19 2on2
「「………」」
「「………」」
旧部室棟の廊下で睨み合う四人の能力者。卓也たちも相手も、男女一人ずつの構成となっている。
全員が全身に泉気を漲らせており既に臨戦態勢を取っているが、この場で泉気を確認できるのは卓也と相手の女子生徒のみだった。
「いのり、下がって」
まずは話を聞こうと思っている卓也だったが、とてもそんな雰囲気ではないと感じ突然の攻撃に備えいのりを自身の後ろに下がらせた。
いのりも三人目の敵の存在や後ろからの攻撃を警戒し、あまり離れすぎないような位置に落ち着く。そして少しでも敵の情報を得ようと心の声に集中したところ、ある事に気が付いた。
「!…卓也くん」
「ん?どうした?」
「あの二人、私たちの事を誘拐犯だと思ってる…」
「何だって…?」
いのりが再度能力を使うと、流れ込んで来たのは『犯人にやられまい』とする二人の意気込みであった。
相手も卓也と同様被害にあっているのが"能力を持った生徒"だという事に気付き、近いうちに自分がターゲットにされるであろうことを予測した。
そこに卓也といのりが接近した事でとうとう犯人が襲い掛かって来るのだと勘違いしてしまい、敵意がむき出しの状態となったのだ。
それを受け卓也たちも彼らが『捕まるまい』とする犯人だと誤解し、対峙してしまった。
今、二組の男女は"お互いを犯人だと思っている"状態にある。
「そりゃあ早いところ誤解を解かないと…」
「ええ…」
心の声が読めるおかげで状況をいち早く察知した卓也たちがまず動く。
説得の為の第一声を放とうと、改めて二人の生徒に向き合った。
「待ってくれ、二人とも!俺たちは…っ!?」
『誘拐犯ではない』と続けようとしたところに、正面から高速で飛来する物体を確認する卓也。
咄嗟に自身の左腕で防御すると、そこに二羽の"泉気で作られた鳥"が攻撃を繰り出していた。
「卓也くん!」
「これは…」
攻撃してきた内の一羽は【オウギワシ】と呼ばれる猛禽類で、その両足が卓也の肘の辺りをガッチリと掴んでいた。普通の人間の腕などいとも簡単に引き千切ってしまう攻撃だったが、強化していたおかげでダメージを受けずに済んでいる。
もう一羽は【カンムリクマタカ】という猛禽類で、鋭いクチバシが卓也の手の甲を貫かんとしていた。しかしこちらも強化していたおかげで傷一つ負うことなく済んだ。
「っと…!」
卓也は落ち着いて、空いている右手でまずカンムリクマタカの首をねじ切る。そしてもう一方のオウギワシの足を右手刀で切り落とすと、左手で頭を握りつぶした。
二羽の鳥は力なく床に落ちると、やがて音もなく霧散する。
「大丈夫?卓也くん」
「ああ、問題ない。そっちは?」
「私は平気よ」
「そうか…」
後ろで待ついのりに何もないと聞いて安心する卓也。
先ほど鳥の攻撃を腕で受けてみて、いくらこちらを誘拐犯だと思っているとはいえ、あまりに容赦のない攻撃に驚いていた。
あちらは犯人を全力で潰す気でいる事が伝わったのだった。
「さて…どうするか」
二人の生徒の方を見ると、コンロが再点火したかのように泉気の鳥が蘇っていた。
しかも先程よりも数を増やして…
「うわ…」
卓也がその数にウンザリした顔をしていると、いのりから声をかけられる。
「卓也くん」
「どした?」
「あの二人、すごい驚いているわよ」
「何でさ…?」
「『あの攻撃を受けて無傷だと…』だって。ふふ♪」
「…楽しそうっすね」
卓也への報告に浮かれた様子が混じるいのり。
何がそんなに愉快なのかと尋ねると、いのりは
「だって私のナイトが褒められているんだもの。これほど誇らしいことは無いわ」
と語った。
さながら今の状況は彼女にとって、二組のプリンセスとナイトが対決しているという構図なのだ。
あまりの場にそぐわないノリに少し呆れる卓也であるが、おかげで肩の力も抜けた。
「褒められてないし、鳥の数が半端なく増えたんだけどなぁ…」
「頑張って!」
「はいはい…」
姫の応援を受け力が湧いたかどうかは不明だが、卓也は二人を真っすぐ見据え語りかける。
「二人とも聞け!俺たちは誘拐犯じゃない!俺たちも犯人を追って調査しているんだ!戦う理由はない!!」
離れた二人に届くよう大声で話す卓也に先に反応したのは女子生徒の方だった。
「え…」
卓也の言葉に戸惑い、今にも突撃しそうな鳥たちの一羽が彼女の肩にとまった。
それを見て、鳥の能力の持ち主が彼女であることを悟った卓也。そしてこのまま説得をすれば相手の振り上げた拳を下せそうだと予感した、その時————
「騙されるな萌絵!犯人は大体そう言うもんだろ!」
「あ、ご、ごめんなさい…」
話に耳を傾けかけた女子生徒を一括し、再び臨戦態勢へと引き戻す男子生徒。
そして待機していた鳥たちに
「…行って!」
と命令し、卓也たちに向けて飛ばしたのだった。
「チッ…!もう少し…だったのに!」
悪態をつきながらも猛スピードで飛来する鳥をはたき落としていく卓也。
銃弾を余裕で弾くことのできる卓也にとっては鳥類最速であるハヤブサですら捌くにはワケない事だが、後ろにいのりが居る事、そして銃弾と違い直線移動だけとは限らない鳥を相手にしている為、非常に丁寧に対処していた。
基本はパンチやキックやチョップでの攻撃、それで対処しきれない時は一旦腕や体で受け体に接触している鳥を潰したり捻ったりして消滅させる。これの繰り返しだった。
普通の能力者にとって脅威であるハズの爪やクチバシが全く通用せず、どんどん泉気が削られていく状況に二人の生徒は焦りを見せる…と思いきや、どちらも非常に落ち着き払っている。
しかしその様子を、必死に鳥の対処をしている卓也が気付くことは無かった。
根比べならば問題ないと判断し、常人であれば1分ともたないであろう攻撃を粛々と対処し続ける卓也。
その時は突然訪れた
「…!?」
卓也が自身の異変に気付いたのは、鳥の猛攻が始まって5分が経つかというタイミングだった。
突如左腕に力が入らなくなり、ダラりと肩から垂れ下がった状態となる。
卓也は咄嗟に背広を脱ぎ能力で硬化すると、万が一に備え自分といのりの間に防壁として置いたのだった。
「どうしたの?卓也くん…」
「…分からない。いきなり左腕が―――」
「腕でも動かなくなったのかな?お兄さん」
廊下の奥では女子生徒が息を整えるために一旦鳥の攻撃を止めている。
代わりに男子生徒の方が卓也の症状をズバリ言い当てるのだった。
「俺には分からないけどさ、レフリーがそう言うんだからそうだってことだよな…」
「…」
卓也もいのりも男子生徒の言葉の意味を掴みかねていると、廊下に機械のような音声が響き渡った。
「左腕ノダメージガ一定値ヲ超エマシタ。左腕ノ機能ガ停止シマス」
卓也たちと男女の生徒の間に、いつの間にか機械のようなものが出現していた。
両手に旗を持ち、赤い蝶ネクタイを付けたその機械は、男子生徒の言うようにレフリーのような様相である。
その機械が卓也の異変の理由であることは、誰の目から見ても明らかなのであった。
「俺の能力、【合意と見てよろしいですね?】が、公平に判定したってことだよ、お兄さん」
いつも見てくださりありがとうございます。
メダロットの思い出。
メダロット2を一番遊びました。
幸いにもカブトバージョンを購入したので、コウジくんの愛機はスミロドナッドでした。
フレクサーソード、強かったなぁ。
知らない人は能力名もこの後書きもハテナでしょうね…(笑)




