静かな森の中で
「あぁ〜〜…暇すぎて飢え死んでしまう」
この森で一番大きな木の上で、犬神『伏』は嘆いていた。緑の中を風がすぎる音、遠くで川の流れる音、虫の鳴く音などが見事な森の合唱を奏でている。
でもいつも聴いている伏は慣れてしまい、今では感動の一つもない。
「何かいつもと違うことは起こらないものかなぁ…」
ため息混じりに空を仰ぎ見ながら言ったその時、風が人間の匂いを運んできた。とても嗅ぎ慣れていた匂いだった。
毎日犬神の社に花を置きに来る人間…今では男らしい格好だが、初めて置きに来た時はまだ小さな子供だった。
「毎日毎日飽きもせず、よく僕の様な外れものの神に花を置きに来るなぁ」
だが、くる割にはなんの願いもして行かなかった。社の前で願い事をすればその言葉のまま伏に聞こえるはずなのだが、彼はただ花を置いて手を合わせ、しばらくして帰っていくだけだった。
「…いつも来るのに願いをしなければ、僕も叶えられない… …そうだ!」
毎日来てくれるお礼に、願いを探って叶えてやろうと考えた伏は、帰っていく人間の後ろを付いて行った。
一時間ほど歩いていったとき、道の先からたくさんの人間の匂いが伏の鼻に付いた。村の様だった。
「この人間の住む村…?ずいぶんと僕のお社から遠いのに、いつもこれを往復して来るのか…?」
沢山の疑問を抱きながらも、伏は人間の跡をついていった。
すると、東を向けば海、西を向けば山…自然豊かで風の音が心地よい場所にある村についた。
村はとても活気立っていて、人々が生き生きとしていた。
にんげんがその人々の中を縫うように歩いていると、そこらから声が上がっていた。
「カイヨウ、今日もお参りかい?」
「毎日毎日本当にえらいねぇ」
陽気に声をかけられている人間は幸せそうに笑っていた。
「…あの人間はカイヨウというのか…?」
村の人の方に手を振りながら、カイヨウは言った。
「あぁ、お参りだよ。叶うと良いんだけれどなぁ」
少し照れているように言ったカイヨウの声を、伏はどこかで聞いたことがある気がしていた。
お社に来るときはいつも何も言わないから声も聞いたことなかったはずなのに、ひどく懐かしい気が伏を襲っていた。
そんなことを思っているのもつかの間、カイヨウがスタスタと村の奥へ入っていくのが見えた伏は、人に化けて後をついていった。
カイヨウが向かう先にあるのは、小さな古い家だった。
カイヨウは引き戸を開けて中に入っていった。伏は壁の小さな穴から中を覗き見ることにした。
(なんだ?ボロくて暗い家だな… …ん?)
伏の目に留まったのは、部屋の中にある囲炉裏だった。目を凝らして見ると、トカゲのような小さな妖怪が囲炉裏の中に住み着いているのが見えた。
(あれのせいで、この家は暗いのか!でも、なぜカイヨウに害がないのだ?あれは体に悪い空気のはずだが…?)
不思議に思いながらも、住み着いたままではいけないと、カイヨウの家に乗り込んだ。




