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Outsider's Story  作者: YRD
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0-1 【後悔】

ここから本文となります。

主人公共々、宜しくお願い致します。

 厚めのワックス剤でコーティングされたリノリウム張りの床に、不規則な足音が響く。

 トレーニングルームや屋内訓練用の機器が設置されているB棟と、各自の個室があるD・E棟を結ぶ廊下。

 小さな窓から見える外の景色は、今がとうの昔に日の沈んだ時間である事を、漆黒の闇と幾つもの瞬く星々で示している。

 そんな外の光景も見ずに足音の主は、時折ふらついては壁に手をつき、B棟へ向かい進んでいた。

 壁から手を離し、その顔に浮かぶ疲労の色などないかのように頭を振ると、瞳に湛えられた涙の一部が宙へ散り、残りは瞬きに併せて頬を伝って行く。

 己の顎まで達し、そのまま床へと落ちて行くそれを拭う事もせず、彼女は言葉を呟く。


 「まだ……、まだです……。だって、足りない……。私には……私は、足りないのだから……」


 オルト・リューコスを操る腕が。

 チームメイトとの連携が。

 バトルフィールド上での戦況把握が。

 己に迫る危機への感知力が。

 己を助けに来た味方の動向把握が。


 己の、何もかも全てが。


 両陣営がオルト・リューコスを用いた、ルールのある人の死なない戦争。

 それは、名目上兵器で人が死なないだけであり、まったく怪我をせずに済む訳でもなく、不運にも命を落とす者がいないわけではない。

 ある程度の道具を使用すれば、そこには事故が起きる可能性が常に存在する。

 あれは自分のミスが招いた事だ。

 未熟なこの身が嫌いだ。

 自分のミスで、仲間を危機に陥らせた。


 ほぼ無傷であった自分の機体を駆り、バトルフィールドの中央から相手陣営付近にある丘を制圧しようとした。

 自分の機体は重装型だ。

 機動力には難がある物の、中距離から近距離をカバー出来る武器により複数機との戦闘でも制圧が可能であり、難しい場合でも戦線を維持する事が可能なカスタマイズになっている。

 3分も維持すれば、自機が行動不能となる前に仲間も来る。

 そう思っていた結果が、仲間の1人に危機を招く事になったのだ。

 行動不能直前までダメージを受けていた高機動型に加えられた、大き過ぎるダメージ。

 戦闘終了後、すぐに回収されたコックピットの中へかけた声に、『良かったぁ……』と返事を返して小さく笑みを浮かべた仲間。

 あの後から未だに意識は戻っていない。

 戦場にいるには年端もいかぬようなあの娘は、


 「……もう一度、笑ってくれるかな……」


 後悔などしないと、故郷を出る時誓った。

 それは《家》を出る時、家族に笑いかけながら。

 そして今また、自分のせいで傷付いてしまった者の為にも。

 後悔などしない。

 してはいけない。


 『弱い者には、何も出来んぞ』


 いつ聞いた言葉だっただろう。

 上官の声が頭の中で繰り返し響く。

 もっと強くならなければならない。

 そう、後悔の元になるような事を振り払うなら。

 同じ事を起こさないようにする為には。


 もっと強くなるのだ


 もっと正確に敵を討て


 もっと早く己が置かれている状況を把握しろ


 もっと的確に敵の動きを読め


 もっと繊細に機体を駆れ


 もっとだ


 もっと、もっと、もっと



 「ったく、『もっともっと』って、欲求不満かよ?」

 「……え?」


 前方から聞こえてきた声に、ふと注意が向く。

 身体に伝わる振動は、何処と無く心許無い。

 重力が、背中側へと身体を引いている。


 「あ、いきなり動くなよ。落っことしち……っ!」


 己の置かれている状況に気付くと、反射的に平手を打っていた。


 「……いってぇなぁ!」

 「な、何をするの!? してるの!?」

 「そりゃあこっちのセリフだ! んな時間に、青い顔して廊下の隅でぶっ倒れてたのは、てめぇだろが!」


 身を捩ると自分を抱えていた腕が下がりだしたので、躊躇う事無くそのまま振り降りた。

 軽く目眩に襲われたが、これ以上先程の醜態を晒し続けるよりはマシである。 


 「それに関しては、礼を言うわ。あと、驚いたせいで手を上げてしまって、ごめんなさい」

 「あ、あぁ。別に良いぜ」


 熱くなりかけている顔を隠す為に、軽く頭を下げて背を向ける。気が動転しているのだろうか。

 立っている場所を確認すると、少しB棟から遠ざかってしまったようだ。

 身を翻すようにして改めてB棟へ向かい歩き出すと、廊下と靴底が立てるキュッと言う音を追いかけるように、彼の呼び声ともう1つの足音が鳴り出した。


 「っつーかさ、シミュレーターでトレーニングすんのは悪い事じゃねぇけど、焦ったって良い事無いと思うぞ?」

 「……今出来る事をせず、そのせいで後悔するのは嫌なの」


 少し考え、そう答えた。

 今出来る事を。

 果たしてその結果進む未来で、あの娘は笑ってくれるだろうか。


 「はぁ……真面目だねぇ、ホントに」

 「真面目とかそんなのじゃなくて、私のは只の性分」

 「へいへい。そう言うのは嫌いじゃねぇけど、さすがにドクターに声かけとくからな。まだ起きてるだろうし」


 彼がドクターと呼ぶのは、チームメイトの1人だ。

 シミュレーターを触るのは、いつも調べ物等で深夜遅くまで起きている彼女が呼びに来るまでにしておけ、と言う事だろう。

 小さく溜息を吐いて、それでも了承する。しなければ、また口論になるだろうから。


 「了解。それまでにしておくわ。それじゃ……」

 「お前さ、もう少し笑ってろよ。なんっつーか、進みながら後悔してるみたいだぜ」


 返事はせずに、到着したシミュレータールームの扉へと身を滑らせ、後ろ手に扉を閉める。

 直前、彼の笑い声が部屋に滑り込んで来た。


 「ま、お前らしくて俺は好きだけどな」


 入り口から一番遠い場所にあるシミュレーターの元へと向かいながら、ふと心が少し軽くなっている気がした。

 何故かは分からないが、『自分はこのまま自分らしく行けば良い』と、そう感じられた。

 準備を終えてシミュレーターのシートに着き、仮想空間に広がる戦場を見ながら、違和感に気付いて手を頬に添えた。

 何故だろう。

 とうに冷めた筈の顔が、少し熱を持っている事を手の平が伝えてくる。


その後…


「はい、終わりですよ」

「えっ!? あの、まだシミュレーターを起動してから時間が……」

「ふふっ、早く寝ないと、お肌に悪いわよ」

「私が来たら終わりにすると、彼と約束したんですよね?」

「で、でも……」

「でしたら……(わたくし)達に抵抗なさるのかしら?」

「………………」

「さて、シミュレーターは終了させました。これでも戻らないと言うなら……どうしましょうか?」

「無理やり連れ戻すのは、スマートじゃありませんものね。いっその事、彼らに声をかけて、担いで行って頂くというのはどうかしら?」

「わかりましたから! もう自室に戻りますから!」


と言う状態だったとかそうじゃなかったとか。


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