皇居を走って、その後飲みに行ったりしたもんだ。
これで驚くほどスッキリする。明日から挽回しよう、頑張ろうと気持ちが切り替わる。
約1時間、距離にして1周ちょっと走ったところで一旦休むことにする。
本日のスタート地点の日々谷から1周して、職場に近い王手町のあたりまで来ていた。
用意していた水を口に含み、軽く頭にもかけると全身にひんやりとした感覚が走ってとても気持ちが良かった。
この時期のランニングはとにかく熱中症に気をつけなければいけない。
少しでも気分が悪いと思ったら、俺は経口補水よりもまず頭を冷やすようにしている。
その後体内にも水分を入れて、それでも体調が戻らない場合は無理せずリタイアする。
心のリフレッシュで体を壊してしまっては意味がないからな。
適当なところに腰をかけて休んでいると、さわやかな風が体を通った。
時刻も16時を超えてくると、日差しも大分弱まり日中よりもいくらか過ごしやすくなってくる。
同じ皇居ランナーや車が通り過ぎていくところを眺めながら、俺は自分の心が少しづつリフレッシュしていくのを感じていた。
皇居周辺がランニングスポットとして人気なのは様々な景観の移り変わりが走る者を飽きさせないというのが大きいが、俺は中でも歴史と現代の対比が気に入っている。
スポットによっては、片側にお堀越しに見える皇居、もう片側には真新しい商業ビルやオフィスビルが見えたりする。
この二つの時代の景観が同じ視界に収まっているところが、個人的には好きだった。
警察の事と言えば、そういや…
10分くらい休んだところで、俺は昨日平に言われたことをふと思い出した。
なんでも交番には、能力者にしか見えない手配書があるとかないとか…
サーチを使えば見えると言っていたが、どんなものなんだろう。
一度気になってしまうと、中々頭から離れない。
帰りに家の近くの交番で確認すれば良かったが、折角王手町まで来たんだからどうせなら神多の交番まで見に行ってみようかと考えた。
ついでに居れば清野の面でも拝んでやろうと思い、俺は早速神多駅まで歩いて向かうことにしたのだった。
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神多駅前交番
の横、通常の指名手配書や交通安全ポスターなどが張られているスペース。
その更に横にある何もないコンクリート外壁の部分。
そこに能力者にしか見ることのできない手配書はあった。
何もない無機質な壁にサーチを使い見てみると、例えるなら黄色の蛍光ペンで書かれたような手配書が浮かび上がって来た。
恐らく、気泉から溢れるエネルギーと同じもので書かれたであろうそれは、2色刷りのポスターくらいの彩度だった。
その為、文字の部分に関しては問題なく見えるが、指名手配犯の顔に関してはやや厳しい。
この顔写真(?)で正しい犯人を捕まえるのは素人には少し難しいように思えるが、手配書の最後の部分に「詳しくはコチラまで」と電話番号が記載されていた。
きっとここに問い合わせればカラー写真や画像を見る事もできるのだろう、と勝手に想像した。
そして懸賞金に関しては、意外と少なかった。
この壁には3人分の手配書が記載されていたが、下は10万円から、最高でも85万円程度だった。
ソロで狩る分にはまあ中々良いお値段だが、Neighborのように多くの人間が食っていくには全然足らない印象だ。
きっと警察から直接来る依頼と、こういった公の手配書では内容が異なるのだろうな。
警察から直接来る依頼は高額で危険、かつ多くの人手が要る可能性のある組織犯罪。
こういうとこで仕事を探すフリーランスは、一人で解決できるレベルの相手だが金額もそこそこということか。
さらに警察所属になると、味方は多く能力の種類もきっと様々で比較的安全。
能力者相手だけじゃなく通常の事件の捜査等も手伝うので、仕事が尽きる事は無く安定。
ただし収入は固定給で一攫千金とはいかない。
・民間組織 リスク:中~高 リターン:中~高
・個人 リスク:低~中 リターン:低~中
・警察 リスク:低~高 リターン:低
まとめると、きっとこんなトコロだろうな、能力者として生計を立てていく場合の相場は。
勿論、想像以上にヤバイ能力の相手と遭遇する事もあるだろうから、リスクに関しては必ずしもこの限りではないだろうけどな。
あくまで想像の域を出ない。
こうしてみると、Neighborが強引な手で能力者を確保しようとするのは、ある意味道理だ。
民間組織は質も勿論大事だが、やはり人数が必要だ。
できるなら強力な能力者だけを多く集められれば良いが、開泉状態の人間でも多くの仕事をこなせば金になる。
能力者を見つけたら、確保しておきたいのが普通だ。
とはいえ、左腕の恨みは忘れてないけどな。
「よォ、何してんだよ、んな所で」
俺が手配書の前であーだこーだ考えていると、ふいに声が掛けられた。
両手をポケットに突っ込んでタバコをふかしている不良警官。
もちろんコイツは俺の良く知る人物で、わざわざこの交番に来たのもコイツが居るからっていうのがあったからだ。
「お、おう…清野。元気そうだな…」
しかし考えに没頭していたせいで、非常にたどたどしい返事になってしまった。
そもそも普通の人間にとってここはただの何もない壁の前なワケで、清野からしてみれば自分の旧友が挨拶もせず壁の前でボーっと突っ立っているという正気を疑う行為をしていることになる。
「いやぁ、悪そうなヤツだなぁコイツ、と思ってね。はは…」
「ふーん…」
リアルの指名手配書を指さし強引に誤魔化そうとしたが、清野は疑いのまなざしを送って来ている。
「…ま、なんでもいいケドよ。それより腕、治ったんだな」
「お、おお!おかげさまでな」
なんとか誤魔化しきれた俺は、必要以上に大げさに右手を振って見せた。
そういえばギプスを外してからはここに来てなかったっけな。
本当はもっと前に治っていたけれど。
「じゃあ快気祝いしてやんよ」
「おお、マジでか。じゃあどこで飲む?」
タダ酒にありつける事になりテンションの上がる俺。
二人で飲むときは適当なチェーン店に行く事が多かった。
たまに旨い肉とワインの店とかチーズの美味しいバルとか専門店に足を運ぶこともある。
だが清野の口からは意外な提案が飛び出した。
「神宿のキャバクラに行くぞ」
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時刻は20時
俺は待ち合わせ場所である神宿駅西口に立っていた。
てっきり夕飯も一緒に食うものだと思っていたが、清野からキャバクラには夕飯を済ませて来いと言われたので、一度自宅に戻る事にした。
清野と別れ俺は、一先ずランステに戻りシャワーと着替えを済ませた。
そして自宅に帰ると軽く身だしなみを整え、最寄り駅近くの定食屋で飯を食べた。
待ち合わせ時刻までは割と余裕があったので、ブラブラしつつ折を見て神宿に向かったのだった。
西口で待つこと数分、清野が姿を現した。
「いよぉ、待ったか?」
「今来たとこよ(はぁと)」
「気持ちわりぃな、行くぞ」
俺たちはくだらない冗談を言いつつ、目的地へと向かう。
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俺たちは神宿某所の地下にあるキャバクラ My-姫【まいひめ】に来ていた。
バスケコートくらいの広さのフロアに、仕切りなどは無くオープンスタイルの店内。
俺たちは一番入り口から遠い席に通されたのだった。
席に着くと店員さんに指名を聞かれたが、もちろん俺はこの店に来たのは初めてなので、指名などは無かった。
清野も特に無いとのことで、店員さんに無い旨を伝えた。
すると「かしこまりました」と言い、奥に下がっていった。
「今日は好きなもん飲んでいーぞ」
「いいのかよ…カネあんのか?」
「いーのいーの!俺はジャンジャン飲むぜぇ?」
いつになく気前の良い清野が気持ち悪かった。
だがここまで言ったからには、遠慮なく飲ませてもらおう。
「よろしくおねがいしまーす☆」
「どうもー!」
数分もしないうちに女の子が二人、俺たちの卓についた。
「レイでーす」
「アスカでーす」
「いいねいいねー!二人ともかわいいねー!」
髪が薄いブルーで内巻きの方がレイちゃん。
赤いロングヘアの子がアスカちゃんね…
「何飲みますー?」
「コイツの快気祝いで来たからよ、コイツの頼むもんガンガン持ってきてよ!君らも好きなのテキトーに頼んじゃっていいからさー!」
「やったー!お兄さん太っ腹ー」
「そっちのお兄さんは完治おめでとー」
「どうもどうも」
「何の病気だったの?けが?」
「いやそれが、先週ようやく五月病が完治してよ…」
「アハハ、お兄さんおもしろーい!」
「ウケるー!」
「壮絶な闘病生活だったぜ…」
「バカなこと言ってないでさっさと頼め」
その後も四人で超どうでもいい話に花を咲かせ大盛り上がりした。
卓に付いたのは割とテンションアゲアゲなタイプの二人だったが、聞き上手だし頭も良いし下品さも無いし、楽しい時間が過ごせた。
卓にはピンドンやモエやヴーヴなど定番のシャンパンからジャックダニエルや山崎などのウイスキー、ヘネシーなどのブランデーの空き瓶が並べられた。
2時間にしては結構なハイペースで飲んだと思う。
女の子二人もかなり酔っぱらってきて、会話も一旦落ち着いたあたりで清野が声をかけてきた。
「よぉ卓也、一旦ここ出て軽く飲み直さねーか?」
「あー…それもそうだな…」
頼んだ酒やつまみは一通り無くなり、宅には水とソーダくらいしか残っていない。
〆るには丁度いいタイミングだった。
「じゃあ店員呼ぶわ」
「おう」
「すみませーん、お会計ー!」
俺が店員に声をかけると、一旦奥に引っ込んだ。
そして5分ほどしたあと、卓に伝票を持ってきた。
それを受け取った清野は内容を見ながら、少し固まっていた。
「んー?30万くらいは行っちまったかー?」
清野の横から伝票を覗きこむと、合計金額が見えた。
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…
「120万!?」
伝票の金額がおかしかった。
頼んだ内容からすると、せいぜい2,30万円くらいのハズ…
ちゃんと伝票を見てみると、最後の方に手書きで
【サービス料 90万円】と記載されていた。
ここは、俗にいうぼったくりバーだった。
店によってはチャージ料やチェイサーの水などで高額請求するところもあるがこの店は大胆にサービス料でふっかけてきていた。
俺が伝票とにらめっこしていると、先ほど伝票を持ってきた店員が近くに来た。
「どうかなさいましたか?」
「どうかなさいましたか?じゃねーよコラ!どう見てもぼったくりだろコレ!」
「はあ…」
俺の手から伝票を取ると、わざとらしいくらいマジマジと見て俺に一言。
「どこもおかしなところはありませんけど…?」
「てめぇ…」
俺が店員を詰めていると、奥から一人の男が卓にやってきた。
「なにを揉めてんのかな…?」
「あ、オーナー」
「どうしたのかね店長…店で騒ぎは困るよ?」
「いえ、この男が料金がおかしいと突っかかってきて…」
「んー?」
オーナーと呼ばれた恰幅の良い白スーツの男は、こっちまで来ると清野の隣に腰掛けた。
そして清野の肩に手を回すと、喋り始めた。
「ウチの料金に文句でもあるのかなー?ん?」
「当たりめーだ!どう見てもぼったくりだろ!」
「人聞きが悪いなー。営業妨害だよホント…」
「良く言うぜ、そういうのは真っ当な営業してから言えよ」
俺の抗議など意に介さず飄々とした態度を崩さないオーナーの男。
この感じから、この店は常習犯だという事がわかる。かなり手慣れていた。
「さっきから黙ってないで、お前も何か言えって」
先ほどから沈黙を貫いている清野に俺は声をかけた。
俺とオーナーのやりとりや、肩に手を置かれているのに清野は一向にリアクションを起こさないでいたのだ。
こういう時は俺以上に突っかかるコイツなのに、一体どうしちまったんだ?
「…はぁ」
軽くため息をつく清野。
そして
「しょうがねぇなあ…」
そう言ってジャケットの胸ポケットに右手を入れる清野。
「おいまさか…払う気じゃねーよな?」
「話が早くて助かるねぇ」
高笑いしているオーナーの男。
俺は素直に金を払おうとする清野に驚きを隠せなかった。
だが、清野が胸ポケットから取り出したのはサイフではなかった。
「!? お、お前…!」
「お、おい…清野…」
清野は胸ポケットからコルト・ガバメントを取り出すと、スムーズな動きでスライドを引き、銃口をオーナーの頭に突き付けた。
「汚ぇ手で触ってんじゃねーよクソボケ」
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コルト・ガバメント
正式名称 M1911はアメリカ製の軍用自動拳銃で、ミリタリー知識にそれほど明るくない俺でも知っているくらいポピュラーな銃だ。
映画やサバゲーショップでも良く見かける。
そのポピュラーな拳銃を清野が何故か所持しており、しかもそれをキャバクラのオーナーの頭に突き付けていた。
確かにぼったくられてむかついたが、そこまでするとは…
だが、もしかしたらエアガン/ガスガンの可能性もある。
こういう時の為の脅しで。
「そんなもの持ち出してどうなるか…そうか!わかった、オモチャだろ。脅しの為の!そうだろう…」
俺と同じことを考えていたオーナーの男。
だが俺たちの考えはあっさり破られた。
「…」
清野は何も言わず天井に向けて一発、発砲したのだ。
店内に響き渡った銃声と火薬の匂いが、清野の銃が本物であることを物語っている。
直後にキャバ嬢やボーイたちの悲鳴が響き渡り、店内は阿鼻叫喚となった。
しかしそんな状況を意にも介さず、清野は再びオーナーの男に銃を向けた。
「弾丸は大体1発20円くらいだからよぉ…120万円返すには…何発だ?卓也」
「…6万発」
「そうそう、今はそんなに持ち合わせが無ぇからよ、とりあえず140円分だけ返してやるよ!」
再び本物の銃を突き付けられたオーナーの男は、完全に怯んでいた。
だがそこに
「おい、こっちだ!」
店長と呼ばれていた男が、男たちを引き連れてフロアに出てきた。
先ほどの騒ぎに乗じてバックルームにでも逃げていたのだろう。
そして男たちの手にはバットやナイフなどの武器が握られている。恐らくこの店の用心棒だ。
「がっ…!」
俺が用心棒どもに気を取られている内に、清野はオーナーの男を殴り気絶させていた。
おそろしく速いパンチ…俺見逃しちゃったね。(余所見してて)
「おい卓也、左の4人は任せたぞ」
「え?あ、おい…」
勝手に担当を割り振ると、清野はソファから飛び出し右の方へ行ってしまった。
だが都合よく向こうも4:4で分かれ、俺たちに向かってきていた。
(仕方ない…!)
俺はテーブルの上の空き瓶を一つ手に取り、能力で自分と空き瓶を強化すると
用心棒どもを迎え撃つべく立ち上がった。
そして念のためサーチを使ってみると。
(あれ…?)
なんと、こちらに向かってきている4人のうち一番後ろの奴が強いエネルギーを纏っていたのだった。
今のところ何かの能力を使っている様子もないので開泉者の可能性が高いが、油断はできない。
こんなところにも能力者は居たんだなというのが正直な感想だ。
「このやろぉ!」
金属バットを持った男がまず襲い掛かって来た。
俺は手に持った瓶でバットを弾く。
空き瓶が割れなかった事に驚き一瞬動きを止めた隙を突いて、俺は男に強烈な蹴りをお見舞いした。
ナイフを持った男二人も迫って来ていたが、俺は両手に空き瓶を持ち二人に投げつけた。
運よく頭にぶつかり、あえなくナイフ男二人も沈黙した。
まるでカンフー映画のような一幕に思わず笑みがこぼれる。
あとは、能力者一人だ。
こちらが能力者なのを知ってか知らずか、特に何の武器も持たずこちらに向かってきた。
徒手空拳に自信があるのか、単に能力にかまけて油断しているのかは知らないがこちらとしては都合が良い。
相手は常人とは思えないスピードとパワーでパンチやキックを繰り出してきた。
俺はそれを一つずつ捌いていく。
相手は俺と同じで、格闘技経験はない、ただの喧嘩殺法だった。
であれば、My Tubeで勉強している分、俺の方が一枚上手だ(?)
ジャブやキックは最小限の動きで捌きつつ、大振りの右ストレートが来た瞬間腕を取り捻って、右肘を相手の鼻先に叩き込む。
痛みで怯んだ隙に両手で相手の後頭部を正面から抱え込み、頭突きを顔面に叩き込んだ。
そのまま相手は後ろに倒れ込み、あっけなく動かなくなった。
結局コイツはただの開泉者だったようだ…
コイツの一番の失態は、相手を一般人だと思い込み何の策も講じず、力押ししようとしたことだ。
開泉した者であれば、身体能力で一般人に後れを取る事は中々無い。
しかし同じ条件であれば身体能力のアドバンテージが無くなる分、何か工夫を凝らす必要があるのだ。
俺も常々注意している、能力が無くても強い一般人への対策を。
(清野は…?)
残りの4人を担当していたであろう清野の方を見てみると、用心棒が4人床の上でオネンネしていた。
流石現役の警官だ。悪漢の倒し方を熟知しておられる。
ちゃんと見ていなかったのだが、清野の方には能力者は居なかったのだろう。
俺がホッと胸を撫で下ろしていると、視界の端に妙なものが写った。
(これは…)
フロア中にナイフやフォークなどの食器類が無数に浮いていた。
数にしておよそ30本くらいだろうか。
それら全ての食器が、俺と清野の方を向いていたのだった。
更に、スタッフルームから一人の男が姿を現した。
その男は先ほど倒した男よりも強力なエネルギーを身に纏っているのが、サーチで確認できた。
その男は右手をこちらにかざした。
するとその瞬間、宙に浮いていた食器がこちらに一斉に飛んできた。
「あぶねっ!」
俺は咄嗟に後ろに大きく跳んで、食器の直撃をかわす。
そして、かわしきれない食器だけを硬化した腕で弾き落とした。
見ると先ほどまで俺がいた場所には多くのナイフフォークが刺さっていた。
(そうだ…清野は…?)
一般人の清野では、この飛来する食器を無傷でかわすのは不可能だ。
俺は敵の第2の攻撃を警戒しつつ、清野の安否を確認した。
「清野!大丈夫…か…」
少し離れた友人の無事を確認しようと視線を移すと、俺は信じられないものを見た。
先ほどまでチェイサーにしていた水や炭酸水が容器からヘビのように伸び、飛来する食器から清野をガードしていたのだった。
そして清野自身が、敵と同様、強大なエネルギーを纏っていた。
「清野…お前…」
俺の友人は、能力者だった。
いつも見てくださり、ありがとうございます。
タイトルを「いざキャバクラ」と迷った。




