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【現実ノ異世界】  作者: 金木犀
死者に権利を 咎人には償いを
207/417

16 報酬

『さァー!注目のレトロゲームコーナーに、現在ネットスラッシュブレイダーズ…通称ネトスラの30連勝クエストに挑戦する漢が登場ォ!そして、なな何とォ…現在既に無傷の28連勝ぉぉぉ!前人未到の記録まで残り2勝だァッ!』


 いつの間にか館内放送を通して実況を行う店員が現れていた、

 そのおかげで、プライブのカードに興味のない野次馬までもが周囲に集まり出してしまう。

 まあ、少年三人と志津香と店員以外は少し離れてくれているので、邪魔にはならなさそうで良かったけど。


『しかァし…奇しくもクエストの最期の壁として立ちはだかって来たのは、最近ネトスラ界隈を騒がせている、新進気鋭のニューフェイス…(キング)だァーーー!!』

「「「うおおおおおおおおおおあああああお!」」」


 テンション高っか…つかやっぱ王さんはキングって言うんだ。

 っと、もう始まるな…


 相手がキャラクター選択済みと出たので、俺も急いで決める事にする。

 ここは対応力の高い【王国のナイト】だな。

 初期位置も離れるし、単純なテクニック勝負になるだろう。


『さぁ、王国のナイトVSエルフの一戦が開幕だぁ!』


 実況する店員の言う通り、相手が選択したのは飛び道具キャラ、エルフだ。

 先ほどの暗転斬りをかましてくる辺り、コイツはおそらく…


『さぁー!開始早々、ショットショット、ショショショットォォォォォ!』


 READY GOの文字が消えたと同時に、敵のエルフが飛び道具を連発してくる。

 キャラ特性:舞空による位置調整とホーミング攻撃で、俺がどんな場所に逃げようとしても確実に攻撃を当てて来る。

 先日のNeighborアジトでの冬樹との戦いで俺が使用した【ロングレンジエルフ】だ。

 ステージがゲーム中最も広い【美しく燃える森林】なのも手伝い、近付くのは容易ではない。


『直撃はまだ無いが、シールドが徐々に削られていく!このままではジリ貧だぞ!』


 店員の言う通り、避けきれない弾はシールドガード(全キャラ所持)で防いでいるが、それも限界がある。

 ずっとガードしている事での時間経過やシールドへの一定ダメージにより【シールドブレイク】という現象が起きてしまう。

 シールドブレイクが起きるとそのキャラはしばらく動けなくなるので、相手は必殺斬りを余裕をもって当てに来ることが出来る。


 現に俺はどんどんシールドの残量が減っていっている。

 このままではブレイクしてしまうのも時間の問題だ…


 …と思っているのなら残念。

 見せてやる…!俺が王国のナイトを一番うまく操れるという事をっ…!


『おっ?おっ?おおおぉぉぉぉ!?ここで王国のナイト、【ジャストガード】連発だぁ!!!迫りくる王の飛び道具を、ぜぜ全弾んジャストガードォォォォォォォ!!』

「「「うおおおおおおおおおおあああああお!」」」


 通常のガード音とは異なる『バシッ!バシッ!』という小気味良い音が鳴り響く。

 これがジャストガードの証だ。

 通常のガードと違いシールド消費ゼロな上、後隙も限りなく少ない。

 ただし敵の攻撃が当たる瞬間にボタンを押さなくてはならない為、遅れるとそのまま直撃してしまうデメリットがある。

 が、成功すれば一生ガードが出来るのだ。


 俺はジャストガードで敵の攻撃を防ぎながら、ゆっくりとエルフに近付いて行く。

 その間、敵は飛び道具を必死に撃ち続けるが、全てガードする。

 エルフは3種類の飛び道具を使いこなす反面、近接攻撃が最も少ないキャラである。

 加えてその耐久力の低さで、懐に入られてしまうと一気に決着が着いてしまうのだ。


『エルフが逃げるぞっ!どうす―――それを許さないいぃぃぃぃぃぃぃ!』


 距離が大分縮まったところで、エルフが舞空で反対方面へと逃げようとした。

 俺はすかさず王国のナイトの飛び道具"弓"を最大威力で2発当て、ステージ中央へと落とす。

 ほぼ死に体のところへさらに弓を当てて、完全に沈黙。

 相手の一か八かの"必殺斬りぶっぱ"が被弾しないよう空中から下必殺斬りを行い、29戦目もフィニッシュだ。


『決着ゥゥゥゥゥ!29戦目は圧倒的な飛び道具を誇るエルフ相手に、まままさかの被弾ゼロ!パーフェクト勝利だぁぁぁぁ!そしてクエストは、よもやよもやのラスト1勝となったァァァッァァ!』


 店員の絶妙な実況に盛り上がる店内。

 つかこの設定にしたのゼッテーお前だろ…


「お兄さん、ヤバイっすね…」


 後ろで見ていた少年のひとりが話しかけて来る。


「実はボクも結構キャンペーンの為に練習してたんですけど、自信無くしますわ…」

「まあ、昔取った杵柄ってヤツだな」


 俺はドクトルペッパーを飲みながらそう答える。


「でもでも、あと1勝すね!」

「だな」


 もうひとりの少年が、興奮した様子で話す。

 一番小さい子は、おとなし目の性格なのかあまり話したりはしないが、それでもワクワクした表情をしている。


「ねえ卓也」

「ん?」


 そして志津香も話しかけて来る。


「これ何やってるの?」

「……あとで説明する」

「そう」



『さぁ、泣いても笑ってもこれがラストだ!果たして挑戦者は、クエストをクリアすることが出来るのか!?そして限定デザインカードをゲットすることが出来るのか!?ちなみに店員も、転売防止対策としてブランクカードの枚数と達成条件・達成人数等が先方にキッチリ管理されているので、カードは誰も見たことが無いぞォ!!』


 いらん裏事情まで話し始める店員。

 だからマジで怒られるって。


 俺は引き続き王国のナイト、相手は農民でゲームがスタートする。

 必殺斬りの無敵時間が怖いが、スペックは最弱だ。

 通常攻撃で動けなくしてから台の上に乗せ、下から上必殺斬りを当てれば反撃のチャンスもなく狩ることができる。


 俺が頭の中で対応策を考えていると、それは起きた


『こ、これは、もしや……!!』

「…」


 実況が王の行動に反応する。

 開始直後から"シールドを張り続ける"王に…。

 俺はその真意を直ぐに理解し、距離を詰めた。


 ネトスラをやらない俺でも知っている。

 シールドを張り続けて自らブレイクさせ隙を作り出し、相手に必殺斬りを"当てさせる"行為。

 これの意味するところは、『自分より強い相手に敬意を表しての自決』だ。

 相手の知ったところではないが、俺の30戦目の決着は思いもよらぬ形で着いたのだった。


 俺が接近する間に敵のシールドが割れ、行動不能の相手に王国のナイトの必殺斬りがあっけなく決まる。

 最後の一撃は、切ない…ってか。



『………決着ゥゥゥゥゥゥ!30勝目は、まさかまさかのっ…相手の感謝の降参で終了ダァァァ!』

「「「うおおおおおおおおおおあああああお!」」」


 熱い実況、そして歓声と拍手がフロアを埋め尽くす。

 何とかノーミスでこの依頼をやりきることが出来たな…。


 近くで少年たちは抱き合い、喜びを分かち合っている。

 最初に話しかけてきた少年なんて涙を流していた。喜び過ぎ…。


「ナイスファイトだったよ、君!」


 先ほどまで実況していた男が話しかけてきた。


「あ、どうも」

「君ほど強いブレイダーに出会えて、俺は良かったよ…もう思い残すことは無い」

「ん?」


 辞世の句を詠み上げているような雰囲気に、俺が不思議がっていると…


「キミぃ、ちょっといいかな」

「…はい、店長。なんなりと…」


 そのまま現れた店舗責任者のような人間にどこかへと連れて行かれたのだった。

 ありゃ大目玉だな。


「卓也、お疲れ」

「おう。志津香もありがとな」


 労いの言葉をかけてくる志津香にお礼を言う。

 何をやっているかも分からんのに、良く付き合ってくれたもんだ。


「お兄さん!!」

「お、おう…」

「本ッッッッッッ当にありがとうございます!!!」

「良かったな、景品貰えて」

「ボク、感動しました!」

「俺も!」

「僕も!!」

「よせやい」


 大感動している三人。

 そして未だ鳴り止まぬ拍手を送ってくれるギャラリーに、俺は調子に乗って手を振ってみる。

 すると、さらに大きな拍手となって返って来たのだった。

 何か恥ずかしいな。


「……お、カードが出るみたいだぞ」


 筐体に取り付けられた機械から駆動音が聞こえてきた。

 印刷が開始されたのだろう。

 そして少しして、プライムライブのロゴが入ったカードの裏側が見えた。


「こ、これが…」


 少年が緊張した様子で恐る恐るカードの淵を掴む。

 手にはいつの間にか手袋が装着されている。

 そしてゆっくりと、オモテ面を確認する為に手を返した。

 すると―――


「…………………はぁ」

「…?」


 聞こえてきたのは、深い溜息。

 あんなに楽しみにしていた少年は、カードを見てあからさまにガッカリしているようだった。

 そのあまりの様子のおかしさに、俺は何事かとカードを確認する。


「…あぁ、そういう」


 見えたのは、キラキラと輝く加工がされた、『先ほど見せてもらった本の表紙と同じデザイン』のカードだった。

 なるほど…豪華仕様だが、新規イラストで無いことにガッカリしたのかな。


「なんだ…既存絵かぁ……」

「こんな厳しい達成条件なのに、書下ろしじゃないのかぁ…」


 他の二人の少年たち、そしてプライバーであるギャラリーもデザインを確認し、テンションが下がっていた。

 何か、いたたまれないな…


「ありがとうございました、お兄さん」

「ああ。残念だったね。なんか…」

「いえ…お兄さんには感謝してもしきれませんよ。これ、約束の六千円です」

「いや、実費の千円だけでいいよ。満足した結果が得られなかったし」

「え…でもそんなワケには―――」


 俺と少年が報酬のやり取りをしていると、横に居た志津香が俺を呼ぶ。


「卓也」

「ん?どうした、志津香」

「機械、まだ動いてる」

「「え?」」


 志津香が指さした印刷機は、確かにまだ稼働していた。

 先ほどと同様、ウィーン…と印刷する音が聞こえ、やがてカードの裏面が出て来る。

 俺と少年たちは一度目を見合わせ、そして手袋の少年がカードを恐る恐る取り、見た。


「……っ」

「え?」


 カードのデザインを確認した少年が、突如涙を流し始めた。

 すぐに他の二人も彼の後ろに回り込み、確認する。


「……っ」

「……っ」

「うお…!」


 何と他の二人も揃って涙を流し始め、遠くから覗いていたプライバーの男子も女子も、涙やら鼻水を流し始めたのだった。

 あまりに異様な光景に俺が戸惑っていると。


「…た」

「え?」

「出ました…」

「な、何が…?」


 少年が顔を涙に濡らしながら、ボソボソと話し始める。


「プライムライブ、キャラクターデザイン【室井(むろい) 航平(こうへい)】先生書下ろし…担当声優【外田(ほかだ) 美也(みや)】さんサイン入り箔押し【北見(きたみ) ひな】ちゃんカードぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

「「「うおおおおおおおおおおあああああお!」」」


 プライバーの割れんばかりの歓声が店内に響いた。

 カードは次から次へと発行され、メンバーひとりひとりと集合絵の計10枚が出てきたのだった。


「「「ありがとうございまああああああす!」」」


 俺は強引に六千円を渡され、個人で請けた初ミッションは無事終了となった。



(卓也さん、何ですか?この騒ぎ…)

(おう、琴夜)

(戻ったぜ)


 いつの間にか霊体となった琴夜とユニが近くに来ていた。

 何も持っていないところを見ると、どうやらお目当ての景品は取れなかったようだな…。

 どれ、俺も獲るのを手伝ってやるとするか。"臨時収入"も入ったし。


(あれ…)


 早速志津香も連れてUFOキャッチャーコーナーへ向かおうとする俺だったが、琴夜が何かに反応した。


(どうした?)

(あの三人…)

(ああ、あの少年たちはワケあって今一緒にゲームをやってたんよ…)



 カードを見ながら喜び合っている三人を見て、琴夜が一言漏らす。



(あの一番小さい子…"死者"ですよ)



いつも見てくださりありがとうございます!


アニメ CLANNADの「オーバー」って曲が凄い好き。

言葉にせずにヒロイン三人切りしたあの回に流れて、印象に残った。

未だに聞くなあ。


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