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26. 晩夏の手紙

『親愛なるお父様へ



 天国のお父様、お元気でしょうか。

 天国なので元気も何もないかもしれませんが、手紙の出だしはこういうものだと学校の授業で習ったので、とりあえずお聞きしておきます。

 そう。今日はいつもの日記ではなくて、手紙なんです。

 手紙でおしゃべりするのは初めてですね。日記では、毎日お話ししていますが、たまにはこういうのもいいと思って書いてみました。

 まあ、宿題なので、お父様だけでなく先生も読むことになりますが、そこは許してください。


 僕や母様、そして伯母様はとても元気です。


 母様は相変わらずお菓子作りに夢中で、自分も食べてばかりいるので、真ん丸いままです。

3日前に日記でお話ししたように、ダイエットを頑張ると宣言していたはずなのですが、全然頑張っていません。さっき日記帳で調べてみると、先月も、その前の月も同じようなことを言っていたみたいです。

 さっき帰宅の挨拶をしたときも、王都のお爺様から送られてきたお菓子を食べていました。きっと、今回もダメですね。

 時々王都から遊びに来るレジーお婆様から、昔はすごくスマートで美少女だったという話を聞いたのですが、たぶん嘘だと思います。だってお婆様、嘘をついて僕にイタズラばかりしますから。

 でもまあ、母様のお顔は僕に似ているので、美少女だったという辺りはちょっぴり信じてあげてもいいと思っています。


 王都でお仕事をしているお爺様は月に一度、この屋敷に遊びに来てくださいます。

 いつもたくさん遊んでくれるので、僕はお爺様が来る日が楽しみで仕方ありません。

 先月は、釣りを教えていただいたんですよ。僕は大きな魚を4匹釣りましたが、お爺様は小さなのが1匹釣れただけでした。弟子が師匠を超えることなどよくあることなので、気にしなくてもいいと思います。

 そういうわけで、僕はお爺様が大好きなので、お爺様が帰ってしまうとすごく寂しいです。

 ――― どこにも行かないで、ずっと一緒に暮らしてくださるといいのに。

 この前、お見送りをしていた時、涙を一生懸命我慢しながらそうお伝えしたら、どうしてかお爺様の方が泣いてしまいました。

 僕、何かいけないことを言ってしまったのかなと心配になったのですが、おじい様はとても嬉しかったからだと、僕を抱きしめてくださいました。

 今度はいつお会いできるかな。

 この手紙が上手くかけたら、次はおじい様に手紙を書いてみようと考えています。喜んでくださるでしょうか?


 さて、お父様。

 母様が、「お父様へのお手紙には、伯母様のことをたくさん書いた方が喜ばれるわよ」とおっしゃるので、伯母様のことも書こうと思います。

 …… 本当は書きたくないんです。

 だって、お父様にまで伯母様をとられそうになったら、僕困りますから。


 お父様はご自身の姉上なのでご存知でしょうが、伯母様はもの凄く格好良くて、凛とした美しいひとです。

 僕は女顔だとからかわれることも多いので、キリリとしたお爺様に良く似た伯母様みたいだったらなあと、いつも残念に思っています。

 ところで、お父様も女顔だったとレジーお婆様から窺っているのですが、本当でしょうか? 恨んだりしないので、本当のところが知りたいです。ほんとに、恨んだりしませんから。

 伯母様は、ご自分ではまったく気付いていないけれど、街のみんなの羨望の的です。

 紹介すると、友達みんなに羨ましがられます。ときどき母様にくっつかれ過ぎてぐったりしていらっしゃいますが、とてもクールで素敵な方です。僕の自慢です。

 頭も良くて仕事もできると、研究所に遊びに行ったとき、同僚だというおじさんが褒めていました。

 なんか、無駄に伯母さまに馴れ馴れしくする男で、気に食わなかったので、ちゃんと言い付け通り、母様に報告しておきました。素敵過ぎる伯母様を持つのも、楽じゃありません。本当に。


 伯母様は毎日、研究でお忙しそうです。

 伯母様は頭のよい方ですが、頑張り屋な女性でもあります。たくさんの本を開いて研究している時の伯母様の横顔や、紋章の光に大切そうに触れる伯母様の手が、僕は大好きです。

 ただ、一生懸命過ぎるところが、少し心配になる日もあります。

 今夜も研究室に泊まり込みでお仕事だそうです。ちゃんと眠って、ご飯も忘れず食べていらっしゃれば良いのですが……。あ、エーリオが夜食を持って行くと言っていたので、今日は大丈夫かもしれませんね。安心です。


 今度の秋のお休みには、伯母様とお出かけする約束をしています。


 近所にある大きな公園に行って、みんなでお弁当を食べるのです。

 もうじき、秋本番。その頃には紅葉が一番綺麗に見られるからと、昨年やその前の年と同じように、伯母様が誘ってくださいました。

 毎年、お弁当は伯母様の手作りなんですよ! 今年は、僕もお手伝いしようと思っています。上手く出来るか少し不安ですが、楽しみです。



 伯母様は、母様や他の人とは違って、普段あまりお顔が変わらない方です。


 それを怖いという人もいるみたいですが、そんなことはありません。とても優しくて、可愛いひとです。

 前は、知らない人に色々言われると腹が立っていましたが、最近は、僕たちだけの特別で構わないとも思うようになりました。どうしてでしょう?


 伯母様は、母様や僕のように、すぐめそめそしたりしないとても強いひとで、僕もいつかそうなりたいと目指しています。

 だけど、一度だけ、ものすごく泣いたことがあるそうです。

 母様が「ヒミツよ?」と言って、こっそり教えてくれました。


 それは、僕が生まれた日。


 生まれたばかりの僕を抱っこした伯母様は、誰が慰めても泣きやまないくらい、たくさんたくさん涙を流したそうです。

 いっぱい泣きながら、赤ちゃんの僕に約束したそうです。


 ――― 綺麗なものをたくさん見せてあげる。


 ――― 私のとっておきの歌を、あなたにたくさん聴かせてあげる。


 約束通り、伯母様は知っているいろんなことを僕に教えてくれて、たくさんの場所に連れて行ってくれます。

 僕はそれがとても嬉しいのだけど、なんだかひどく胸が痛くなるときもあるのです。

 どうしてだか、父様。あなたには分かるでしょうか?



 僕はまだ子供だから、伯母様にお返し出来るものが何もないけれど。

 明日、伯母様が疲れて帰ってきたら、よく眠れるように傍で、あの子守歌を歌ってさしあげようと思っています。

 あの歌を僕が歌うと、伯母様がふんわり微笑んでくださるから。




 伯母様が大好きな、


 あの〈(トロイメライ)〉の歌を――――― 。





ルデ幼等学校 2年

レジナルド・クロッソン


>> 追伸



 ――― そういえば、お父様。

 エーリオといえば、心配なことが一つあります。


 ついこの前、エーリオから伯母様と二人で食事に行きたいから、誘うためのお手伝いをするように頼まれました。

 子供の僕にもわかるくらいエーリオは伯母様が大好きなのですが、伯母様はピュアなので全然気付いていらっしゃいません。見事なスルーっぷりだと、母様がいつも感心しているほどです。

 エーリオには、僕と母様の護衛として、僕が生まれる前からお世話になっているので感謝しています。家族同然だし、幸せになって欲しいとも思っています。

 でも、それとこれとは話が別だと思うのです。同じ男の子として、ほんのちょっぴり可哀想に感じるときもありますが、心を鬼にして話を別にすることにしています。


 …… ただ、食事に誘うお願いをされた時。

 もし、伯母様とエーリオが結婚して(そんなの絶対に邪魔しますが)、子供が伯母様に似た女の子だったら、僕のお嫁さんにしてもいいかもしれないって、エーリオが言ったのです。


 お父様、僕はどうしたらいいでしょうか。

 悪魔の囁きだと分かっていても、この言葉がもう何日も頭から離れなくて、僕は困っているのです。


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