序章・第1話
この物語は、まさにこれから、とある戦いが始まろうとしていた場面、そこでこれまでの冒険の旅路を振り返る場面から始まる…。
朝の光が差し込む。僕は再び目覚める。が、状況は何ら変わらず、人々は戻ってこなかった。
「おはよう、ノボルさん。
眠ってみたけど、何も状況は変わらなかったわ。」
カトレーダだ。僕の今カノ…、いや、いまだ片想いか…。
「今日は、僕らと出会う前の話から聞かせてよ。」
マルセロ・ハンス。衛兵だ。戦闘要員として連れてきている。もちろん戦士系だ。
「私もそれ聞きたいな。なにしろ私とは、出会ってからまだそれほど経ってないし。」
こちらはリディアだ。ムチ、槍、魔法の杖、そして強力な魔法を使いこなす。
「それじゃ、話を始めるよ。ヤツハカ教団との戦いが本格化したら、それもできなくなるからね。」
昔話のようになってしまうが、僕は話し始めた。
はっ…!
ここはどこなんだ…!
気がついたら、そこは見たこともない景色だった。うっそうとした森が広がり、海岸には波が打ち付けていた。そしてその先には、どこまでも、どこまでも、海が広がっていた…。
いったい、ここはどこなんだ、ついさっき、僕はあのテロリストの運転する暴走トラックに跳ねられ、死んだはず…。
話はさかのぼる。
僕の名前は島内昇。
僕の生まれ育った島内家は、両親ともに一流大学卒の超エリートで、教育熱心で厳格な両親だった。
とにかく、口を開けば勉強、勉強。勉強しないと自分らみたいな一流の人間にはなれないぞ、とでも言わんばかりに。
プライベートも、恋愛も、制約を受ける。もちろん、エロ本やエロDVDなんかは、もってのほかという、がんじがらめの環境の中で、僕は育った。
ところが、そんな状況はある時突然、終わりを告げた。
両親は僕を家庭教師に預け、海外出張に行くことに。
「それじゃ、ちゃんと言うことを聞いて、勉強するのよ、昇。」
「そうだぞ。ちゃんと勉強しないと、お父さんや、お母さんのような立派な人間にはなれないぞ。」
島内家は、祖父の代には事務次官を務め、曾祖父の代には戦前の貴族院議員も務めたという、由緒正しき家柄だとか。
僕、島内昇の父も、やはりキャリア官僚で、次の事務次官候補にも名前が上がっている。
一方で母は、私立の名門女学園の学長を務める、教育熱心な人物。
父も母も、自分らのような人間こそが、優秀な人間だと、信じきっている。そしてそれを、僕らにも押し付けている。
僕はそんな両親に反発をおぼえていた。それでも、その時はこころよく見送った。
しかし、これがまさか、生きている両親を見た、最後になるなどとは、その時はまだ、全く思っていなかった。
それからしばらくして、海外でトラックが暴走して多数の死者が出たというニュースが入った。そしてその死者の中に、僕の両親もいることを知る。
そして僕は、その両親の遺体と対面する。他にも親戚や知り合いも集まっていた。
「まったく、海外でこんなことになるなんて。
由緒正しき島内家も、これで終わりだな…。」
誰かがそんなことを言っていた。しかし僕の心の中では、不思議と悲しみは感じなかった。それよりも、ようやくこのがんじがらめの環境から解放されるんだ、という思いの方が強かったのだ。
これで、恋愛にも、趣味にも、誰にも邪魔されることなく、没頭できるぞ。
そう思った矢先、今度は僕自身が、あのテロリストが運転する暴走トラックに跳ねられ、命を落とすことになったのだった。
なんだよ、やっと僕の人生を、これから歩んでいけると思ったのに…。
そして、気がついたら、そこは無人島だったという顛末だったというのが、ここまでの話だ。
無人島だから、人間は一人もいない。
そう思っていたら、神父の姿をした人物が現れた。いったい何者だよ。
「おお、あなたをお待ちしておりました。私は神様です。」
神様…?その神父は、神様と名乗っていた。
静寂に包まれる島の中。波音だけが、響き渡っていた…。
その神様と名乗った人物は、衝撃の事実を語りだす。
「実はですね…。この世界には、この無人島と、あとは1つの大陸しかないんですよ。
私も若い頃は、海に出たりしましたよ。
もしや、別の大陸や島や、あるいは町や村があるのでは?と、思ったりもしましたよ。
ですが、行けども行けども海ばかり。
大陸も、島も、何もない。ずーっと行って、気がついたら、この無人島に戻ってきていた。
そして、これが世界地図ですよ。見事に、この無人島と、こちらの大きな大陸だけが陸地で、あとは全部、海が広がるばかりという。」
神様の長い話をようやく聞き終えた。しかしそれにしても、この無人島と、大陸1つしかないとは、驚きだ。
そして、またさらに神様の長い話は続く。
「実はですね、この世界には、かつてはたくさんの島や大陸があったようなんですが、
現在残っているのは、この無人島一つと、あとはこちらの大きな大陸だけなのですよ。
そこで、あなたにはこの無人島に、大陸から移民を呼び寄せて、無人島の開拓を行ってもらいたいんですよ。
そして、あなたが呼び寄せた移民たちが開拓を進めていくことで、失われた島や大陸が復活していき、そこにまた新たな移民を送り込む、という手はずとなります。
なーに、心配はいりません。あなたはただ、移民を集めて、無人島に送り込めばいいのです。
そうすれば、開拓の方は、面倒なことは全て、その移民たちが勝手にやってくれるでしょう。
ちなみに、ここをこうしてほしい、などの要望がありましたら、移民たちに事前にその旨を指示しておくのです。
そうすれば、移民たちはその通りにやってくれるでしょう。」
以上、神様からの長い長い説明だった。
無人島に飛ばされるなり、いきなり神様と名乗る、神父の姿をした人物から、えんえんと長い説明を聞かされた僕、島内昇こと、こちらの世界での登録名はノボル。
そしていつの間にか、その神父の姿をした、神様という人物は、姿を消して、いなくなっていた。
なんだか長い説明を聞いて、眠くなってきていた。それよりも前に、腹が減ってきていた。
「とにかく、何か食べとかないとな…。」
何か食べよう。そう思い、僕、ノボルは、あらかじめ持ってきていたバターロールを一個、食べた。
「んぐ、んぐ、やっぱりこれがおいしいな。」
バターロールを食べ終えたら、食料探しとでもいこうか。
しかし、何しろここは無人島。僕が食べられそうな食料など、あるはずもないし、だいいちこれが本当に食べられるようなものなのかなんて、見分けがつかないだろう。
「これからどうしようかなあ…。」
無人島を開拓する、と、言葉で言うのは簡単だったが、いざ実行しようと思うと、果たして何から手をつけたらいいのか、ただただ途方に暮れるばかりだった。
どうにかならないかと、考え考え、考えている間に日が暮れてしまう。
まずはひととおり、この無人島を探索してみる。
この無人島は大半が高地と森林。分け入っていくことに。
すると、ある程度行ったところに、開けた場所があった。
「おやっ?なぜかこのあたりは、開けているぞ。
もしかして、人工的に切り開かれたところなのかな?」
そしてそこには、なぜか住居跡らしきものがあった。
「これは、住居の跡!?ということは、以前の住民が暮らしていた家の跡ということか…。
こんなところに住居跡があるとは…。
もしかしたらここには、いろいろと使い道のあるものとか、あるかもしれないな…。」
どうやらここに以前、人が住んでいたらしい。
すると、この島は以前は無人島ではなかった、人の暮らす島だったということになる。
しかし、いつしか住民がこの地を引き払ってしまったため、いつの間にか無人島になってしまった、ということになる。
そして再び海岸沿いの平地に戻ってきた。
「僕が家を建てられるとしたら、この場所しかないな…。
ここに僕らの、無人島開拓の拠点となる家を建てなければ…。」
そして、向かう先は、あの大きな大陸、キングスクラウン大陸だ。
この無人島以外で唯一、この世界に存在する陸地、キングスクラウン大陸。
まずはそこに向かうことにした。しかし、この島には船も、その船の材料となりそうなものも、見当たらない…。
「どうしたらいいんだ…。」
すると偶然にも、そのキングスクラウン大陸からの船がこの島にやって来ていた。
そして、その船からおりてきたのは、商人と、衛兵と、派手なドレスを着た貴婦人と、町娘が何人か、という顔ぶれだった。
「これは助かったかもしれない…。」
まさに天の助けか?これは、と思っていた。
「おやっ?この島になぜか、見かけない顔の人間がいるぞ。」
「本当だ、このあたりでは見かけない顔だな。」
「はたして何者なのでしょうね。あの人は。」
「でもあの人は、悪い人ではなさそうね。」
商人、衛兵、貴婦人、町娘は、どうやら僕、ノボルの存在に気づいたようだ。
そしてこの人たちとの出会いが、僕、ノボルの新たな運命を切り開いていくことになるのだった。