14 限定カードを手に入れろ
「プライムライブ…?」
「はい!!」
「聞いたことあるけど…何だっけ?」
「え!?!??!?!!!?!?!?!??!」
俺が質問した瞬間、少年は信じられない物を見るような目で俺を見た。
まるで非常識だと言わんばかりに、天然記念物級の浮世離れした人物の如き扱いで…。
聞き覚えあるんだけどな、なんだったかな…?
「お兄さん、プライムライブ…見たことないんですか?」
「多分…」
「去年のアニメ一期で大ブレイクして二期が先月完結して、今年劇中ユニットが紅白歌合戦にも出る、あと来年劇場版も公開される、今飛ぶ鳥を落とす勢いのあのプライムライブをご存じない…!?」
めっちゃ早口で情報を列挙されたが、中々入ってこない。
だが、アニメという単語を聞いて何となく思い出してきた。
「なんかあれだよな…アイドルのやつ……」
「そーですよ!なあ、アレ見せてやってよ」
「おう!」
今度は喋っていたヤツとは別の少年が前に出ると、背負っているリュックサックを下ろしそこから取り出した一冊の本を俺に見せて来る。
大判の本のその表紙には、九人の可愛らしいキャラクターがアイドルのステージ衣装のようなものを身に纏い、笑顔でこちらを見ていた。
そして、その本の中央上に大きく【PRIME LIVE ~Teens IDOL Mythology~】ビジュアルファンブックと書かれている。
「これか…。ていうか、さっきからこの店にいっぱいポスターとか貼ってあるね」
「今、コラボキャンペーン中なんですよ」
「ふーん…」
「いいですか?そもそもこの作品は―――」
俺の無知さに呆れた少年たちが、プライムライブの内容を教えてくれた。
プライムライブとは
物語の中では、年齢が10代のアイドル「ティーンズアイドル」というものが存在し活躍する世界で、主人公たちは同じ私立中学の仲間と九人組ガールズユニット【@nine】を結成する。
アニメ第一話は彼女らの通う中学の理事長が脱税で逮捕されるシーンから始まり、その悪評で次年度入学希望者が集まらなくなり学校存続の危機に陥ったところ、年に一度開催されるティーンズアイドルの祭典【プライムライブ】の存在を知る。
主人公は同学年の仲良し二人に『プライムライブで優勝して、たくさん生徒に来てもらおう!』と提案し、アイドル好きの上級生や学校存続を強く願う下級生なども巻き込みユニットを結成。
血の滲むトレーニングや情報収集などを経て、彼女たち【アテナ】はプライムライブ優勝を果たしたのだった。
スポコンあり、感動あり、ギャグあり、バトルあり、可愛いありで男女問わず絶大な人気を誇っているとか。
ちなみにプライムライブのファンの事を【プライバー】と呼ぶらしい。
「ふーん…何か面白そうだね」
「滅茶苦茶面白いんですよ!特に一期五話で上級生の―――」
「プロジェクト自体は3年前からあって、読者参加型の雑誌のいち企画だったんですよ!あ、ちなみにボク1stシングルがコミフェ(コミックフェスタの略)で手売りされてたやつをたまたま買ってて―――」
「中の人(担当声優の事)たちが実際にライブをやるんですけど、今度やる3rdライブに俺、最前列チケット当選して―――」
「そ、そうなんだ…」
気付いたら三人から作品の良さやら、キャラクターの可愛さやら、声優の可愛さやら、功績の偉大さやらを熱弁された。
凄い熱量に思わず気圧されてしまいそうだ。
「一旦ストップ!」
堪らず俺は彼らの話を一旦止めて、先ほどの『お願い』とやらを聞くことにする。
「プライムライブの事は分かったから…。それで?俺に何をしてほしいの?」
「はっ、そうでした…」
「実は、このSEGOが今"プライブ"とコラボをしているんですけど」
「ああ、さっき言ってたね」
見回しただけでも、キャラクターのパネルやらポスターやらがそこら中に飾ってある。
UFOキャッチャーのとこにも専用コーナーがあるみたいだな。
「キャンペーン自体はよくある"限定くじ"とか"クレーンに500円入れるとグッズが貰える"とかなんですけど…」
「けど?」
「もう一つ…特定の店舗だけでやっている"限定カード"キャンペーンというのがありまして。しかもそれが店舗ごとにやるゲームも貰えるカードのデザインも異なっているんですよ」
「へぇ」
「例えばアキバのSEGOだと、プライブのリズムゲームで1stシングルSランクを取るとゲット、とか…」
「池嚢だとクイズゲームのオンライントーナメントで優勝する、とかでした」
「あー…ジャンルも結構バラバラなんだね」
「そうなんです。でもボクらはそれぞれのジャンルのゲームが得意な人を同じ学校とかSNSで集めたりして、対象店舗10店舗中9店舗まではゲットしたんですよ」
「凄いじゃないか」
今時はSNSで会った事無い人に呼び掛けてゲームをクリアするなんて事をやるんだな。
何か、現代っ子って感じだ。一回りも歳変わらないのに…。
「それで、カードはネットオークションとかで既に出回ってたりするんですけど、ボクらはデザイン確認のために検索してみたんです。ところがどんなに探しても"神宿店のカード"だけは見つからないんですよ…!」
「……もしかして、獲ったやつが一人もいないのか…?」
「恐らく…。神宿店は条件の難易度の高さ故、まだ達成した人が一人もいないという事らしいんです」
「他の店舗もそれなりに厳しい難易度でしたが、せいぜい上手い人が滅茶苦茶頑張れば何とかなる程度でした」
それで"せいぜい"なのか。
どんな難易度なんだ、ここのは。
「で、ここの店舗はどれをクリアすればいいんだ?」
「………それです」
一人が俺の方を指さす。
俺はその瞬間、彼らが俺に話しかけてきた理由にも全て合点がいった。
「なるほどね、ネトスラか…」
「はい。達成条件は"連勝カウント"を30にする事です。先ほどお兄さんが3連勝したので、達成までの残りカウントは27です」
この鬼畜設定のCPUや全国の猛者どもを相手に30連勝は確かにエグ過ぎるな。
そこそこ昔のゲームなだけにシステムの粗とかも多いし、今のゲームに慣れている子がキャンペーン期間中に極めるのは厳しいだろう。
つかこの店の担当者クビにした方がいいレベルだぞ…。
条件達成まで最低でも千円はかかるが、それはあくまでノーミスで行った場合だ。
一度の負けでカウントがゼロになるから、そこからまた30カウント稼ぐとなるとテクニックだけでなく相当なメンタルも必要になる。
少し休憩の為に台を空けたりして他の人が負けたり、日をまたいで閉店時にカウントがリセットされることも考慮すると、短期間での攻略がマストだな。
「ちなみに、達成するとそこの機械からカードが出てきます」
見るとそこには白いカード発券機のようなものが取り付けられていた。
「こん中にその限定カードってのが入っているのか」
「そうです。ただ、これは印刷機になっていて、条件を満たすとはじめて中にある白いカードに印刷されるっていう仕組みですね。なのでボクらが欲しいカードは、まだこの世に誕生したことが無いカードと言えます」
「ああ…そうなの」
いちいち言い回しが大げさだが、その熱意は目から伝わってきた。
まあ男たるもの、一度始めた収集は最後まで完遂したいよな。
……よし!
「あの…それで、引き受けて頂けないでしょうか?挑戦分の料金上限は三千円で、達成報酬は五千円…なんですけど」
少し不安そうに頼んでくる少年に俺は―――
「いいぜ。やるよ、その条件で」
と、快諾したのだった。
初めて個人で仕事を請けたな。能力は関係ないけど…
いつも見てくださりありがとうございます!
誤字報告ありがとうございます!
助かります。
結構昔の部分なのに、謎のカンマとか入ってて驚きました。
引き続きよろしくお願い致しますm(__)m




