27 二刀流の男 (大規模作戦4日目)
「敵の本拠地であるこの島は太平洋沖に存在し、周囲に接岸できるような場所は存在しない。なのでまず最初に島の1か所を切り開き船を付け転送能力を準備しなければならない。観測して分析した結果、島の南東にーーー」
大会議室では鬼島さんが前で、本日の作戦の内容と各チームの役割を説明をしている。
始めに説明した島への突入方法だが、ショッピングモールと違い陸路が無いので、まず先遣隊が島の一部に陣地を形成しそこに残りの人間を転送していくという内容だ。
そしてこの作戦で最も危険な島の開拓を任されたのが、なんとあのゲーム好きの鷹森だった。
鷹森隊と呼ばれる6人が、この中で一番の戦力という評価のようだ。
「---転送準備が出来次第、隊ごとに島へ入ってもらう。順番は…」
突入する順番を、隊長の名前でどんどん読み進めていく鬼島さん。
しかし俺は面識が無い為、水鳥隊以外は誰も分からなかった。
「医療チームは接岸後の転送ポイントと一緒に医療拠点も形成するので、そこで活動してもらいたい。三島職員は事前に医療チームのリーダーから渡された設計書をもとに、土の能力で簡易型の医務室を作成してくれ」
三島という職員は鬼島に指名され、はいと頷いていた。
彼が土で天井や壁を形成し拠点を作るのか。
俺はその医療チームに入る、ということでいいんだよな?
特に言及はされていないが、そこしかないもんな。
「一つよろしいでしょうか」
俺が心の中で自己完結していると、挙手をする職員が一人。美咲だった。
「どうぞ」
「本日急きょ加わったたく…塚田職員も医療チームという事で間違いないでしょうか」
まさかの美咲が、俺の代わりに俺の所属についての質問を鬼島さんにしていた。
なんか悪いことしたな。息子の代わりに先生に質問するオカンみたいだ。
「そのことなんだが、塚田職員に関しては今回医療チームでの運用は考えていない」
「え?」
「どういう…ことでしょう」
「彼にはFLH…"フロントラインヒーラー"として活動してもらおうと思っている」
「え…」
あたりがざわつき始めた。
俺の周りだけではなく、会議室全体がざわざわしていた。
FLH、訳すと『最前線の治療術師』ということだが、具体的にはどうすればいいんだろう。
「鬼島班長、スミマセン」
「塚田職員、どうぞ」
流石にここは聞いておかないとと思い、俺は挙手し質問する事にした。
「そのFLHとは、具体的にどういう動きをすればいいんでしょうか?」
「ふむ、君が知らないのも無理はないな。何せ運用するのも15年ぶりくらいになるからね」
「はぁ…」
「FLHとはそのものズバリ、最前線で治療をする者。今回君には島中を動き回って各所で傷ついた仲間たちを治療していってほしいのだよ」
「なるほど」
陣地で怪我人が転送されてくるのを待つのではなく、戦地に行って治してくるポジションという事か。
確かに激戦区でわざわざ転送チームが回収しに行くよりも、俺が直接行った方が早くて確実だな。
通常の医療チーム+αとして動けそうだ。
「いくらなんでも危険すぎます…!!本拠地で彼一人なんて」
それに異を唱えたのは美咲だった。
彼女は俺が戦地で一人になる事を嫌っているようだ。
確かに多くの人間がチーム単位で動いている中、昨日まで医療チームとして活動していた俺が単独で動くというのは無理があるか。信用的にも。
俺は一人で自由にやりたかったんだが。
「彼一人なんて言ってないさ。彼には駒込職員とバディを組んでもらう」
「はい」
鬼島さんの隣の席でこちら側を向いて座っていた男が返事をする。
随分と若いけど、参謀役みたいな感じだろうか?
「塚田さん、はじめまして。駒込 瓜生と言います。私の能力は『周囲の景色に溶け込むマントを作る能力』です。よろしくお願いします」
「あ、塚田卓也です。よろしくお願いします」
彼につられて俺も立ち上がりお辞儀をする。
距離は大分離れているが、自己紹介を済ませた。
「駒込職員と隠密行動を取りながら、怪我人が出た場所に迅速に向かい治療をするというのが二人の役割だ。怪我人の報告を受けてガイドする役は駒込職員が行い、塚田職員は治療に専念してもらう」
「ですが…」
「両名は戦闘能力も十分に備えていると認識している。最低限自分の身を守りながらの移動はできると考えているよ。勿論なるべく戦闘にならない為の能力なのだがね。島では多くの敵が待ち構えている。転送チームも多く投入するが、それでも重傷者を安全に拠点に送れる保証はない。これは万全の為の一手だと納得してくれ」
美咲がこちらを不安そうに見るので、俺は声を出さず頷く。心配するな、と。
「承知しました…」
「貴重な意見をありがとう。では、次に…」
美咲の質問が終わり、再び作戦説明に戻ったのだった。
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『バディ…ですか?』
『ああ』
塚田職員に電話で交渉を終えた鬼島さんは、明日の予定を私に伝えた。
『明日は君と塚田君で一緒に島中を回って治療活動をしてもらおうと考えている』
『FLHですか?それはかなり無茶な采配なんじゃ…』
『表向きには"隠密行動を取りながら"とするが、塚田君には好きに動くように言っていい。恐らくだが彼の強さの片鱗が見られるだろう。いや、是非見て、私にも共有してほしい』
『共有ですか』
もし鬼島さんの予想が本当なら、【手の中】のメンバーを単騎で複数討伐したとなれば鷹森・水鳥クラスの戦闘能力を有している事となる。治療能力者なのに、だ。
「私が同行して見て回りたいのは山々だが、立場上そうもいかないのでね。君なら臨機応変に対応できるし、彼も私の側近と分かれば実力の多くを見せてくれるかもしれない」
「…やれるだけやってみます」
って言ったけど…
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「ば、化物だー!!」
「撃てー!!」
自動小銃の弾を体に受けながらも、塚田は一切速度を緩めず敵に突っ込んでいく。
そして銃を握りつぶすと、持っていた男の顎に裏拳を一発。
それで沈黙した。
「しっ!」
完全に死角からの敵の斬撃を体を捻って避けると、アッパーで顎を射抜きKO.
落としたサーベルを投げつけ離れた所に居た槍使いの足に命中させ、動きを止める。
そのまま猛ダッシュで近づき逃げようとする男の後頭部にラリアットをかまし倒す。
「怪我は無いですか?駒込さん」
「あ、ああ…」
マントで隠れていた私に近づいて来て話しかける塚田。
服は汚れているが、傷一つ付くことなく数十人の敵を沈黙させた。
辺りには多くの敵が倒れている。
体術が凄すぎる。
剣・槍・徒手などなど、様々な敵への対応が完璧だった。
また彼も敵から奪ったエモノの扱いが見事で、思わず目を奪われてしまうほどだ。
そして銃弾が通らないほど異常に硬い体。
拳法には体を丈夫にする技があると聞くが、それと泉気のハイブリッドか…
物理攻撃は硬い体で受け、それ以外は華麗に躱す。
戦闘慣れしているにもほどがあるな。
「よいしょっと…」
私の迷彩マントを被ると、塚田は
「じゃあ、進みましょうか」
と言った。
鬼島さん…この凄さを言葉で伝えるのは厳しいです。
カメラ映像を楽しみにしていてください……
いつも見てくださりありがとうございます。
ブクマありがとうございます。
引き続きお付き合いください。




