第2話
キングスクラウン大陸から、商人と衛兵と貴婦人と町娘たちを乗せた、かなり大きな帆船がやってきた。
無人島に降り立った人々は、以下の通り。
商人
イザコ・ドルチェ
衛兵
マルセロ・ハンス
貴婦人
マルシア・アイーダ
町娘
カトレーダ・ピピン
そして、ノボルはさっそく、話をしてみる。この世界に来たばかりで、右も左もわからず、今の今まで、なすすべもなく戸惑っていた。
「あのー、すいません。
あなたたちは確か、大陸からやってこられた…。」
すると、商人のイザコ・ドルチェが答えた。
「はい、実は私たちは、キングスクラウン大陸を統治する、キングスクラウン王国の、ミッテラン国王陛下と、大臣のシラク閣下から、この無人島の調査を行ってくれと、直々に依頼されましてね。」
なんと、キングスクラウン大陸を統治する、この世界にたった1つだけある王国、キングスクラウン王国の、ミッテラン国王が調査を依頼した、その一団だと名乗った。
脇を固める衛兵は、その一団の団長と思われる商人、イザコ・ドルチェを護衛する役割、というのはわかったが、
一方で、そちらの貴婦人と、町娘たちというのは、どういう役割なのだろう。
「あそう、あらためて君に紹介しよう。
こちらの衛兵のマルセロ・ハンスは私の護衛だ。
こちらの貴婦人、マルシア・アイーダは私の古くからの知り合いでねえ。
私の取り扱う品物を、よく購入してくれるんだよ。
それから、こちらは私の店の奉公人の町娘、カトレーダ・ピピンだ。
この娘は見た目も可愛らしいが、よく働いてくれるから、私も助かっているんだよ。」
「衛兵のマルセロ・ハンスだ。よろしくな。」
「私はマルシア・アイーダと申しますのよ。」
「私は奉公人のカトレーダ・ピピンです。」
最後にノボルが自己紹介をすることになった。が、これまでの経緯は、あえて言わなかった。
「僕は、ノボル、この無人島の開拓のための協力者を探しているんだ。」
ノボルが自己紹介をすると、商人イザコ・ドルチェが、思わぬ話を持ちかけてきた。
「それなら、私のところで働いてもらっている、大工たちをこの無人島に送り込んで、家と、町を建設させよう。」
商人イザコ・ドルチェは自ら大工まで雇っているそうだ。
もしやこの商人は、キングスクラウン王国一の、大富豪なのでは?
それならば、拠点となる家だけでなく、ここに町を建設するための、資金もこの際だから提供してもらおうか、と思ったその時、イザコ・ドルチェたちから誘いを受けた。
「もし、よろしければ、船に乗って、キングスクラウン王国に来てみてはいかがかな?」
キングスクラウン王国に船に乗せて、連れていってくれるのだそうだ。
キングスクラウン王国、ということは、キングスクラウン大陸に足を踏み入れるということになる。
「それなら、乗せていただきましょう。」
すると、町娘のカトレーダ・ピピンが、微笑みながら、言い寄った。
「よろしくね、ノボルさん。」
このカトレーダ・ピピンという町娘は、思った以上に、かわいいな…。
そう、ノボルは思った。
そして衛兵のマルセロ・ハンスから、酔い止めの薬を渡され、ノボルはそれを飲む。ひとまずこれで、船酔いの心配はなくなるようだ。
「あらあら、ノボルくん、もしかして、カトレーダちゃんに惚れたのかな?」
貴婦人マルシア・アイーダが、冗談交じりに言った。
しかし、キングスクラウン王国の、ミッテラン国王と、大臣のシラク閣下とは…。
なんとなく、どこかで聞いたことがあるような、ないような、そんな名前だったが、やっぱり思い出せなかったノボルだった。
「それでは、いよいよ船に乗って、出発進行と参りましょうか!」
イザコ・ドルチェの号令で、船が動き出す。
せっかくだから、キングスクラウン大陸の方も、この目で見てみようと、ノボルは思っていた。
「海の魔物とかは、現れないのかな…?」
ノボルは一抹の不安を抱えていたが、今のところ、魔物らしき影も見当たらなかった。
そしていよいよ、キングスクラウン大陸へ…!
海は波も穏やかで、相変わらず、空は雲一つ無い、快晴の青空だった…。
そして無事に、魔物にも遭遇しないで大陸にたどり着いた。あれがキングスクラウン大陸、そして眼前に広がる、かなり大きな港町。あれがどうやら、キングスクラウン王国の城下町のようだ。
「おお!ようやくキングスクラウン王国にたどり着いたか!」
キングスクラウン王国の城下町は海に面した港町。つまりは、城下町であって、港町ということだ。
しかしここで、ノボルはこの世界の実態を知ることになる。
「この城と城下町の他に、町とか村とかはないの?」
ノボルはイザコ・ドルチェに聞いてみた。すると、
「実はですね、この大陸にある、人間が住むところというのは、このキングスクラウン王国の城と城下町だけなんですよ。」
「ええ!?」
なんということ、つまりはこの世界で人間が住んでいるのは、キングスクラウン王国の城と城下町だけということか。
この世界にある陸地は、あの無人島と、キングスクラウン王国のある大陸だけだから、そういうことになるな。あとは全部、海だもんな、と、ノボルは心の中で言っていた。
ひとまず、城下町に降り立ってみる。ついにキングスクラウン大陸に足を踏み入れたわけだ。
すると、こんな情報を耳にした。
「いやー、こないだ地面を掘っていたら、昔の時代の剣や、槍や、盾や、それから当時の家の建材らしき、レンガのようなものとかいっぱい出てきたんですよ。
いったいいつ頃の時代のものなのかと。
今でこそこの国は平和ですが、昔は戦いがあったんですなあ。」
今はこんな状況だが、昔はそれこそ、いろんなことがこの世界にもあったんだなと、ノボルは思っていた。
今後の予定では、まずはミッテラン国王と、大臣のシラク閣下にあいさつをしてから、無人島の開拓に協力してくれる大工のもとへ向かうという。
そして、ミッテラン国王と、大臣のシラク閣下への謁見となる。
「ミッテラン国王、及びシラク閣下の、おなーりー!」
そして2人は姿を現す。いかにもそれらしき風貌だ。
「ミッテラン国王、シラク閣下、こちらのノボルなる者を、お連れいたしました。」
えっ、お連れいたしましたって…!
もしかして、わざわざここまで連れてくるために、船にも乗せてくれていたのか…!?
ノボルは考えていた。
「ノボルよ、よくぞこの城に来てくれた。
私はこのキングスクラウン王国の国王、ミッテランだ。そしてこちらは、大臣のシラクだ。」
「どうも、シラクと申します。人々からは『閣下』などとよばれておりますが…。」
それは自分が人々にそう呼ばせているんじゃないのか?とノボルは思ったが、この後、ミッテラン国王から衝撃の事実が語られることになろうとは、その時その瞬間まで、思ってもいなかった。
「実は、既に察しはついているとは思うが、かつてこの世界には、たくさんの大陸や島があったのだ。
しかし今は、この大陸と、無人島が1つ、それだけになってしまっている。
しかしな、ノボルよ。
そなたたちがあの無人島を開拓していくことによって、かつて失われた大陸や島が、再びこの地に姿を現すやもしれぬ。
そうしたらまた、それらの大陸や島をまた、開拓していくという構図だ。
詳しい説明は、このとおりだ。わかったかな?」
大工を雇って、無人島の開拓の拠点となる最初の家を建てさせる。最初はやはり、掘っ建て小屋のような家だろう。
しかし、そんな感じでコツコツやっていたら、開拓が完了するまでに、どのくらいかかるかもわからない。
そうだ、どうせなら最初から、絢爛豪華な豪邸を建てさせよう、お屋敷を建てさせよう、召し使いとかも雇って、とか、頭の中では思い描いてはいたのだが、果たして…。といったところだ。
この世界は僕の頭の中で思い描いていた世界。
だから、僕の裁量次第で、どうにでもできるんだ。この世界を…。
と、ノボルは思っていた。
城下町の人々に話を聞いてみる。
「世界があの無人島と、この大陸だけだから、この国の人間たちは、ほとんど親戚同士のようなものなのよ。」
このような話を聞けたが、正直な話、無人島の開拓に役立つような話は、あまり聞かれなかった。
「そういえば、この大陸の内陸部は、人間が足を踏み入れない、深い森になっていて、そこには、何百年も昔、この辺りが今よりも栄えていた時代の遺跡があるらしい。
だけど、その遺跡に出没する魔物たちは恐ろしく強く、普通の人間では近づくことさえできないという。」
なるほど、何百年も前の遺跡か…。
遺跡もいいけど、とにかく今は、無人島の開拓だ。
さあ、まずは大工の皆さんに会いにいくぞ。
この世界にも『ギルド』と呼ばれるものがあり、大工のギルドもあるようだ。
その大工のギルドの棟梁の名前が、ケーンという。
「おい!お前がノボルというのか、既に話は聞いているぞ。」
この大工のギルドも、例の商人、イザコ・ドルチェが運営資金を提供しているらしい。
ただし、その運営資金の出所は不明だという。
イザコ・ドルチェの総資産は算定不能ともいわれている。
「俺は大工の棟梁、ケーンだ。よろしくな。
これからいろいろと建物を建てたりすることが多くなってくるとは思うが、
これから存分に、うちのやつらを使ってやってくれよ。」
「僕はノボルだ。無人島の開拓を進めたいとおもっている。」
ケーンはこころよく引き受けてくれたようだったが、ケーンがノボルの親の話をしようとしたとたんに、ノボルは口をつぐむ。
「ノボル、親はいるのか?」
「…親はいない。」
ノボルの親は、そう、教育熱心な厳格な親だったが、ノボル自身はそんな教育熱心な親をこころよく思っていなかった。というか、むしろノボルはそんな親が嫌いだった。
だからノボルは、そんな親たちを、初めからいないことにしてしまっていた。
だがケーンは、すぐに察しがついた。
「もしかして、親が嫌いなのか?
…そうか、親が嫌いか…。
だけどな、それはむしろぜいたくな話だ。
俺なんか、両親の顔なんか覚えていない。
俺が生まれてすぐに海で死んだって聞かされて育ったんだ。」
そうして今度はケーンが自身の親について語る。
「ところで、このキングスクラウン王国ってのは、初代国王、シャルル・ド・ゴール1世によって建国されたって話は、さすがに聞いたことはないよな。」
次から次へといろんな話が出てくるな…。
そして、キングスクラウン王国の、政治はミッテラン国王と大臣のシラク、
経済は、あの豪商のイザコ・ドルチェが実質動かしているようだということもわかった。
「わかった、俺からも、人々に呼び掛けて、移民希望者をつのることにするよ。」
ケーンの協力を得ることができて、まずはひと安心のノボルだった。
「さてと、そうと決まったら、まずは食事だ、腹ごしらえだ。」
ノボルは、チーズハンバーグと、チーズインハンバーグとを注文した。
チーズハンバーグとチーズインハンバーグって、ただチーズが上に乗っかっているか、中に入っているかの違いだけなのに、ノボルはあえてその両方を注文したのだった。
ノボルはこう見えても、食いしん坊らしい。