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【現実ノ異世界】  作者: 金木犀
聖なる地獄門
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43 優しかった先輩

「手を出すなよ、護国寺、大月」

「…わかったわ」

「お前がやる気になったんなら、俺は干渉しねえよ」



 かつての先輩を睨みながら、後ろに控えている同僚へ話す駒込。

 大月はいつもと違う様子に少し驚き、護国寺はどういうワケかすんなりと殺気を引っ込め静観の構えを見せている。

 もちろんいつどこから攻撃が来ようと対応できるだけの気を張りながら。


「威勢がいいけど大丈夫かい?僕の爆弾が見えたくらいで勝った気でいるんじゃないだろうね?」

「っ!!」


 駒込は軽口に付き合うことなく走り出した。

 そして以前よりも鍛えた足腰で、あっという間に朽名との距離を縮めていく。

 宙に浮いているだけの爆弾には当然当たらず、一気に自分の射程距離へと入り込んだ。


「っ!おっと…!」


 駒込の手をかなり余裕をもって躱した朽名は、手掌で爆弾を操り駒込にぶつけようとした。

 だが駒込は見事な(たい)さばきで右に左に避けると、一旦距離を取る。

 直撃しなかった爆弾は地面や爆弾同士で衝突し、直後複数の爆発音が辺りに響いた。


「危うく真っ二つにされるところだったね…危ない危ない」


 先ほど駒込は素手で殴りかかったように見えたが、実は手に"能力で見えなくした"泉気ソードを持ち斬りかかっていたのだ。

 朽名はそれを拳のちょっとした膨らみや、パンチにしては不自然な腕の振りで見抜き、剣の長さが分からない事も考慮して余裕をもって躱した。

 ピース出身で、長年前線で戦ってきた朽名の経験からくる洞察力と判断力の成せるワザである。


 そして駒込も、特訓の成果が顕著に現れていた。

 間近で見て、撮影したビデオで何度も確認した"卓也の動き"。

 これに近づくために駒込は足りない筋肉や動きのパターンなどを徹底的に洗い出し、それを埋めていくよう鍛えていった。

 その結果、あらゆる方向から襲い掛かる朽名の爆弾を難なく躱すほどには体術が向上した。

 それでも格闘術や武器術などまだまだ"ホンモノ"には遠く及ばないが、戦闘の幅が広がるという意味で身体能力向上の効果は甚だ大きい。


 また、駒込は怒りの心とは別に、卓也がこの場に居ないことをとても悔やんでいた。

 自分の今の動きを見てどう思ったか、『スゴイ良くなりましたね』と言ってくれるだろうかと、居ない卓也に思いを馳せていたのだった。

 しかし居ないものは仕方ないので、切り換えて目の前の"裏切り者"を排除する為に動く。


「大人しく捕まってください」

「はは。そうしたらカツ丼食べてお喋りして開放してくれるのかい?」

「ふざけるなっ!」


 朽名は終始余裕の態度を崩さない。

 設置していた爆弾を全て消費してしまったので、再度作成の為泉気を漲らせる。


「はぁっ!」


 爆弾を作成させまいと猛チャージし、剣による横薙ぎを繰り出す駒込。

 それを刃があるであろう延長線上に入らないよう回避し、爆弾を発射する。


 目に見える爆弾の速度は決して早くないため、剣で薙ぎ払い爆発させる。

 朽名の発言と挙動から見えない剣での不意打ちは難しいと考え、堂々と振るうことにした。



「っと…体の動かし方は見違えたけど、剣の扱いはそれほどでもないな」

「…偉そうに!」


 お互いの攻撃が決定打にならない中、朽名の指導するような物言いに怒りの言葉を吐く駒込。

 剣だけでなく蹴りなども交えた多彩な攻撃は非常に見事であったが、相手の手に触れた瞬間爆発させられてしまうことから徒手空拳での積極的な攻撃が行えずにいた。


 朽名の方もやはり元1課だけあって、見えない爆弾の優位性を封じられて尚善戦していた。

 見える見えないの立場が相手と逆転してしまったが、手や足からの能力発動を細かく匂わせることで圧をかけている。

 戦士としての感覚は決して鈍ってはいなかった。


「…」


 そんな中、大月は戦闘を見守りながら不明に思っている事があった。

 先ほどから護国寺の様子をチラチラと(うかが)っているが、全く変わらないのだ。

 若干の膠着状態に陥っているのに、焦るでも、苛立つでも、不安になるでもない。(最後のは想像つかないのだが)

 終始余裕の表情でただ静かに見守っていた。


 思えば戦いをアッサリと駒込に譲った事も大月には解せないでいる。

 三人の間だけに通ずる"何か"を感じずにはいられなかった。


 そんな大月が見守る中、応酬はしばらく続いた。

 だが、終わりは突然訪れることとなるのだった。



「っと…それじゃあ当たらないよ」

「っ…」


 駒込の唐竹割りを横っ飛びで回避する朽名。

 それを受け駒込は剣を持っていない方の手をポケットに入れる。

 "それ"は朽名に『もう一つ剣を取り出す』と思わせ、頭の中で『左手にも見えない剣がある』と想定させるのに十分な動きであった。


 だが次の瞬間―――


「…っ!?なん…」


 朽名の胸を一筋の光線が貫いた。

 続けて2回、3回と光線が発射され、正確に朽名の体に命中する。


 そしてたまらず朽名は膝から崩れ、地面へと倒れてしまう。


 倒れる直前朽名の目には、高等部寮側のグラウンドの入り口に『見えない何かから煙が上がっている』のが写った。



「…ごほっ……!はぁ…はぁ…」

「…終わりです、朽名さん」

「…ははは。最初から…罠を設置していたのか……」

「ええ…」


 駒込はこの場所に来るときから、泉気の光線銃を一丁透明にして、グラウンドに向けて設置していた。

 発射はポケットの中のリモコンで行えるようにして、ずっと機をうかがっていた。

 朽名が銃の射線上に入る、その機を…


「貴方の事ですから、見え無くしたくらいで斬撃が決まるとは思っていません。だから『視界に入る見えない攻撃』に意識を集中させて、『視界に入らない見えない攻撃』を決める事にしていました」

「なるほどね…。まんまと僕は一杯食わされたワケだ…」


 自分の手札は隠したまま、相手の手札を全て晒させる駒込の能力。

 まさにその真骨頂が勝敗を分けたと言える。


 そして体に甚大なダメージを負った朽名の体は、足元から消え始める。

 体を象っていた泉気が霧散し始めていたのだ。


「おっと、時間切れ…みたいだ。今回は君の勝ちだね」

「朽名さん…どうして……」


 いかりの感情を抑えながら、駒込は朽名に裏切りの理由を聞く。

 しかしその返答は無く、代わりの言葉が返ってきた。


「…体術、スゴイ良くなったじゃないか。昨日戦った探偵にはまだ及ばないけどね……」

「…」

「……ネクロマンサーはどんどん仲間を増やして力を付けている。油断せずもっと精進しないと、すぐにやられてしまうよ?」

「朽名さん…」


 朽名は微笑みながら消滅した。


 卓也から聞きたかった言葉を放ったのは、お節介でお喋りな、当時の優しい態度の先輩職員であった。


いつも見てくださりありがとうございます。


ブクマと評価ありがとうございます!

目指せ2000PT

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