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第十三話

 あれから結局紆余曲折あったものの、何とか夜七時までかかって全員を面談出来た。

 終わった頃には僕はぐったりしていたが、大体の適性の把握は出来たと思う。


「総理、お疲れ様です。お風呂になさいますか? それとも私か怜美さんを?」

「何でそこに食事って選択肢がないの? 別の意味での食事は体力使うから、どの道先に飯がいいんだけど」

「私たちはご飯より立場が下ってことなんだ……」


 うっわめんどくせぇこの女ども……。

 今は大人しくて可愛らしい穂乃花も、いずれこうなってしまうんだろうか。

 そうだとしたら非常に残念で、かつ憂鬱でしかない。


「上も下もないだろ、こういうのは……」

「日々総理の為に、って頑張ってる私たちを労う気持ちはないの?」

「あるよ? だから毎日頑張ってるんだろ、昼夜を問わず」


 本当、昼夜を問わない。

 三年くらいしたらまた一人増えるんだぜ、これが……笑えないだろ。


「昼頑張った成果は出たのでしょうか?」

「まぁ、大体はね。とりあえず全員うちで面倒見よう。これに関しては怜美と桜花とで交代でやってもらいたいかな。二人にも向き不向きはあると思うし、どっちかがつきっきりだと僕の職務にも支障が出るかもしれないから」

「はぁ~あ、私は仕事よりも下なのね……」

「わかったよ、お前らが上! 優先順位一番! これでいいか!?」

「何よその言い方! 感謝してるんだったら旅行でも連れて行きなさいよ甲斐性なし!」

「金ならあるだろ! 金はあっても時間がないんだよ! 不自由は一切させてないはずだぞ!? 洗濯は業者がやってくれてるし、食事だって基本シェフが作ってるんだから!」

「そういうことを言ってるんじゃないっつーの!!」

「まぁまぁお二人とも、落ち着いて……これをご覧ください」


 見かねた桜花が止めに入り、一冊のパンフレットを差し出してくる。

 何だこれは……。


「旅館?」

「そうです。そろそろ怜美さんもストレスが溜まってくる頃合いかと思いまして。もうすぐゴールデンウィークですので、一泊程度ならいけるかと」

「ふむ……どうだ、怜美」

「温泉つきか……いいわね」


 段々と怜美の顔色が良くなってくる。

 現金な女だな、本当に……まぁまだ以前の法律なら子どもっていう年齢ではあるし、仕方ないことかもしれないけども。

 だが昔からああいう我儘なところは変わってない気がする。


 我儘というかマイペース?

 だから正直こんなとこで仕事とか、向いてないんじゃないかって思ってたけど……本当に向いてないわこいつ。


「でも、子どもたちのことはどうするんだ? まさか置いていくわけにもいかないだろ?

「おそらくあの子たちは旅行なんて経験したことがないと思われますので、できれば連れて行きたいと思いますが、いかがでしょう?」

「まぁ、そうなるわな。僕もその辺は同感だよ」

「ええ……旅行行ってまで子どもの面倒見るの?」

「うーん……」


 まぁ、そう言うだろうとは思ってたけど……こんな時きっと、桜花だったら。


「なぁ怜美、子どもが出来た時の予行練習だと思わないか? 僕たちだって、そのうち子どもが出来ることもあるだろうし」

「えっ……」


 何顔赤らめてんだよ。

 いいから早く飯にしてくれよ。

 そう言いたいのをぐっと堪え、援護射撃を頼むべく桜花を見ると、さすがと言うべきか桜花は既に食事を用意していた。


「そういうことですので、今回子どもたちの分も全員分予約を入れる、ということでよろしいですね?」

「僕は異論ないよ。怜美もそれでいいか?」

「子ども……私たちの、赤ちゃん……」

「…………」


 早くも自分の世界に入り始めてしまっているし、放っといて飯にしよう。

 こいつを待っていたら朝になってしまいそうだ。



「あの子たちの教育だが、物になるまでどれくらいかかるかわかるか?」

「そうですね、亜紀さんは吸収が早いです。やはり好きなものを学ぶというのはそういうものなのでしょうか」

「そうかもしれないね。怜美にやらせたら一時間かかる場合でも、亜紀にやらせたら十分で終わったりってこともあったくらいだし」

「何よそれ、私は役に立たないって言いたいの?」

「言ってないから。そうじゃなくて、単純に資質の差があるって話。逆にお前が得意なことで、亜紀にやらせたら滅茶苦茶時間かかるとか、最悪失敗するってこともあるんだろうし」

「たとえば?」


 やけに食いつきいいな。

 小学生相手にライバル視するとか、さすがに大人げないと思うんだけど。

 翌日の夜、職務を終えて夕飯にしている時に進捗を訪ねるとこんな感じなわけだが、どうも最近ストレスが溜まっているからなのか、怜美は愚痴を吐くことが多くなった気がする。

 

 疲れもあるんだろうし、もし目に余る様なら休みなど取らせようと考えてはいたが、そうなると桜花の負担がまた増える結果になるし、とうまい具合に行かない様な……。


「まぁ、怜美には怜美の得意分野があって、って話だから何が、ってのは現段階ではわからないけどさ」

「ふーん。それで、一つ気づくことない?」

「は?何だいきなり。話を切り替えるスピードが速すぎてついていけないんだが」

「もっと私をよく見なさいよ。あと桜花さんと見比べなさい。そしたらわかるから」

「……?」


 そう言われて、夕飯のおかずでもあるとんかつを口に運びながら二人を見比べる。

 どういうことだろう、身長差は仕方ないにしても、あとは髪型とかか?

 スリーサイズもまぁ、違うと言えば違う様な……。


「総理、失礼かと思いますが見る場所が違う様です。健全な十代男子の目線としてはテンプレ入りさせてもいいものかもしれませんが」

「…………」

「あんた本当、いい加減にしないとぶっ飛ばすわよ?」

「やめろ、物騒だな……違いとか言われても、お前と桜花とじゃ違いがありすぎてわからないんだよ」

「そういうとこじゃないの!! もっと細かいとこ見なさいって意味よ!!」


 そう言われてもう一度見てみるが……細かいとこって何だよ。

 意味がわからない。

 

「すまん、わからない。もう少し具体的なヒントくれ。というかもう、答えでもいいと思うんだが」

「はぁ!? マジで言ってるの?」

「え、あ、うん……」


 何この子、こんな激怒してんの……。

 僕が責められないといけない様なことなんてないと思うんだけど……。


「仕方ないやつね、本当……愛情を疑いたくなるわ」

「まぁまぁ怜美さん……総理がこういう方だっていうのは元々わかっていたことですから」

「寛大よね、桜花さん。私も見習わないといけないところだわ」

「そうでもありませんよ。最近は総理に怒りを向けることだって、ほんのたまにですがありますから」


 そうだった、あったな。

 あれは正直怖かった。


「まぁ、それはいいとして……怜美さん、ヒントを差し上げた方がよろしいかと」


 そう言った桜花には、どうやら答えが分かっている様だ。

 本当、何でもわかっちゃうんだねぇ、君は……。


「……仕方ないわね、ほら」

「ん?」


 怜美が不承不承と言った様子で両手の手の甲をこちらに向けて、見せてくる。

 そんな風に手首を内側にしなくても、僕が刃物を持って怜美に襲いかかったりすることはないんだけどな。

 しかし、その仕草をしているのは、怜美だけではなかった。


「総理、確かに今は戦闘状態ではありませんが……このままだと怜美さんが狂乱状態になる懸念があります。私の手を見比べて差し上げてもらえませんか」

「あ、ああ」


 不穏なワードがまたも飛び出したので、僕としても必死で二人の手を見比べる。

 何なんだ、一体……手の違いとか……とか……とか。

 あれ、そう言われると……。


「お気づきになられましたか?」

「えっと……」

「気づいたわよね?」

「……はい」


 指輪だ。

 そう、桜花には結婚しよう、とか言って翌日に買いに行ったのだが……怜美にはそう言えば買ってない。

 買いに行った記憶もそういえばない気がする。

 

「さて、何億円の買ってもらおうかしら」

「待て、僕にそんな財力はないぞ」

「冗談よ、バカ。……今日の今日まで気づかないなんて、本当どうかしてるわよねあんた」

「…………」


 正直なことを言うと、言い訳かもしれないが忙しかったのだし、大目に見てほしいなんて思ってしまう。

 とはいえ……一か月以上経っても気づかなかったのは確かに僕が悪いな、うん。


「いつ気づくかな、って思ってたんだけどね。秀一って私のことそんなに見てないのね、ショックだわ……」

「いや、そういうわけじゃ……」

「ショック過ぎて……手元が狂いそうだわ……」

「ステーキ切りながらそのセリフはやめないか……恐怖しかない」

「じゃあ明日、買いに行くわよ」

「いや、明日はちょっと……仕事もあるし……」

「何よ、ダメなの?」

「怜美さん、落ち着いて。総理の言う通り確かに明日は職務がありますから。お金がないわけではなく、ないのは寧ろ時間なのです。それに、穂乃花さんへの婚約指輪も買わなければなりませんし……明後日であれば、予定は空けられそうですが」

「同時にってことね。……仕事って言われたら仕方ないわよね」


 まぁ、正直誰か代わりに買ってきて、なんてこともできなくはないんだろうが……さすがに誠意がなさすぎるだろう。

 それに今や世を忍ばなければならないわけでもないし、僕自身が一緒に行くのが今後の為かもしれない。



「今までこういうの、興味なかったんだけど色々あるものなのね」

「…………」


 そして迎えた翌々日。

 僕と桜花、怜美に穂乃花の四人はちょっとお高いイメージの……桜花の指輪を買った時にも来た店に来ている。

 怜美に関しては、ぶっちゃけ小学校の頃なんかこいつ実は生えてんじゃね? とか思うくらいには男らしかったし、趣味だって女の子が嗜む様なものよりもカードゲームとかそういうものを好んでいた記憶がある。


 だからなのか、こいつとジュエリーっていうのがどうにも結びつかなかった、というのは言い訳だな。

 もしかしたら、僕の為に趣味を合わせてくれていたのかもしれないんだから。


「どれでもいいの?」

「まぁ……あんまり高いのとかじゃなければな」

「なら、桜花さんと同じのがいい。それなら秀一とも同じになるでしょ?」


 その発想はなかった。

 こいつのことだからトゲトゲとかついた、禍々しく攻撃力重視な感じのを選ぶかと思ったのに。


「総理……さすがにそれは偏見が過ぎます。怜美さんが聞いたら悲しみますよ」

「頼むから、そう思うなら言わないでおいてくれないかな。聞こえてると思うし」

「何よ、二人で内緒話なんかして。桜花さんって秀一の考えてることがわかるんだっけ?」

「まぁ、大体は。これを羨ましいなんて思う様だと、怜美さんの中の恋愛観とかそう言ったものは壊れてしまうかもしれませんよ」

「……だったら、わからないままの方がいいかもしれないわね」


 さすがだ、桜花は。

 上手い感じに怜美の注意を違うところに向けたな。


「総理のお兄ちゃん……これがいい」

「ん?」


 穂乃花の総理のお兄ちゃんって、僕が呼ばせているわけじゃないんだけど店員なんかはその呼び方をされる度、変な顔をする。

 別に笑いたければ笑ったらいいと思うんだけどな。

 いくら僕が暴君と言われていると言っても、気に入らなかったら殺す、なんてことはしないんだし。


「えっと、それがいいの? でも穂乃花はまだこれから大きくなると思うんだけど」

「ダメ……?」

「……ダメじゃない」

「……総理、サイズ直しなどもこのお店でやってもらえるそうですから。あと、お気持ちはお察ししますが顔をもう少し引き締めてください。ここは公共の場ですので」


 そんなことを言われても、こんな可愛い子に涙目で上目遣いであんな風に言われたら、大体の男は落ちると思うんだ。

 そう考えると末恐ろしい子だな、穂乃花……。


「じゃあ、二人はそれでいいか? 他にほしいものとかないか?」

「自分のほしいものだったらさすがに自分で買うわよ」

「私はまだ、いいかな……」

「私も、大丈夫です」

 

 そんなわけで二人分の指輪を買って官邸に戻る。

 女全員がそうだとは言わないが、割と現金に出来ているのか、怜美は指輪をつけた手を何度も眺めてうふふ、とか言ってる。

 ……怖い。


 穂乃花は多分、未だにあんまり実感なんかないんだろう、不思議そうに買い与えた指輪を見ていた。


「これ、本当に私がもらっていいの?」

「ああ、だけど失くすなよ?」

「普段はつけない方がいい?」


 何と答えるのが正解なんだろうな。

 まず、あの子供たちは普段仲良しに見えるから、指輪をつけていたとしていじめられたりということはないだろう。

 言ってしまえば、あの子らの絆というやつはおそらくその辺の仲良しな連中なんか比べものにならないくらい強いのではないかと思う。

 

 ただ……失くしちゃった、とか言って泣かれると僕としてはどうにも弱そうな気がする。


「うん、失くさない自信あるならつけててもいいよ。その辺は穂乃花の意志に任せようか」


 丸投げすることにした。

 だって、そんな重大なことを決めろと言われても、さすがに責任持てない。

 失くしちゃっても買い直せば、なんて言おうものならどんな心抉る言葉が飛んでくるか……。


「旦那様は冷たいねぇ、穂乃花ちゃん」

「丸投げはどうかと思いますが、総理……」


 本人に任せても非難の声は免れなかったでござる。

 どうしろって言うんだよ……。

 結局穂乃花の指輪は、専用の箱を後日用意して失くしてしまいそうな場面ではその箱に入れ、そういう時以外は身に着けるという方針を、何故か僕が立てる羽目になった。


 うん、やっぱり穂乃花も将来めんどくさい女になりそうだ。

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