40 奇跡の美容整形医師
事情聴取の最中に志津香たちが乱入したせいで中断してしまったものの、そのまま五人での意見交換をして小会議室での一幕は終了となった。
またその後、清野たちと一部の職員を交えての対策会議が開かれた。
と言っても俺と伊坂は途中からあまり役立てなかったと思う。
やはり特待の持つこれまで蓄積された情報やパターン、ノウハウは俺なんかが容易に入れないような世界だった。
つか、この中で一番能力者歴短いの俺じゃん…
……そんなわけで、夕方になるまで今後の方針や打てる手だてを考えた。
俺が役立てそうなのは、ハガキの能力を有する【全ての財宝は手の中】のメンバー・飯沼の泉気を復活させることくらいかな。
ネクロマンサーの手がかりを少しでも手に入れる事が出来るかもしれない。
まあ…周りに職員が居る中であれほどベラベラと自分の事を話したからには、敵も対策があってのことなんだろうが。
現在の居場所や、死者と生者の見分け方、宗谷修二を殺した人物の名前など切り口を変えれば足跡が辿れる。
俺は今日にでも品河に行き泉気を戻そうかと考えていたが、鬼島さんから
「すまない…今すぐ行きたいのは山々なんだが、組織として全職員に今回の件を共有し、対策本部を設け、その為の打ち合わせをしなければならないんだ…そんなことしてる場合かと呆れられてしまうかもしれないが、必要な事なんだ…」
「なるほど…」
俺が飯沼に直接触れるのもいきなり行ってハイどうぞというワケにはいかず、然るべき手続きを取らないとダメということだ。
まあ、言うて公務員だしな。
稟議のスタンプラリーとか、会議の為の会議とか…。
色々大変だな、鬼島さんも。
「じゃあ、私はこれで。塚田くんには改めて連絡するから」
「はい」
そう言い鬼島さんは何人かの職員と行ってしまった。
「…………行ってしまいましたね…」
「だねぇ」
「ふむ…」
そして残された俺たち七人は顔を見合わせて、どうしたもんかとアイコンタクトをとる。
しかし清野がおもむろに「帰るわ」と言ったので、俺もそれに同意した。
こうして、俺の嘱託生活は終了を迎えた。
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18:30 特対施設 正門
もうすぐ夜だというのに外はまだ暑く、夕日で明るかった。
俺は着替えの入ったバッグを片手に、志津香・美咲・なごみ・和久津・伊坂と一緒に歩いていた。
皆で俺を見送りしてくれるということで、ありがたく受けたのだ。
ちなみに清野は、俺が自室へ荷物を取りに行き受付で終了手続きを行っている間に帰ってしまったらしい。
つれないヤツだな…。まあ、いつでも会えるけど。
そしていよいよ、5日間寝泊まりし色々な事があった特対施設から出ようという時に、志津香が口を開く。
「また遊びに来て、卓也」
「そうだな。そしたらまたお笑い一緒に見ような」
「特対はいつでも入職を待っているからねー」
「はは。今のとこをクビになったら頼むわ」
「絶対…また来てくださいね」
「おう。また怪我したら言ってな?治しに来るから」
言葉は違えど、三人は別れを惜しんでくれてとても嬉しかった。
思えば、ろくに頼れる相手も居ない中、皆にはとても世話になったな。
特に志津香には案内や調べものなど多くのサポートをしてもらった。
今度何か美味しい物でも差し入れようかな。
不公平になってしまうから、皆の分も忘れないようにしないと。なんて…
「…塚田くん」
「おう、和久津も伊坂も、良かったな。もう隠れて過ごす必要もなくなって」
先ほどの会議の中で、彼女たちの今後も決まった。
和久津は元居た1課職員として、能力探知の任に戻る事になったのだ。
殺された如月職員の責任を少なからず感じていたようで、ネクロマンサー捕獲に燃えていた。
鬼島さんの言うように処罰は特になく、近いうちに全職員に通達されるとのこと。
そして伊坂は、あと半年経てば高校卒業の時期になるので、そしたら特対に入る事に決めたのだった。
今度特対が正式に親御さんのもとへ謝罪に行き、この1年間の事と能力者の事などを説明し改めてオファーをするそうだ。
先ほども特対は強力な能力を持つ彼女を必死に説得したのだとか。まあ当然だよな。
なので、彼女もまだ帰宅はしない。この中で今日帰宅するのは俺だけだった。
「君には本当に世話になったね…ありがとう。私たちを見つけてくれて、ありがとう…」
「半分は清野のおかげだけどな。間にあって良かったよ」
「ああ…」
「塚田さん…」
「伊坂も、1年間よく頑張ったな」
「っ…!」
俺は頭に手を置き、伊坂に労いの言葉をかけた。
ある日突然殺人犯にされ、能力者に追われ、計り知れない恐怖を味わった彼女。
そこで折れて、諦めて、命を捨てていたら、もっと大変な事になっていたかもしれない。
だが彼女は戦った。
戦って戦って戦った。
そして声をあげてくれた。
だから見つけることができた。
彼女たちも、敵も。
依然脅威は去っていないが、それでも彼女たちは元の自分に戻ることができる。
だから気持ちを込めて「お疲れ様」と伝えたのだ。
「うっ…」
「? どうした、いさ…」
彼女からの返事は無かったが、地面に零れた水滴が、喜びを表しているようだった。
少しの間、彼女は声もあげず涙を流し続けた。
本当に、間にあって良かったと、そう思う。
「さて…じゃあ、行くな」
伊坂が落ち着いて少ししたタイミングで俺が切り出す。
志津香と美咲となごみは正門の内側で見送ってくれたが、伊坂と和久津は守衛室を抜け道路まで一緒に来てくれたのだった。
「志津香たちと同じとこまでで良かったのに」
「いやぁ、私たちも元の姿に戻る為にある人を待っているのさ」
「え…?」
「以前話したかもしれないが、伊坂くんと私をこの姿に変えてくれた能力者が居るんだ。そしてこんなこともあろうかと、昨日ここに呼んでおいたんだ」
なるほど…解決を見越して連絡を取っておいたと言うわけか。
素晴らしい読みだな…。まあ犯人が分からなくても姿は戻した方が話に信憑性が増すもんな。
「お、どうやら来たみたいだ」
和久津の目線を追うと、恰幅の良い男性が一人、門に向かって歩いてきているのが見えた。
あれが姿を変える能力者か…
男は俺たちの姿を確認すると、少し早足で近付いてきた。
「お待たせしました。和久津さん、伊坂さん」
「どうも。わざわざご足労頂きありがとうございます」
「いえいえ。ついでなので気にしないでください」
「ここでは何なので、あそこの詰所を借りましょうか」
和久津が指差したのは、守衛さんの居る部屋とは門を挟んで反対側にある小さい部屋だった。
確かにこんな人の往来のある場所で変身はできんわな。
「お持たせ。じゃあ行こうか」
和久津は守衛さんにお願いし鍵を借りると、男と一緒に伊坂と歩き出した。
「なぁ、俺も見ていい?」
「もちろんさ」
許可が下りたので、一緒に彼女らが元の姿に戻るところを見ることに。
「まずはどちらから?」
「では私から」
「はい」
詰所には六人がけの机とパイプ椅子、そしてトイレに風呂と、ベッドが二つあった。
交代しながら見張りをするときに、片方がここで寝たり食事をするのだろう。
そして和久津と男は近くに座ると、椅子を動かし向かい合った。
俺と伊坂は近くで立ってその様子を見ている。
「あ、元の写真とか持ってきてないな」
「大丈夫ですよ。こちらで変身の履歴が見えますので、元に戻すだけなら見本は要りません」
「へぇ…凄いな…」
「ふふ…」
感想を漏らすと男は俺の方を見て少し誇らしげな表情を見せた。
お茶目なおじさんだ。
「では、宜しく頼みます」
「すぐ済みますよ」
おじさんが手をかざすと和久津が少し光る。
だが2秒もしない内に光が収まり、和久津が別の姿へと変わっていた。
「それが…」
長い黒髪に鋭い目つきの女性だ。
今までの姿よりも口調が合っているなという印象だ。
「どうだい塚田くん。惚れ直すだろう」
「せやな」
「ちょ…適当だな……」
俺が和久津を軽くあしらっている内に伊坂も終了したらしく、以前スマホの画面で見せてもらった活発そうな少女の姿があった。
「どう?塚田さん」
「世界一かわいいよ」
「扱いよ…」
三人で笑いあった。
こんな些細なことでもとても幸せに感じるのだから、二人の喜びはもっとだろうな。
なんて事を思いながら少しの間おじさんを放置して三人で盛り上がった。
そして
「じゃあ、そろそろ帰るわ。面白いもんも見れたしな」
「そうか。じゃあ、また…元気で…」
「うん。また、ここに来ることがあれば、その時は…」
「おう」
俺たちは握手をかわし、とうとう別れの時が来た。
だが、寂しそうな顔の二人に別れを告げ詰所を出ようとしたところ、思いがけない声をかけられる。
「じゃあ、私たちも行きましょうか、兄さん」
隣にいたおじさんが、そんな事を言うのだ。
兄さん?あんたみたいな年を取った弟俺には居ないぞ…
おじさんが言う「あんちゃん」みたいなもんか?それにしてはしっとりしているが…
頭の上に?を大量に浮かべていると、突如おじさんが光りだした。そしてーーー
「………………………真里亜」
先ほどまでおじさんがいた場所には、我が妹、塚田真里亜が微笑みながら立っていたのだ。
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