第6話
集落の規模も拡大してくると、いろんな住民が増えてくる。
荒くれ者もいれば、おじいさん、おばあさん、商人のおじさんや、おばさん、
若い男に、若い女、こちらは若夫婦か。そして、この若夫婦の子供らしい、男の子に、女の子。
兵士も見回りにくる。そして、以前は各地を旅していたらしい、剣士や、重い鎧や兜も楽々装備できるような、見るからに屈強そうな戦士もいた。
教会も建った。教会のシスター、そして神父もいた。そして、その教会のシスターに一目惚れした、よからぬことを考えている男もいた。
この町には、気がつけばいろんな人々が集まってきていた。これも今まで、開拓を進めてきた成果といえよう。
ノボル「いいなあ、僕もいずれは結婚して、子供も欲しいなと思うし、
だけど、冒険の旅とかにも出てみたいな。
王様は…。王様とかは、性に合わない。
王様とか大臣とかは、もっぱら部下に命令して、やらせておいて、自分らは高見の見物っていうイメージだから。」
そして、この集落の一番のメインの施設として、カジノと劇場を建設することになったのだが…。
ノボルが一番最初に言い出した、カジノと劇場を建設するという計画。
ところがここにきて、町中では困ったことも起きていた。
なんのことはない、些細なことでの、ちょっとした人間関係のトラブルだったのだが、次第に住民の数も増えてくると、この手のトラブルは、日常茶飯事になっていくことだろうと、ノボルは思い始めていた。
そして、集落の今後の方針を決める定例会議も、開かれていたが、こちらもまた、様々な意見の人たちがいて、意見が対立していた。
議題は日によって様々だが、すんなり決まったためしが無かった。
そしてその日の議場にも、各代表者たちが集まり、議論を交わしていた。
「だからそれはだな…。」
「教会をもっと拡張したい。できれば宗教教育をもっと充実させたい。」
「それよりも、商店街を拡張して、いろんな名産品を売れるようにして、この島のことをアピールしたい。」
「しかし、それよりも何よりも、おかしな奴らが住み着かないようにしていかないと…。」
「困った、困った、何かいい方策はないものか。」
そんな中、ノボルが提示したカジノと劇場の建設費用というのが、とんでもない金額だった。
「実は、カジノと劇場をこの島に一から建設することになると、
なんと、4億5000万ゴールドの経費がかかるという試算が出たんだ。」
「な、なんだって!?
4億5000万ゴールドだって!?
冗談じゃない、そんなべらぼうな金額が払えるか!」
ノボルはそれでもこの島の集落にカジノと劇場を建てたいと語ったが、
「いったいなんだって、そんなべらぼうな金額になったんだい!?」
ちなみに、武器屋で買える高額の武器防具の値段はというと、
炎の剣 40000ゴールド
吹雪の剣 50000ゴールド
刃の鎧 12000ゴールド
大地の鎧 30000ゴールド
オーガシールド 20000ゴールド
グレートヘルム 45000ゴールド
という内訳だから、この4億5000万ゴールドという金額が、いかに途方もない金額かというのがわかる。
4億5000万ゴールドもあったら、これらの装備品が、いったいいくつ買えるだろう、という内訳になる。
「だから、それをどうしようかと…。」
「それならば、また豪商のイザコ・ドルチェに、その金額を出してもらえばいい。
イザコ・ドルチェの総資産額は、算定不能とも言われているんだろう?
だったら、そこから4億5000万ゴールドを出してもらえばいい。」
資金に困った時はいつも豪商のイザコ・ドルチェに金を出してもらえばいい、という考えのようだった。
この考えを提示したのは、ゼベク・カニング・スリックという、ノボルのことを快く思わない、移民団のリーダー格の1人だった。
「まったく、こんなカジノや劇場なんか建てるんだったら、もっと他に、有効な使い道があるだろうに。」
そこでノボルは、
「あのー、すみません。ゼベクさんといいましたね。あのー、実はですね、ここからずっと奥地に、遺跡があって、その地下がずっと下まで続いている、洞窟、ダンジョンになっているんですよ。
ですから、そのダンジョンの地下6階に『石板の間』というのがありまして、そこからさらに下の階の、地下7階~地下10階のところには、
『ゴールドマン』というゴーレムのような金色の怪物が生息していて、
その『ゴールドマン』の所持金というのが、聞いて驚け、5000万ゴールドという、べらぼうな大金だといいます。
ですから、1体あたり5000万ゴールドですから、これを9体倒せば、4億5000万ゴールドに、すぐになりますよ。」
ノボルは、ここぞとばかりに、得意気に語った。
「だいたい、なんでお前は、あのダンジョンのこととか、そのダンジョンに『ゴールドマン』が生息していることとか、
『ゴールドマン』が金色のゴーレムみたいなやつとか、何でそんなに詳しいんだよ。」
ゼベクから苦言を言われた。どうやらこのゼベクという人は、あのダンジョンに行ったことがあるようだ。
「そういうことは、実際にその目で見てきてから言えよ!」
ゼベクは少々人を小馬鹿にするように、いかにも上から目線の物言いをすることがある。
ゼベクはノボルを良く思っていなかったが、ノボルの方も、ゼベクのことはあまり良く思っていなかった。
この日の定例会議はまたも紛糾。
結局、この日も時間が長引くばかりで、物別れに終わったようだった。
「なんだよ。結局今日も、なんにも決まらなかったじゃねえか。
こんなんじゃ、こんな定例会議なんか、いくらやっても無駄なんじゃないか。」
ある参加者が呟いた。
ノボルは、ある一軒家を借りて、そこを拠点にして行動していた。
ノボルはよく、自己判断で勝手に物事を決めては、周囲の顰蹙を買うことがよくあった。それはノボル自身も、自分の悪い癖だと、自覚してはいるのだが、何か新しいことを思いつくと、周りに言い出さずにはいられなかった。
「まいったな…。カジノと劇場は、このまま資金が集まらなかったら…。
だいたい、4億5000万ゴールドというのは、いくらなんでも高額すぎるから、もっと格安にできないかな…。」
そんな中、ノボルはカトレーダに、道で偶然出くわす。
「ノボルさん。今日は元気ないね、どうしたの?」
「カトレーダか、実はね…。」
カトレーダに、カジノと劇場の建設費用の件で話すノボル。
「そうなんだ。ノボルさんは、どうしてそんなにカジノと劇場の建設にこだわるの?
ははーん、わかった。
カジノで遊んで、劇場で踊り子たちの踊りを見たりして、あとは気楽に暮らしたい、って思ったからでしょ?」
これは見事に図星だった。
図星 他人から指摘されたことなどが、まさにその通りであるということを意味する。
カトレーダには全てお見通しだったようだ。
ノボルは島にカジノを建ててギャンブル三昧、さらに劇場を建てて、踊り子たちの踊る姿、セクシーな衣装、胸、お尻、柔肌を、毎日のように拝んでは、気ままにぐうたら過ごしたい、という考えがあったこと。
だから、カジノと劇場の建設を急がせようとしたのだが、人々の賛同を得ることと、資金を集めることを、まずは優先しないと…。
そんなさなか、キングスクラウン王国の、国王直轄の『ゲド村』では大変なことが起きていた。
ゲド村の住民が、年貢の吊り上げに反発し、一揆を起こした。
そして住民たちは代官所を襲撃し、代官ら役人たちを殺し、
その死体を吊し上げにして、いたぶったという。
本国にもそれは伝わり、ミッテラン国王はその一揆の鎮圧のために、軍隊を派遣したという。
何やらこちらもキナ臭くなってきたようだ…。
文明から隔絶された辺境の村、『ゲド村』という所は、どんなところなのか…。
この村の人々は、『ヤツハカ教団』という邪教を信仰しているという。
いや、この『ゲド村』自体が、『ヤツハカ教団』の信者たちの集う、いわば聖地のようなところ。
この『ヤツハカ教団』の唯一絶対の神というのが、『ミツクビ神』という、これも邪神だという。
たびたび本国からは弾圧を受けていた。が、それでも生き延びてきたという。
また、『ゲド村』を守る『ヤツハカ教団』に金で雇われた傭兵たちは、たとえ骨だけの姿、ガイコツ剣士になり果てても、
それでもなお、教団への忠誠心は消えていないという。
そのゲド村ってのは、たとえば、ゾンビとか、スケルトン=ガイコツ剣士とか、ゴーストとかの、いわゆるアンデッドとかが集まるようなところなのか?
まだ全くその実態は解明されていないが、
とにかく、そのヤツハカ教団という教団組織は、そうした魔物たち、アンデッドたちを操るような特殊能力を駆使する、
ヤツハカ教団特有の、特徴的な法衣を身にまとった、謎の神官たちが率いているという噂もある。
あるいはその神官たちの正体は、ネクロマンサーではないかという説もあるが、
そもそも姿さえ、なかなか見せないのだから、今のところはまだ知るよしもなかった。
それよりも、カジノ建設の方は、どうなっているのか?
まずはカジノ建設の方をなんとかしないと。
どうにか目処をたてないことには、何も始まらないのだから。