11 二人の悪徳警官 その1
「先輩、携帯鳴ってますよ…っと、危ない」
「あぁ!?クソッ…誰だよ、こんな時に…」
神多のとあるキャバクラのカウンター裏に身を隠すのは、神多駅前交番に勤める警察官二人。
清野誠と藤林驟雨介だ。
彼らは迫りくる銃弾の雨をやり過ごすために隠れ、反撃の機をうかがっていた。
藤林が時折銃を持った腕だけをカウンターの上に出し、相手が近付いて来ないようけん制している。
ヤンデレと化した美咲から離れるために家を飛び出し、卓也が清野に電話をかけたのが丁度この時だった。
忌々しそうな態度でポケットからスマホを取り出すと、画面に表示される卓也の名前を見て通話ボタンを押す。
だが清野の第一声は「もしもし」などというお行儀の良いものでは無かった。
「なんだよっ!?」
『清野、今少しいいか?実は大変なことが起きて—————』
「こっちも今それどころじゃねえんだ!後でかけ直す!!」
『あ、ちょ…』
卓也に対して一方的に通話を終了させスマホをポケットにしまい、手に持っていた紙袋から銃を取り出すと、隣にいる藤林に渡した。
「藤林、コレ使え」
「おっ、いいモン持ってるじゃないですか。早く出してくださいよ先輩」
清野が渡したのは"PPー91 ケダール"というロシア製の短機関銃だった。
藤林は嬉しそうに受け取ると、一度マガジンを取り出し中を確認し再び装填する。
そしてレバーを引きストック(銃を体に押し付けるための部品)を出すと、反撃の準備を完了させた。
「な、何でアンタらそんなもん持ってんだ!?」
「あ?」
清野は紙袋からもう一つ持って来ていた"MINI UZI"を右手で取り出すと、反対の手に持っているニューナンブを顔の横に持って来て
「コイツを使っちまうと報告書やら何やら色々めんどくせえんだよ…。その点コイツは撃ち放題だ…」
今度はUZIを顔の横に持って来て、悪い顔で話す。
「何せコイツぁもうこの世には存在しない銃だからな。存在しない銃を撃ったところで、誰も気にするこたぁ無ェんだぜ…」
「うわぁ…」
普段はこの店で料理やお酒を作る店員が、清野の悪い笑顔を見てドン引きしている。
彼は運悪くこの銃撃戦に巻き込まれ、清野・藤林と一緒に咄嗟にカウンターに隠れたのだが、内心早く帰りたいと思っていた。
しかし—————
「反撃開始だ!藤林ィ」
「行きましょう」
二人は相手に向けてサブマシンガンを撃ち始める。
「うお!コイツらマシンガン持ってるぞ!!」
「怯むな!撃て!!」
卓也がヤンデレに追われている中、清野は藤林と共にヤクザ相手に戦闘を行っていたのだった。
なぜそのような状況になっているのかというと、遡る事一週間前。
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「先輩、閃光玉使います」
「よしいけっ」
二人は交番の中で朝からゲームに興じている。
机に向かい合わせに座り、怪物ハンティングの真っ最中だ。
清野に至ってはタバコを咥えながら、本来であれば交番を訪ねてきた人が座るための椅子に背もたれを前にして体を預け、キャスターであっちに行ったりこっちに行ったりしながらゲームをしている。
だがこれも神多駅前交番では日常茶飯事であった。
最初こそ近隣の人間からは疎ましく思われていたが、二人ともトラブルの際は非常に頼りになるのと、気さくな態度が段々と受け入れられたのだ。
特対に所属する上長は彼らの素行をとても良く思っていなかったが、特対に来てほしくもなかったので半ば黙認していた。
それが今の状況を生み出しているというワケである。
そんな不良警官の元に、一人の来客が訪れた。
「ちょっと、二人とも大変だよ!!」
「お、おばちゃん」
清野におばちゃんと呼ばれたのは、神多で小料理居酒屋【秋桜】を営んでいる店主【土屋 みえ子】御年58歳。
優しい家庭料理と美味しい日本酒で客をもてなす、清野もちょくちょく通うお気に入りの店だった。
そんな店の店主が、血相を変えて交番に飛び込んで来たのだ。
だが清野は落ち着き払った様子でゲームをやりながら応じている。
「どしたん?そんなに慌てて」
「ゲームなんてやってる場合じゃないよぉ…!店の近くで人が倒れてるんだよ」
「どーせ酔っ払いだろ。ほっときゃ居なくなるって」
「それが呼びかけても全然返事をしないのよぉ」
「じゃ警察じゃなく救急車だな」
「いいから早く来てちょうだいよ!」
ゲームをしている清野の腕を引っ張る土屋。
その強引さに負けたのか、清野はゲーム機を机に置いたのだった。
「わーったよ…ったく。藤林、俺のキャラはキャンプに置いとくから、あとは一人で倒しとけ」
「はーい」
「じゃ行くか…」
「早く早く!」
清野は渋々おばちゃんの案内する場所へ向かうことにした。
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「ホラ、あそこよ」
「あー」
案内されたのは、秋桜の程近くの路地であった。
神多と秋覇原の丁度あいだ位のJRの線路の高架下。
多くの飲み屋や飲食店が軒を連ねる通りの一本内側の、ほとんど人通りが無く昼間だというのに薄暗い不気味な路地。
その傍らに、男性が一人うつ伏せになって倒れているのが見えた。
「今の夏場は人が道路で寝ているなんてのはよくあるんだけどねぇ。ここまで起きないのは初めてでさぁ」
「……おばちゃんはここにいな」
清野は男を遠目から見て、その異変にいち早く気付いた。
そして自身の能力で探り、男の体に血液がほとんどない事を確認する。
さらに水分を探る過程で、もう一つの重大な事実にも気が付いたのだ。
「おばちゃん…向こうを向いてな」
「え…?」
「多分超絶グロいぞ」
清野の脅しに、土屋は慌てて倒れている男性とは反対方向を向いた。
それを確認した清野は男性に近寄ると、肩を掴みうつ伏せから仰向けにさせた。
すると—————
「コイツぁ…」
理科室にある人体模型のように、首の下から腰の上あたりまでポッカリと空洞になった、男性の死体が見えたのだった。
いつも見てくださりありがとうございます。
ちょっとパロディやらなんやらはしゃぎすぎたので、落ち着きます。
あと少しやったら5章やります。
引き続き不要不急の本作にお付き合い頂ければ幸いです。




