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第十一話

「あんたね……具合悪いまんま出てったら帰ってきたのが見も知らない子どもだけって……」

「いや、すまなかった。だけどお前ならちゃんとこなしてくれると思ったから、任せたんだ」


 僕と桜花が仕事に集中していると、怜美が突如怒鳴り込んできた。

 怜美のその剣幕に正直おっかなくてちびりそうにのだが、何とか堪えて僕は桜花の用意してくれていたセリフを口にする。


「怜美さんなら元々結婚願望等お強かった様ですから、適任だと思いました。ご不満でしたか?」


 ナイスなタイミングでの、桜花の追撃。

 これは綺麗に決まった様で、怜美としてもまんざらでもない様だ。


「あ、えっと……わ、私ならそりゃ、将来秀一の子どもだってちゃんと育てるつもりはあるし? で、出来て当たり前じゃない?」

「…………」

「…………」

「何よ、その目。何だったら今すぐ作ってやってもいいのよ、子ども」


 昨夜一晩僕がダウンしてたらこれか……。

 少しはこらえ性というものを身に着けてほしいもんだ。

 とは言ってもこいつだってまだ、成長過程の子どもみたいなもんだしこれからいくらでも変わっていくんだろうとは思うが。


「今は仕事中だから……それより子どもたちは? どうしてるんだ?」

「とりあえず普通の子たちなら学校でお勉強してる時間でしょ。だから、簡単なテキスト与えて勉強させてるわ」

「ふむ……ちょっとこのあと会見開くからさ、子どもたちには外に出ない様ちゃんと躾けてくれよ。おやつとか色々与えていいから」

「会見? また何かやるの?」

「やらかすの? みたいなニュアンスにしか聞こえない言い方はやめようか。僕は今のところまだやらかした覚えはない」

「もう既にこの歳で結婚してて、それも二人も奥さんいる時点でやらかしてないなんて、よく言えるわね。まぁいいわ、とりあえず任された。お昼はどうするの?」

「それでしたら、今日は昨日の子どもたちも一緒に食べることにします。総理の要望もありまして、後ほど私が買って参りますので今日は準備は必要ありませんよ」


 桜花がそう伝えると、今日は楽だ! とか言いながら現金にも喜び勇んで戻って行った。

 さて、まずこの法案を通せば……また世間は騒ぐんだろうな。

 正直前代未聞だろうと思うし、正直僕としてもやや不本意であることは否めない。


 だが、世の中には必要な犠牲があるということを、僕は既に知っているからこそ、この法案を通す。



「総理、早くも三人めの奥様をお迎えになるということで、誠におめでとうございます!」

「今回は婚約というお話ですが、お相手はどの様な?」

「何故すぐにご結婚なさらないのでしょうか?」


 三人目……?

 会見に立ち会った怜美がそんな顔で僕を見る。

 いつもそうなのだが、僕は怜美には事前に法案のことを話したりしない。


 先ほどの会話からもわかる様に、怜美はさわりすら打ち明けられていないし、それでいいと本人も納得している。

 だが、今回だけは心中穏やかでない様だ。

 これ以上女を増やすのか、と顔が言っている。


「えー、まずですね。男女問わず、将来有望な人材、光るものを感じる人材というのは、一目見てわかる、という様なことがあると思いますし、皆さまもそういったことを見聞きしたことはあるのではないかと思います。今回私は、その様な相手に巡り合うことができ、少々古い言い方をすれば、ビビっときた、というところでしょうか」

「び、ビビッときた、ですか?」

「ええ、それ以外に表現が見つからず申し訳ありません。先日報じられました、児童養護施設の件で視察に行きまして、その時に……言い方はアレですけど一目惚れしまして」

「児童……ということは、お相手は小学生ですか!」


 一気に官邸が大騒ぎになって、その騒ぎが静まるまでに五分近くかかった。

 そう、未成年との付き合いにあたって、正式な婚約を結ぶことでこれを認める、というものだ。

 ただしこれには制限がある。


 婚約期間中におけるキャンセルは一切できない。

 飽きた、とかそういうクソみたいな理由で捨てることは罷りならぬ、ということだ。

 また、婚約を結んだ日から四年以内に婚姻関係に至ること。

 

 これを破れば即処罰の対象になる。

 そして、性交に関しては当事者の判断に任せるが、そういった関係に至ってしまった場合に関しては必ず医者の診察を受け、心身の異常がないか等の検査を受けること、と言ったものだ。

 これによって僕は未成年に手を出したなんていう、鬼畜総理になることを免れる。

 

 ちなみに穂乃花の意志はまだ確認していないが、年端も行かない少女があの様に躊躇いなく接吻に及ぶということは、少なくとも嫌われてはいないだろうし、面倒は見るつもりでいるので断られるということもないだろう。

 更に言うのであれば、僕は穂乃花が成人するまで手出しをするつもりは一切ない。

 しかし……。


『鬼畜光源氏総理爆誕! 今度の相手は何と小学生!』

『驚愕のストライクゾーン! 総理の今後やいかに!』


 と言った様な見出しのニュースや新聞が目立ち、僕のイメージは一気に変態じみたものが混ざる様になってしまった。


「一体、どういうことかしら」

「うん、まぁ話すと長いんだけどさ」

「穂乃花って、あの子よね!? 本当に小学生じゃないの!! あんた、昨日何してきたのよ!!」

「いや、僕からしたんじゃないんだけどね。不可抗力ってやつで……」

「だからって何で結婚って!! あんたロリコンの気があったの!?」

「喚くなよ……子どもたちも怯えてるだろ」

「あっ……せっかく秀一と結婚して、これからイチャラブ展開が、なんて思ってたのに」


 残念そうに顔を伏せる怜美だったが、正直既に桜花がいた時点でそれは叶わない話だ。

 僕が総理であるということももちろん理由にはなるが、それ以前に最初に怜美を抱いた後は大体乱交状態に近いのだから。

 そもそもイチャラブなんて、僕の性に合わないことをするとでも思ってるんだろうか、このアホは。


「怜美さん、それでも私たちは選ばれてここにいるのです。それだけでも幸せなことですし、それに法律によって五人までは娶っていいというものになっています。そこに追加要素が加わっただけですから、いくら総理が鬼畜であったとしても、小学生に手を出すことはあり得ないと考えてよろしいかと」

「…………」


 憮然としながらも桜花に宥められて、怜美は泣く泣く僕の婚約に賛成の意を示した。

 さすが、桜花はよくわかっている様だ。

 これから怜美にもそう言ったことはわかっていくと思うが、あんまりにも世間が鬼畜鬼畜言う様であれば僕は本当の意味での鬼畜になってやってもいい、と思っている。

 

 もちろん穂乃花を女にする、とかそういうゲスな意味ではなく。



「えっと……総理のお兄ちゃん」

「え?」


 お兄ちゃん……何と甘美な響きだろうか。

 手を出さないと決めているにも関わらず、僕の中で何か滾るものを感じてしまう。


「何鼻の下伸ばしてんのよ、犯罪者予備軍」

「その言い方はやめろ。今はもう、法の下に僕は一応認められてるんだから」

「年下の子にお兄ちゃんなんて呼ばせてデレデレしてるんだから、犯罪者みたいなもんよ」

「まぁ……怜美さんの言うことを否定はしませんが、一応合法ではありますね」


 好き放題言いやがって、こいつら……。

 そもそもお兄ちゃんと呼びなさい、なんてマニアックなことを強要した覚えはないし、穂乃花だってどう呼んだらいいかわからないからそう呼んだだけだろうに。


「で……どうしたんだ穂乃花。まさか今更嫌だとか言わないだろうな」

「ううん、そうじゃないけど……私、総理のお嫁さんになるなんて、いいの?」


 ふむ。

 出自のことを気にしているのだとしたら、実際僕としては正直怜美の時の様に挨拶に行ったりする必要もないし楽でいいかな、って思ってたりする。

 桜花の時も挨拶等は必要なかったが、正直婚姻関係にあってまで、僕は桜花のことをほとんど何も知らない。


 というかこいつ実は人間じゃないんじゃないか、なんてことまで考え始めていて、何故かと言うと誕生日も一応聞かされてはいるし、免許証なんかも見せられてはいるのだがどれも現実味がない。

 食事をしているところなんかは目撃しているし、人間らしいことも当然するのだが普段の立ち居振る舞いであったりとか、人間らしからぬ部分が目立ちすぎてどうにも僕や怜美の様な人間と同じに見えないというか。

 もちろん、考えたりすることもあるみたいだから僕がそんなことを言ったら傷つけてしまうかもしれない、という思いから言ったことはないが、同時に出自であったりとかそういった部分には踏み込めないでいた。


「いいも悪いも、穂乃花が嫌じゃなかったら僕は何も問題ないと思ってるんだけどな」

「でも、私にはお父さんもお母さんもいないから……」


 そう言って悲しそうに目を伏せる穂乃花だったが、その穂乃花の頭に桜花が手を乗せて、微笑みかける。

 何こいつ、こんな笑顔とか見せられるの?


「穂乃花さん、私にも親はいません。ですが総理はこの様に迎え入れてくれて、毎晩……」

「おい待て、子ども相手に言う必要のないことまで言おうとすんな」

「失礼しました。総理なりに愛情を注いでくれているのですよ。液体で……」

「コラコラコラ!! 僕の愛情が液体、とか誰がいい意味に取るんだよ!! それに穂乃花の歳でそれがわかるかどうかも怪しいってのに」

「桜花さんって、時々何言い出すかわからないから怖いわよね……」


 怜美がそう言った様に、確かに桜花は時々爆弾発言とも取れる様なことを顔色一つ変えずにさらりと言ったりする。

 もちろん会見の場では基本的に口を挟んできたりはしないが、普段でも何処まで本気で言っているのか、判別しかねる様なことは多かった。

 というか……桜花にも親はいないのか。


 怜美の親に挨拶に行った時とかも、別に羨ましいとかそう言う感情は読み取れなかった気がするんだけど、本人は全く気にしてないんだろうか。

 親がいないのはどういう経緯で、とかそういうのはちょっとまだ聞ける気がしないが。


「まぁそれはともかく、別に生まれがどうだとかは関係ありませんよ。穂乃花さんがそれでいいと感じられるのであれば、その資格はちゃんと穂乃花さんにもありますので」

「そっかぁ……えへへ、総理のお嫁さん……」


 何この子、可愛い。

 成人するまでまだ大いに時間はあるわけだが、十五歳になる時、穂乃花はどんな女になっているのだろうか。

 今からちょっと楽しみだ。

 

「ちょっと秀一……何処見てんの、穂乃花ちゃんの……」

「え?」

「総理のお兄ちゃん、私の胸が気になるの?」

「総理……さすがにそれは私でも引きます」

「ええぇ……」


 確かに少し膨らみかけてる様な気がするな、くらいには思ったけど、そこまでガン見してないつもりなんだけどな……。

 大体、そういうの見ちゃうのって男だったら仕方ないと思うんだけど、どうだろう。


「まぁ気になるのは健康な証ではありますが……穂乃花さんに関しては当分我慢してください。私たちで満足できないということですと、また新たに探さなければならないという懸念もございますが」

「いや、大丈夫だから。別にそういうのは全然ないから。桜花は何、僕を過労死させたいの?」

「あの程度で死ぬんだったらあんた、とっくに死んでるから大丈夫でしょ……でも今は穂乃花ちゃんに手なんか出すんじゃないわよ?」


 秘書官兼妻二人から詰め寄られ、僕はひとまず婚約者にまだ手を出しません、という誓約書的なものを書かされた。

 何はともあれ、これで当面の心配はなくなったわけだが、あとは残りの子どもたちの身の振り方を、考えなくては。

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