01. 初秋の知らせ
毎度のことながら、まったりとした更新になりますが、どうぞ宜しくお願いいたします。
異母弟が死んだ。
その知らせが私の元に届いたのは、空の青さが薄れ、木々の葉が季節の移ろいを伝え始めた、そんな季節の頃だった。
「ふうん」
口をついて出たのは、その程度の言葉。
だって正直、何の感慨も無い。
「そう。あの子、死んだんだ」
―――― その程度だ。
こんな薄情な女である私の名は、ステラ・クロッソン。
貴族院でも5指に入る有力者、クロッソン伯爵を父に持つ、由緒正しき名家の長女……ということになっている、一応。ほんの12年前からだが。
まあ、あれだ。
ぶっちゃけると、私は父が若気の至りで羽目を外しちゃった末、うっかり出来ちゃった子供。
つまり、庶子だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お悔やみ申し上げるよ、クロッソン君。帰国直後だというのに、このような悲しみを……」
「お気使いありがとうございます、フィリップ室長。私なら、大丈夫ですから」
1年半に渡り、隣国へ留学していた私。
帰国後すぐに挨拶に訪れた職場で、私は異母弟の死を知らせる手紙を、この上司から受け取った。
当事者である私よりも、余程悲しそうに項垂れている初老の男は、私の学生時代の恩師でもある。なので、私の家庭状況を良く知っているはずだから、ここまで気にしなくてもいいようなものなのだが。
…… ふむ。それとも、これが真っ当な人間の、真っ当な反応というものであろうか。
「もう、2週間前に葬儀は終えたそうだよ。国外にいた君には、連絡が取れなかったそうでね」
「まあ、そこは仕方ありませんよ」
別に、庶子だからって省かれたことを気にするわけでもない。今さらだ。
「もし、墓参りに行くなら、このまま休暇をとっても構わないが」
そう申し出てくれたフィリップ室長の真心を、丁重に辞す。
その後すぐ、荷ほどきが終わっていないことを理由に、私は室長室をあとにした。
初秋の陽光。
オレンジ色を含んだ光が、多くの窓から長い廊下に差し込んでいる。
研究所であるこの施設には、基本的に飾り気というものがない。けれど、豊かな森に囲まれた静かな環境が何よりもこの場所を彩っているようで、私はとても好きだ。
窓を開け、外を見やる。
いつも解いたままでいる長い髪を秋風に任せながら、外界を瞳に取り込んだ。
目に鮮やかな、一色一面の色彩。
「綺麗だな」
今年も。
秋に染まった、見事な木々の波。
このルデ地方の紅葉は自国他国ともに有名で、一度は目にしたいと云われるもの。
17の歳で研究の職を得、この施設の一員になった私は、毎年いまの時期を心待ちにしている。
去年は留学、今年も帰国時期が延びたせいで、観ることが出来ないかと心配していたが。
「…… 間に合って良かった」
異母弟の葬儀を逃したと知った時には心にも浮かばなかった思いが、唇からすんなり零れ落ちる。
別に、異母弟を憎んでいた訳じゃない。
彼自身から何かされた訳でも、妬んでいたわけでもない。
ただひたすらに、私は弟という存在に対して、無関心。
それだけだった。
だからなのだろうか。
「初めまして、お義姉さま」
長い旅路を終えてようやく寛ごうとしていたところを、何の前触れもなく、解いていない荷ごと王都へと攫われるように連れて来られ。
白亜の神殿で、帯剣した騎士に囲まれたまま、見知らぬ美少女と対面させられた。
どこかで鳴り響いている無数の鐘の音が、私の芯を重く痺れさせる。
のどかな微笑を向けられている私は、腕と肩を押さえられており、動くことが出来ない。
「わたくし、レナード――― 貴女様の弟君の、恋人ですの」
よろしくお願いしますね、と。
いまさら、何をどうよろしくしろというのか。
そんな疑問を口に出来るわけもない空気に囚われたまま。
私はその日、亡き異母弟に、無理やり向き合わされた。