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第十二話

 一人目、三井亜紀みついあき八歳。

 穂乃花を含めて、あの施設には九人の子どもがいた。

 下は四歳から上は年長の穂乃花まで。


 男女比三対五で、穂乃花も亜紀も女の子だ。

 そして亜紀は女の子だがパソコンに興味を示した、ちょっと期待できる子だ。

 生まれ付いた障害等もないらしく、パソコンの使い方は教えたらすぐに覚えたと言う。

 

「亜紀は、将来何になりたいとか決まってるのか?」

「お嫁さん、だって」

「…………」


 怜美はどんな聞き方をしたんだろう。

 まぁもしかしたら僕や桜花が聞いても同じ様に答えたかもしれないが、僕が聞きたかったのはそういうことじゃない。

 パソコンを使って何をしたいのか、とかそういうことだ。


 これがお嫁さんの夢破れて三十間近になっても独身で、女子力アゲアゲになる為のサイト、みたいなのを閲覧……もしくは運営なんてことになってたらそれはそれで面白いんだけど、国の為になるのか微妙なラインだ。

 なのであれば、国の為になってもらうべく少しずつそう言う方向に誘導していくのもありかもしれない。

 

 現状、僕の身近には無駄な人材は置いていない。

 以前言った様に、無駄になり得る人材は切って捨ててきたし、ただ人材がほしくないという訳では決してない。

 実働的にやってもらう人間の他に、所謂裏方的な要素をもつ部分を任せる人間も当然ほしい。

 

 桜花が彼らを連れて帰ってきたのは、そういった人材発掘の意味合いも込めていたのだというから驚きだ。

 あまりにも用意周到と言うか、根回しの良さに感服する。


「亜紀を、呼んでくれるか」

「変なことしないでよね」

「するか! 小学三年生だぞ!」

「どーだか……」


 一体あいつは、自分の旦那を何だと思ってるのか。

 というか穂乃花の件からもう三日経っているのに、まだ文句が言いたいなんて……あんなに粘着質なやつだったっけ。

 昔から無遠慮なとこはあった気がするけど、最近その部分が際立ってきてる気がしないでもないな。


「ほら、連れてきたわよ」

「……何でしょうか」

「ああ、ごめんな。ちょっと聞いておきたいことがあってな。特に怒ったりとかするつもりもないから、気楽にしててくれよ。怜美、おかしと飲み物持ってきて」

「小間使いみたいな使い方するのね……」

「あとでちゃんと妻として扱ってやるから、今は仕事として呑み込んでくれよ」


 ああ、本当にめんどくさい女になったもんだ。

 人前だからああだが、あいつにはヤンデレ的素質もあったらしい。

 初夜……って言い方は何となく小洒落た感じがしてあまり好きではないのだが、あれの翌日、あいつはまたも駄々をこねた。


『やっぱり独占できないのはきつい』


 わかりきっていたことを何故今更、と思ったものだったが、見方を変えればそれだけ愛されてる証拠、なんて桜花は言っていた。

 呑気な考え方だが、本人はそんな穏やかなものではなく、あんたを殺して私も死ねば独占できるかしら……なんて言いながらふふ、と笑った時の顔が到底冗談には見えなくて、その日一日かけて桜花に説得してもらったのだ。

 今思い出しても、あの時の顔は恐怖でしかない。


 そして今になっても時々そんなヤンデレじみた顔を見せることがあって、子どもたちが怯える原因になってやしないかと心配になることもある。


「で……将来亜紀はお嫁さんになりたいんだっけ?」

「うん」

「そっかぁ、相手はもう見つけてあるのか?」

「お兄ちゃん」

「へ?」

「お兄ちゃん」

「…………」


 僕を指さして、お兄ちゃん。

 亜紀、お前もか……と思ったがこの年頃の子の恋愛感情なんて真に受けていたら、世の中犯罪者だらけになってしまうだろう。

 つまり、穂乃花が先だって僕と婚約することになったのを見て羨ましいなぁ、とかそんなものなんだろうと推測される。


「そ、そっか。嬉しいなぁ」

「何だらしない顔してんの?」

「…………」


 何でこう、タイミング悪いかな……。

 話が一向に進んで行かないじゃないか。

 お菓子と飲み物を与えて、ある程度口の滑りも良くなるだろうと考え、気を取り直して僕は質問を再開する。


 そもそも何で今日僕はこんな子どもの相手なんかしているのかと言うと……。


『今日総理は病み上がりでもありますし、予定も特に入っていません。なのであの子供たちの人材発掘でもされてはいかがですか?』


 桜花がこんなことを言って、僕に子どもたちの世話を全部押し付けてきた。

 もちろん、その代わり簡単な職務は全部桜花が代わりにやってくれているんだろうし、僕としても自分の目で見て選んだりする方がいいか、なんて思っていたのだが……どうにもコミュ障の気があったらしい僕にはこういうの、向かないかもしれない。


「じゃ、じゃあ亜紀。お嫁さんになる為に、お仕事してみるか? パソコン好きだって言ってたけど、パソコン使ったお仕事とか、興味ないか?」

「ある……かも」

「そ、そっか、ははは」

「…………」


 沈黙再び。

 やっぱり僕にはこういうの、向いてないかもしれない。

 そもそも切り捨てるのは得意だけど……迎えるのって案外面倒じゃん。


 まぁ、それじゃこれから先国を腐らせていく結果にしかならなそうではあるから、僕としてももう少し頑張ってみようとは思うけど。

 何より秘書官に説得されるより、総理直々に任命、みたいな肩書的なものがある方が、やる側としてもやる気に違いは出るかもしれないしね。

 もっとも子どもにそんな価値観とかあるのか、って言われると微妙ではあるんだけど。


「じゃあ亜紀……やり方は一通り教える、とは言っても教えるのは僕じゃないんだけど、それが終わったら好きな様に遊んでいい。そしてお仕事だから、お金も住むところもちゃんと与える。やってくれるか?」


 一体子ども相手に僕は何をやってるんだ、なんて思わなくもないが、子どもだからこそ逆に今から教えておくことで開花する才能なんかもあるかもしれない。

 だったら今のうちに押さえておいて、少しずつ開発とか……いやエロい意味ではなくてね。


「住むところって、私のお部屋もらえるの?」

「そうだぞ。食べるものも、ちゃんと食べられるし毎日お風呂に入れるし、自分だけのベッドもある」

「いいの? 本当に?」

 

 物凄く目をキラキラさせて、亜紀が詰め寄ってくる。

 何だろう、桜花とか怜美みたいな圧迫感がなくて、無邪気で心地よい圧迫感だな。

 しかし……そうか、自分の部屋とか確かに無縁だったもんな、施設だと。


 お風呂も二日か三日に一回だったって聞いてるし、それを考えたら神待遇みたいな感じになるのか。

 もしかしたらご飯だって寝るところだって、ままならないことがあったのかもしれない。

 この歳で多くの我慢を経験してきてるこの子たちのことを考えると、何となく胸の中でこみ上げてくるものを感じた。


「……当たり前だ! 本当ならお前だって、他のみんなだって、我慢なんかする必要はなかったはずなんだ! なのに境遇がそれを許さなかった……前任の総理も僕も、その辺のことが全くわかってなかった。だからこれからは、仕事以外は好きなことをしていいんだ」


 そうだよ、そうだ。

 確かにある程度の我慢は必要かもしれないけど、境遇が悪いからってそれを強要されなくちゃいけない道理なんてない。

 この子たちだって、好きで親無し生活をしていたわけじゃないんだ。


「だから、僕に力を貸してほしい。やってくれるか、亜紀」

「うん、頑張る! でも、お勉強は?」

「仕事の調子次第だけど、それもちゃんとやってもらう。その為のプログラムは桜花お姉さんがちゃんと考えてくれてるから」

「わかった! ありがとうお兄ちゃん!」


 お兄ちゃんって呼ばれるのは何となく尻の辺りがむず痒い様な感覚を覚えるのだが、子どもが無邪気に喜んでいるのを見るのは、正直気分がいい。

 

「へぇ、あんたってあんなことも言えるのね。ちょっと見直したわ」

「……勘違いするな。あれはただ、他に人材を取られない様に縛り付けるだけの手段で……」

「そうでしょうか? 総理は元々心優しいお方であると認識していますが」


 そう言って桜花が次の子どもを連れてくる。

 僕が優しいなんて言われるのは正直心外だが、子どもたちがそう認識しているのであればそれはそれで別に構わない。

 下手に怖がらせたら、変なところで裏切られたりするかもしれないから。


 怜美のやり方が間違っているとは思わないが、これまた僕には向かないやり方かもしれない。


「まぁ、どう思われても別に構わないけどね。僕がやることが変わるわけじゃなし」

「では、次はこの子ですよ」


 桜花が連れてきたのは、市川大志いちかわたいしという十歳の男の子。

 それにしても小学生ってみんな、可愛いな。

 小学生は最高だぜ、なんて言ってるのを聞いたことがあるけど、気持ちとしてはわからないでもないかもしれない。

 

「あんたまさか男の子にまで……」

「やめろ、そういう目で見てないから……小さい子ってみんな可愛いだろ、大体」

「でかくて悪かったわね」

「私も確かに総理より大きいかもしれませんが……」

「お前らわかってて言ってるだろ……」


 こいつら今日仕事する気ないだろ……。

 こっちとしてはやる気満々なのに、邪魔されてる気しかしないのは何でだ?

 僕が今日小学生に付きっ切りなのがそんなに妬ましいのか、こいつら……。


「とにかく今日中に全員の適性見極めないといけないんだから、各自仕事に戻ってもらっていい?」

「今日何でそんなに熱心なのでしょうか、総理」

「いや逆に、何でお前そんなに不真面目なんだよ」

「私だって別に不真面目なつもりはないけど」

「頼むから菓子と飲み物持ってくる仕事に戻ってくれる? 今日はそれだけでいいんだから……」


 仕事をとっとと済ませたい僕としては、二人を追い出してまたも小学生と二人きりで面談に入るわけだが……このペースだと今日中に終わらせるのは困難かもしれない。

 小学生に遅くまで起きててもらうってわけにもいかないし、何とかせねばなるまい……。

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