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第六話

 僕は十五歳という年齢にして、妻帯者となった。

 このニュースは当然国内で広く知られることとなり、また同時に成人年齢の引き下げや少年法の撤廃等々も同時に知られることとなり、この国に激震が走ったと言える。

 性の低年齢化が叫ばれているが、正直そんなものはその低年齢の子どもの親だって同じことをしてその子どもを産んでいるのだから、別に大した問題ではない。

 

「セックスに関する法案ですが」

「ん?ああ」

「どの様にして、判別いたしますか?」

「国民全員に識別ID入りのチップを埋め込むことを義務化する。心拍数や体液の分泌量なんかを判別できるものを早急に開発させよう」

「では、私たちも?」

「もちろんだ。今回僕らが結婚することになった様に、提唱した人間が手本を示すのはごくごく当然のことだからね」


 そんなわけで来栖……桜花に命じて多目的に国民の状況を把握できるチップの開発を進めてもらうこととなった。

 最短で一か月もあればできる、ということだったが何故今までそう言ったものを作らなかったのか。

 もちろん人権が、なんて言う連中の弊害によるものだろうが、今後は過剰な擁護等も処罰対象にしていくつもりではあるし、反対意見は全て封殺する。


 人頼みで生きてきた様な国なのであれば、国に管理されても文句はあるまい。

 都合のいい時だけ自由が、なんてぬかす様なのは生きる資格すらないと言えるだろう。


 ちなみに結婚することにした、ということを母に告げた時、母は仰天していた。

 予感どころか一生独身を貫くのではないか、と思われていたらしく、桜花に対して酷く感謝を述べていてそれはそれで複雑な心境だったが、僕としても軽い親孝行は出来たと思っている。


「総理、先ほど仰っていたチップですが」

「うん、どうかした?」

「性能としては心拍数、血圧、体温等病院で受ける検査と同等の物も同時に把握できる仕組みになる様です」

「そうか、順調そうで何よりだ。ある程度一致するタイミングで、婚姻関係にない男女が特定の体液を分泌した場合、そいつらはただちに死刑だ。また、婚姻関係にあっても分泌されてから四か月以上女側に体調の変化が見られない場合には体質検査を義務化しようか。不妊体質というのもあるらしいから。それから、一か月以上性交の痕跡がない夫婦についても、カウンセリングの義務化だな」

「よくお考えになりましたね」

「よんどころない事情というのは、誰しもあるものさ。僕だって、たまに無性に君を抱きたくて仕方なくなるときがあるんだから」


 実際に僕らが夫婦になってから、婚姻関係の手続きをした国民は爆発的に増えたらしい。

 そして就業率も一気に跳ね上がった。

 学生結婚というものはほとんどその姿を消し、男女交際というものは事実上のタブーとなった今、街でキャッキャウフフしているのは大半が夫婦ということになる。


 それから、少年法の撤廃についても効果はそれなりにあった様で、殺人等の事件を起こした元未成年、つまり十五歳以上の人間は、実名報道することを義務化した。

 顔にモザイク等のものは配慮ではなく擁護でしかなく、見せしめが必要だ。


「ここ一か月で、死刑になった人間は千人を超えました」

「そうか、心が痛まないわけではないけど、逆らう人間も一定数いるんだということは想定していたからね。必要な犠牲だと思おう」


 たった一か月で死刑?と思われるかもしれないが、僕の国に執行猶予などというものは存在しない。

 掴まって罪状が固まればその場で執行してよし、という法律でもあるので、極端な話婚姻関係にない男女がセックスをしていれば、その場で射殺される。

 恐怖というのは人間に変革をもたらす材料になり、抑止力にもなる。


 強制されなければ何も出来ない、という人間も多くいるこの世の中では非常に有効な法律と言える。

 見せしめ、とはよく言うが実際に脅しではなく、やると言ったことはやるよ、ということを実例として示すのは必要なことだ。

 よって、僕の作る国に死刑以外の刑罰はなく、大きなものから小さなものまで全てが死刑。


 万引きでも強姦でも殺人でも放火スピード違反でも等しく死刑、という法律を作ったからなのか、犯罪件数自体は例年に比べて激減したという報告もあった。

 もちろんバレていないだけの潜在的なものについても全力で調査させているので、潜在的なものについてもすぐに減少して行くであろうことは想像に難くないが。


 他には生産性のない人間を撲滅するための法律も作った。

 最近テレビに蔓延る、技量も個性もないのにアイドルでございという大層なドヤ顔ども。

 別に見た目が綺麗なわけでもないのに、無駄にアイドルを量産する風潮。


 これについても規制した。

 そもそも芸能界というのは、一定の芸、それに準じた能力があってのものだろう、というのが僕の見解だ。

 よってそのどれも持ち合わせていない人間は芸能界にいる資格などなかろう、ということできちんと生産性のある職業に就く様最初は勧告をする。

 それによって努力する者と諦めて社会に出る者とに分かれる様だ。


 また、おバカキャラを売りにする風潮。

 これについても規制した。

 恥ずべきことを売りにするなど国の恥であり、また必要最低限の一般常識すら持ち合わせていない、低能。

 

 そんなやつにムダ金をバラ撒いているから、格差はなくならないのだ。

 見た目が可愛いから、綺麗だから、というのも良くない風潮だ。

 なので人を見た目で判断するのも全面禁止した。


 そして、最近目立つ無礼極まりないゲスな番組取材等。

 例を挙げるのであればアポなし旅と称して、飲食店に突然取材を申し込んだりするものや、一般人に失礼な取材をした挙句に暴言を吐いたりするなど、見ていて不快に感じる様なもの。

 この国の常識を疑いたくなる様なものばかりだ。


 なのでこれに関しても厳格な法律を制定した。

 大まかに、いかなる事情があろうとも必要性のないものを強要することを固く禁ず、と。

 これによって学校や職場におけるいじめなどの被害の減少も期待できる。


 見て見ぬふりも、いじめた側。

 つまりは加害者と同列に死刑の対象になる。

 寝ていました等の言い訳はチップによって判別できるために通用しない。

 

 そして教員もそれを聞いて有効な対策を講じなければ職務怠慢で死刑だ。

 そしてこれが一番波紋を呼んだ、と聞いているのが子どものしたことは親の責任。

 子育てが間違っていたから、子どもが犯罪を犯すのだ、というもので十五歳未満の子どもが捕まれば、親も同様に逮捕される。

 

 実例として、衝動的に友人を刺殺してしまった十三歳の子どもが逮捕され、死刑になった。

 後日その両親も逮捕され、死刑は執行された。

 その子どもには妹がいたらしいが、その妹は祖父母の家に引き取られるという事態になり、子育てに関しても手を抜くことが出来ないという空気は強まったらしい。


 意外なことにこの法律が出来てからの、これに関連した死刑執行数は未だ百を数えないらしい。

 自分の子どもが大事なのか、自分の命が大事なのか。

 どちらにしても認識が変わった証なのだろうと考えられる。


 だって、変わってないんだとしたら、今頃親子で死刑とか百じゃ利かないでしょ。



「総理、面会を希望されている方が見えていますが」

「面会? 誰? 名前は?」

平沢怜美ひらさわれみ様と仰る女学生です。お会いになりますか?」

「…………」


 とうとうきたか。

 いや、来るんじゃないかって予感はしてた。

 散々存在を匂わせていた、お隣の幼馴染であるところの怜美。


 とは言え何しに来たんだ?という思いもないではない。

 結婚することはテレビで発表したし、正直今更会ってどうしようというのか。

 

「ふむ、旧友だし通してやってくれ」

「畏まりました」


 桜花が怜美を迎えに行って、少しすると怜美は桜花に伴われて官邸に入ってきた。

 官邸は通常であれば一般人が立ち入ることは出来ないのだが、僕が知り合いであることを認めたので入ってこられた、ということなのだろう。

 そして久しぶりに顔を合わせる勝ち気な目とツインテールが印象的な、一般的には美少女と言える類の女の子である怜美は僕の向かいに座って、顔を伏せていた。


「久しぶりだね。どうかしたのか?」

「…………」

「総理、私は外した方が?」

「いや、構わないよ。ああ、お茶をお願い出来るかな」

「畏まりました」


 そう言って桜花はお茶を淹れに行く。

 怜美は何となく僕を睨みつけている様に見えた。

 あのことをまだ、引きずっているんだろうか。


「総理大臣、ね。いい気なものだわ」

「……そんなことを言いに、わざわざ来たのか?」

「…………」

「怜美、君の用件は正直僕にはわかりかねる。君は今日単独で来ているみたいだけど、もし仮に君が何かここで問題を起こす様であれば、君の親御さんも刑罰の対象になる、っていうことを踏まえてここにいるってことで間違いないか?」

「……そんなことは、わかっているわよ」


 だったら用件をとっとと言え。

 何となく拗ねた様な顔で僕を見る怜美を見て、僕の方はと言うと何となくイライラしていた。

 何故なのか。


「お待たせいたしました。どうぞ、平沢様」

「……ありがとうございます」

「何か言いにくいことを仰りたい様にお見受けしますが、私はここにいてもよろしいのですか?」

「構わないと言ったはずだ。桜花、君が僕から離れることは基本的にあり得ない。そうだろ?」

「畏まりました、総理がそう仰るのであれば」

「で、怜美。何の用事なんだ? 生憎僕は暇ではない。ご存知の通りのいい気な総理大臣なものでね」

「……そちらは、奥さんなんだっけ?」

「そうだな。それがどうかしたのか?」

「別に……」


 本当、何がしたいんだこいつ。

 怜美とは総理になった朝の会見直後以来顔を合わせていない。

 当然のごとく連絡なんかも入れていなかったし、僕としても別にそれでいいと思っていた……というよりは実は存在自体を忘れていたと言ってもいいだろう。


 元々はこいつの鼻を明かしてやりたい、という思いもあったのだが……ゲスな話、桜花とああなってからはぶっちゃけるとどうでも良くなっていた。

 だから僕としても意識的に思い出すことがなくなってしまっていたのだろうと思う。


「なぁ、もしかしてあの時のことを、まだ気にしてるのか?」

「…………」

「昔、何かおありになったんですか?」

「ああ、まぁ……あれは確かに僕が悪いとも言えるんだけど」

「よろしければ、お聞かせ頂けますか?」


 桜花がそう言うのであれば、僕としても話さないわけにはいかないだろう。

 本人も興味があるから聞いてきているのだろうし。

 そして僕が話す意志を見せても、怜美は特に反対をする様子もない。


「まぁ、怜美も特に反対する気はないみたいだから、話そうか。桜花も気になるみたいだし」

「桜花……か」

「……?」

「ふむ」


 よくわからないが、怜美はどことなく残念そうな顔をしている。

 こっちからしたらお前の方が残念だよ、と思わないこともないのだが……。

 そして桜花は何故か得心顔で僕を見る。


 これまた残念な男を見る様な顔で、決して夫を見る顔ではない気がするのは気のせいだろうか。


「まぁ……総理はまだわからなくても良いでしょう。すぐにわかることだと思いますので」

「……よくわからないけど、話を始めてもいいか?」


 何処か諦めた様などうぞ、という桜花の声にやや納得いかない思いはあるものの、とりあえず僕はちょっとだけ昔の、僕と怜美の話をすることにした。

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