第16話 ゴブリン無双とゴブリンスレイヤーと名乗る転生者
扉の前に看板があった。
そこには『ゴブリン無双』と書いてあった。
「なんだろうな?
この『ゴブリン無双』っていうのは?
まあいいか、とにかく入ろう。」
ノボルは扉を開けて入る。
すると、その中には無数のゴブリンの大群が、ひしめきあっていた。
100体…、300体…、いやもっといる。500体くらいはいるか。
1匹1匹はたいして強くはないが、数にものをいわせて攻撃してくるのが、この手のザコモンスターの特徴だ。
しかしまさか、500体とは…。
「ここは、全て倒そうとは思うな。
邪魔な前方の奴だけ切り捨てて走る。」
ブルースが言った。
ザン!ザシッ!バシュッ!ザシュッ!
1匹、2匹と、立ちふさがるゴブリンたちを切っていくが、なにしろこの数だから、キリがない。
そうこうしているうちに、あっという間に無数のゴブリンたちに囲まれてしまう。
「…ふん、この状況では、手におえないな。」
ブルースが言った。
「さあ、どうするかな。
おっと、この拳銃は僕の親父が、密かに東南アジアから取り寄せたシロモノらしい。
しかしまあ、息子には英才教育をして、暴力を振るうようには絶対になるな、なんてうまいこと言っときながら、自分はこんな拳銃なんか仕入れていたんだからな。
親父もすみにおけないな。」
ノボルは拳銃の出所について、自慢げに語る。
「いくぞー!撃つぞー!」
そもそも前いた世界では、一般人が拳銃など所持していたら、銃刀法違反で捕まってしまうのだが、
こちらのファンタジー世界では、そもそも剣と魔法の世界。拳銃のような武器は、逆に珍しい武器として重宝される。
ダーン!ダーン!
また1匹、2匹と、ゴブリンたちを撃ち殺していく。
「ははは。直接命中しなくても、この銃声を聞くだけで充分、威嚇にはなるようだ。」
ノボルはまるで楽しんでいるかのようだ。
「どうしよう…。」
カトレーダはおびえている。
「どうしよう…。」
マルセロもなぜかおびえていた。
「こんなもん、1匹1匹殺してたら、キリがない。
ここは『回転斬』という、敵全体を一瞬にして蹴散らす、必殺技でも使おうか。」
ブルースは必殺技を使おうと持ちかける。
キム、ウィル、ロバートにも持ちかける。
キム「ブルースの兄貴がそう言うなら…。」
ウィル「ブルースの兄貴!その話、乗っかりますぜ!」
ロバート「ここはもう、この状況だから、ブルースの兄貴の言うとおりにしないとな…。」
この3人は、ブルースのことを『ブルースの兄貴』と呼んで、慕っていた。
「いくぞ!せーのでいくぞ!せーので!
せーのっ!回転斬!てやあっ!」
回転斬とは、一回転しながら剣を振り回し、ザコ敵を一網打尽にする技だ。
ビシュッ!バシュッ!
ドガガーン!
ゴブリンの大群を、100体、また100体と、一瞬にして蹴散らしていく。
ビシュッ!バシュッ!
ドガガーン!ズガガーン!
あれだけたくさんひしめきあっていたゴブリンの大群は、回転斬によって、一瞬にして、ゴブリンの死体の山と化した。
「やったぞ!これで敵はいなくなったぞ!」
とはいえ、いなくなったのはザコのゴブリンの大群。
こうして約500体のゴブリンの大群を蹴散らしたわけだが、それを率いる親玉がいるということは間違いない。
どうやらこのさらに先の扉を開けたその先に、ここのゴブリンたちの親玉がいるようだ。
その次の瞬間だった。
ノボルたちの目の前に、どこかで見たことのあるような、無いような、そんな風貌の、謎の剣士の男が1人、現れた。
「やあ、君たちもこのゴブリンの洞窟に来たのか。
俺はゴブリンスレイヤーという、ゴブリンを剣で斬って、その数を自画自賛することをなりわいとする、ケチな旅の剣士だ。」
ゴブリンスレイヤー、そういえば、ゴブリンスレイヤーというタイトルのライトノベルの小説を、どこかで読んだことがあるというのを、ノボルは思い出していた。
そのゴブリンスレイヤーに、まさか実際に出会うことになるとは、夢にも思わなかった。
「気を付けな。ここにはゴブリンたちが、それこそ何10万匹もいるというぞ。
しかし、話はまた後だ。
お前たちのお目当ては、この先の扉の向こうの部屋にいる、親玉ゴブリンを討ち取って、その財宝を手に入れることだろう。」
何でわかった?もしかして、このゴブリンスレイヤーは、僕らの心が読めるのか?と、ノボルたちは思った。
しかしまあ、とりあえずはこの先の親玉ゴブリンを倒してからだということで、ゴブリンスレイヤーとはいったん別行動ということになる。
「さあ、行くぞ!」
ゴブリンスレイヤーは感じ取っていた。そして、ノボルもまた、ゴブリンスレイヤーにあることを感じ取っていた。
「もしかして、あいつらはボスクラス狙いか!?」
「もしかして、あのゴブリンスレイヤーというやつもまた、異世界転生者か!?」
自分と同じく異世界転生者だということは、すぐに直感でわかった。
しかし今はとにかく先に進もう…。