24 犠牲
マシンガンのような拳の連打を全身で受けながら、男の心は不安と安堵に染まっていた。
不安は、自分を黄泉から復活させてくれた主【ネクロマンサー】は目の前の能力者の事を知っているのだろうか、という点だ。
優れた体術に治療術、腕の長さ・足の硬度の変化などこれまでの経験に無い力を持つことから、卓也が自分たちの計画の障害になり得ると感じた。
帰ってから『敵は回復と物体変化の能力を使います』と報告するのは早計だと思えるほど、卓也の全容が見えてこない。『これが相手の全てである』と伝えるのはマズイと、戦った者の直感がそう告げていた。
安堵の方は、殴られながらも視界の端に待ちわびたモノがようやく現れ、自身の役割を最低限こなせた事から来た。
卓也の情報の一部の入手と任務のサポート。己の働きの自己採点は低いが、男はこれで我慢するしかなかった。
「オラァ!」
卓也の咆哮と共に再び廊下の壁に叩きつけられる男。
卓也の凄まじいスピードとパワーのラッシュを全身に受け、最早立ち上がる事は不可能であった。
腕や足や顔が歪み、最早人の形を留めていない歪な形で床に伏している。
「……ク…ソ」
「…お前を拘束させてもらう。といっても、能力を解除されたらそこまでだが…死体から痕跡くらいは持ち帰れるだろうよ」
光輝から貰っていた特対の魔導具【ケッソクン】を右手に持ちながら近づく卓也。
尋問で証言が得られればベストだが、能力を解除され死体に戻ったとしてもそこからネクロマンサーに繋がる手掛かりが掴めれば音の字である。
何せ目の前にいる男は自ら進んで協力していると言ったのだから、全くの無関係ということもないだろうと踏んだ。
「ふ……ふふ…残念だが、捕まるワケにはいかない…!」
「何…?」
「ラァ!」
男は残しておいた泉気を使い能力を行使すると、彼が今まで倒れていた場所に大量の"砂"が現れた。
男は主に付与された"交換型テレポーテーション"の能力を使い、この旧部室棟にやって来た時と同じ手段でどこかへ移動していったのだ。
止める間もなく逃がしてしまった事に思わず舌打ちが出る卓也。
そして男が消えたと同時に、いのりたちの居る方から悲鳴が聞こえてきた。
「稗田くん!!」
卓也は稗田の身に何かあったと思い、謎の男の追跡は諦め急いで三人の居る所へと駆けつける。
「稗田くん…!しっかりして!ねえ!」
「…!これは…」
卓也が駆けつけると、そこには背中に黒い刀が刺さり床に倒れている稗田の姿があった。
出血はしていないが、既に意識を失っていて守屋の呼びかけに何の反応も示さない。
「塚田さん…!稗田くんが、私を庇って…!代わりに…!」
「落ち着け…稗田は今治療するから。いのり、状況説明頼む」
パニックになっている守屋をなだめつつ、状況をいのりに確認する。
また、同時に稗田の治療をしようと近くにしゃがみ込む。
「突然何もないところからその刀が飛んできて、それで…一番早くに気付いた稗田さんが守屋さんを庇って、彼が代わりに刺されたの」
「他に仲間が居たのか?」
「一瞬だけそれらしき影を逆側の廊下の奥に見た気がしたわ。一瞬だったし、確証はないのだけれど…」
「…最初から敵も二人組だったのか」
卓也は自分たちが守屋・稗田と接触する前から、【獅子の面の男】と【刀を飛ばしたヤツ】が彼女らを狙って動いていた可能性に行きついた。
その推理は概ね当たっており、守屋たちはまさに犯人に呼び出されこの旧部室棟へと足を運んでいたのだ。
ただし自分がターゲットにされるであろうことを読んでいた守屋は、自分を呼び出したという友人に前もって裏を取り、これが罠だという事を承知していた。
呼び出しが罠だと分かっていた上で誘いに乗ったのは、早期解決を目指した稗田の後押しによるところが大きい。
そして犯人たちと守屋たちがお互いを狙い旧部室棟に集まったところに、心の声を察知できるいのりと卓也が介入したというのが今回の対決までの流れだった。
現在展開している"人避けの術式"も、獅子の面の男が自分たちの仕事がやりやすいよう発動させたもので、守屋たちは全くのノータッチである。
推理と事実が異なっている点は、卓也は犯人たちが遅れて現れたのを"漁夫狙い"だと考えたところだ。
決して潰し合いを目論み潜伏していたのではなく、彼らは彼らで予定が狂っていた。
だがターゲットである守屋が特対に保護されかけたので、獅子の面の男も出てこざるを得なかったのだ。
「早く!治してください!このままじゃ稗田くん死んじゃう!」
「………ライフが減ってない」
「え…」
卓也が稗田に触れて治療を試みた所、彼のライフが全く減っていない事に気付く。
そしてそれをいのりと守屋に告げたと同時に、稗田の体が鈍く光り出し足元から消え始めたのだった。
「え…あ…ああ…!駄目…!消えないで、稗田くん!ああ…ああああああああっ…」
「これは、どういう能力だ…!?」
守屋が悲痛な叫びをあげながら、自身を庇ってくれた稗田の体が消えないよう必死にしがみつく。
しかし努力も空しく、足先から起きた体の消滅は体全体に及び、やがて稗田は完全に消滅する。
「稗田くん…………嘘……」
「…くそっ!」
「卓也くん…」
茫然自失となる守屋。
これは卓也にとっても全く未知の症状であり、どうすることもできない無力感に苛まれていた。
同時に、これこそが四人の生徒を行方不明にした能力なのだという事を理解したのであった。
(ご主人!)
(…どうしたユニ?)
(さっきの刀はヤバイぞ!)
ユニが卓也にだけ聞こえる心の声で語りかけてくる。しかもかなり焦った様子で。
珍しい様子のユニに、卓也は耳を傾けると…
(ヤバイって何がだ?)
(詳しい説明は後だ!さっきの刀、もうそこに無いだろ?)
(…ああ。いつの間に…)
(このままじゃ三人ともやられちまうんだ!早くここから離れて!)
(!…わかった)
全員が危ないというユニの言葉に卓也はすぐに頭を切り替え、ここから脱出することを決めた。
床でうなだれる守屋と、その横で心配そうに立っているいのりを小脇に抱えると、廊下の奥の階段を目指して走り出した。
至る所にある自分の血などはあとで真里亜と一緒に片づける事にし、一目散に外を目指す。
「どこへ行くの!?卓也くん!」
「とにかくここから離れる!さっきの刀はヤバイ!」
「離してください…稗田くんが……」
「稗田は俺が必ず助ける!だからまずはここから脱出だ!」
「…本当ですか?」
「ああ、信じろ!」
二人を抱えながら卓也は廊下を走り、階段を下り、急いで旧部室棟から脱出しようとする。
だが途中、前方から先ほどの刀が突如現れ、まるで卓也に向けて発射されようと構えていた。
(ご主人!絶対に触れるなよ!ガードも不可能だ!)
(あいよ!)
まるでミサイルのように発射された刀は、卓也目がけて一直線に飛んだ。
それを卓也は横飛びで躱し、なんとか建物の外へと飛び出した。
そして足を強化すると、膝を曲げて思い切り力を溜める。
そして―――
「二人とも、ちゃんとつかまって、歯を食いしばってくれよ…!」
近くの四階建ての中等部校舎屋上へ向けて大ジャンプしたのだった。
いつも見てくださりありがとうございます。
どうでもいい話。
私はJUDY AND MARYが大好きで、その中でもBrand New Wave Upper Groundという曲が一番好きなのですが。
その曲をカバーしている方がいらっしゃって、それがアイドルマスターに出てくる秋月律子を演じている若林直美さんです。
アイマスはキャラクターカバーソングを色々とやっていて、この曲もその中の1曲でした。
もうね…似すぎと思いました(笑)
もともと声室が似ているのですが、それにしてもビックリしました。




