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視点が変わってみたりする奴

 城の中で、最も城下町を俯瞰出来る場所に大浴場があった。最も見晴らしのいい場所であり、眺めは壮観だ。しかしながら私、長良優は、そんな絶景をまともに見れていなかった。

「ま、舞ッ! ち、近いって!」

 私の視界のほとんどを舞の顔が埋め尽くしているのだ。バカみたいに広い浴槽の真ん中で、当然ながら私も舞も全裸で、もはや抱きつくように密着していた。それよりも私と舞では胸部の脂肪に圧倒的な差があり、なんというか敗北感が半端ない。そんな敗北感から逃げる為にも全力で舞から離れようと抵抗している最中である。

「近くなければ意味がないんですよ。舞にはある程度の魔法を覚えて貰わなければならないのですから」

「だ、だから、それとこの近さとは一体何の関係があるの!?」

「落ちついて、冷静になって、私の目をよく見てください」

 そんなことを言われても冷静になれるか、と思いながらも舞の目を見て、そして意識がそこに吸い込まれた。舞の目に水の波紋のようなものが見えた気がして、それに意識がいったと同時にまともに考える力が失われていったのだ。

「……私の目をよく見て、……なるべく脱力して」

「……う、ん」

 意識がぼぅっとする。体が脱力し、舞のなすがままになる。漠然と、自分を俯瞰しているようなそんな気になって、他人事のような気持ちになって、舞のゆっくりとした適度に区切って伝える言葉がすんなりと耳に入っていく。

「……落ちついて、……大丈夫です。……私を信頼してください」

「舞、を、信頼、する」

 舞の言葉が、耳だけではなく脳に直接送り込まれるような感覚がする。舞の言葉を全て受け入れてしまう。

「……あなたは私を信頼しています。……ですから、……これからあなたは、……私に何をされても、……抵抗しません」

「何、も、抵抗、しな、い」

 なんだろうか。なにか、きけんなことをいわれているようなきがする。

 なにもていこうしない。それはつまり――。

「それでは、優の初めてを頂きますね」

「――って私の何を奪うつもりよっ!」

 舞に水をぶっかけて、そのまま即座に距離を取る。一瞬だけ見えたが、明らかに舞のそれはキス顔であり、つまりは私の唇を奪うつもりだったのだろう。

「っ、はぁ、はぁ、今の、何よ……」

「あははは、おかしいですね。いつものようにしたはずなのですが、どうやって解いたのでしょうか……?」

「やっぱり舞の仕業か! 今のは何なの!?」

「今のが魔法ですよ。正確には魔法の応用です。一種のトランス状態。催眠状態、って言った方が分かりやすいでしょうか?」

「もし、今のが解けてなかったら……?」

「ファーストキスを頂いているところでした」

「舞ってそっちの気があるの!?」

「ええ、どちらでもイケます。ちなみに聡もですよ?」

「興が危ない!? いや、まぁ、興はいつものことか。これまでにも五人くらい男子に告白されてたし。まぁ、それに舞、残念だけど私のファーストキスはもう、興に奪われてるから無理だよ」

「……おや? お二人はそういう関係でしたっけ?」

「ううん。ただの事故よ。『運命力』、だっけ? 多分、『不運の運命』が働いたんでしょ」

「それは、その、ご愁傷様です」

「……うん」

 そんなつもりはなかったのだが、舞がやけに気を遣った回答をしたせいで私もつられてしまった。

「――それで、魔法っていうのは一体何なの?」

「魔法は『魔力』を使って事象を起こすことです。『魔力』は、この世界のどこにでもあってどこにもない、万能のエネルギーの素って感じですね。あらゆるエネルギーに転換できる、そんなものです」

 なるほど、分からん。

「とにかく、それをなんだかんだしたら魔法が使える、みたいな訳?」

「そうですね。例えば……」

 と言葉を区切る。咄嗟に再び余計なことをされないか、と距離を取ったが舞は苦笑いをしながら「流石に二回もしませんよ」と言った。ほっと安堵の息を吐くと同時に浴槽にあった水の一部が、そういう装置もないというのに噴水のように吹き上がった。恐らく、この現象そのものが魔法によって出来たことなのだろう。

 ――なるほど、大体ニュアンスは分かった。

「こんなことが出来ます。そこにあるものを飛ばしたり、形を変化させたりは基本中の基本です。特に液体は元々変化しやすいので基本の初級編と言ったところでしょうか。とりあえず優には液体を操れるようになってから――」

 イメージ。舞が説明してくれた魔法についてのことはさっぱりだが、要するに「ないけれどそこにあるもの」を使うのだろう。それによって起こしたい現象をイメージし、それが起こる為に必要な処理を行う。その為のエネルギーの元が『魔力』。そんな感じなのだろう。

 途中から舞の言葉は聞いていなかった。試してみたいことはすぐに試す。それが私の主義というか生き方だ。主にそうしないと忘れてしまうからというのもあるが、何よりその方が楽しいからだ。

「こう、かな」

 片手を真上に掲げてそのまま振り下ろす。すると空気中に炎が発生し、それが舞のいる場所へと向かった。

「ッ!?」

 咄嗟に舞は自らの目の前に水を吹き上げさせる。水を盾にして炎を防いだらしい。物凄い判断力だと感心し、しかし自分の関心の矛先が間違っていることに気づく。

「だ、大丈夫!? ごめんっ! 目の前にいること忘れてた!」

「い、いえ、大丈夫ですが、今のは一体、どうやって……?」

「どうやってって舞が教えてくれたんじゃない。そこにあるものに『魔力』を使って事象を引き起こすのが魔法だって。だから空気中にある酸素を使ったら炎とか作れるかなと思って」

「……酸素?」

「あ、そっか。魔法がある世界じゃ科学はあまり発展しないんだっけ」

 確かそんなことを前に読んだライトノベルで見た気がする。ならばここで説明したって時間の無駄だろう。私もあんまり、科学も化学もよく分かっていないし。とりあえずそれらを誤魔化す為に、私は大雑把に空気を燃やしたのだと伝えた。

 すると舞は。

「気体に影響を与えるなんて、それこそ『魔術師の運命』を持っている人間でも難しいというのに、最初の一発目からそれをするなんて、本当に聡の言う通りですね。『英雄の運命』を持つ人間は、桁違いに理不尽です」

 と愚痴のような驚きのような、そんな言葉を漏らした。

「えっと……、まぁ、では優には、お風呂から上がった後、そういう魔法のパターンを沢山知って貰いますね」

 景色を改めて眺めて、体を綺麗にして、服を着替えてなどをしている最中、「いい方向に大幅に予定が狂ってしまった。これでは教え甲斐がない」などと、舞は苦笑いながらに、今度はハッキリと愚痴を零していた。教え甲斐なんてものを気にするとは、なんというか親のような性格だなと、私はふと思った

久々の投稿っす。これってどういうオチだったっけな……。

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