第一章─金色の少年─6
入国検査を終えた後、フェニードルは荷車の中で会話をしたユーテットが移動商家の面々と離れ、明かりひとつない路地へ消えていったのが見えた。フェニードルは彼の出で立ちと口調を思い返してみる。商家とは違い、聖職者じみた格好の少年は育ちのいい雰囲気を感じた。だから、やはり商家の人間ではなかったという物だった。
フェニードルは一つの疑問を持ってしまった。
『どうして年端もないあの少年はこんな辺境の地に何をしに来たのだろう』
フェニードルは移動商家の人間であり、ダルーダ操者のハルゴに話を聞こうと声を掛けた。
「なあ、おっちゃん。ユート……ユーテットは、どうしてここに来たのか理由は分かるか?」
「……あー。あの餓鬼な。ホービ砂漠に入る前に、いきなり『ズーニアに用があるので、荷車に乗せてくれませんか?』、だなんて言ってきたから、別に理由なんざ聞いてねぇな……。謝礼の言葉を言ったかと思えば、どっかさ行っちまったし……」
ハルゴはそう言った。フェニードルはそれを聞いた後、自分の姿を消すように去っていったユーテットのことを暫し考える。
だが、フェニードルは考えるのをやめた。何故なら、また会える予感がしているからだ。
フェニードルはハルゴ達、移動商家に謝礼の言葉を述べてから、宿を探しにズーニアの地を歩き始めた。
安い宿を探そうと思い、設備は綺麗じゃなくても構わない為、小さい宿を一人探す。
紺碧の空に浮かぶのは、巨大な白い月。きらきらと光輝くのは、小さな星々達。その月と星に見下ろされたズーニアは、高い石の壁に囲まれているせいでか閉鎖的な国に感じる。灯りがちらほら見える家屋は、コンクリート造りではないと窺える家だ。
フェニードルは、暖かなランプが照らす、二階建ての宿を見付けた。名前は『シェルーセ』という宿。木で出来ている宿で、三角屋根がどことなく親しみやすさを覚える。
フェニードルは宿屋の扉を開けて、中に足を踏み入れた。
屋内には明かりがついていたが、受付には誰も居なかった。静かすぎるという印象を抱き、人気を感じないのが不思議に思う。
フェニードルは受付の奥にある、開いていない扉に向かって大きめの声を出し、人を呼ぶことにした。
「おーい。誰か居ないかー?」
そう言った後、扉が開くのを感じ、部屋の奥からは小柄な、褐色の肌の少女が出てきた。 少女は焦ったように、可愛らしい声でフェニードルに慌てて話し掛けた。
「お客様、お待たせしてすみません。当宿『シェルーセ』にようこそお越し下さいました。何泊の宿泊予定かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
十代半ばの少女をフェニードルは見て、疑問が生まれた。彼は眉間に皺を寄せ、少女の顔を見詰める。まだ店を持てる程でも店を切り盛りする程の年齢には見えない。家族で経営しているとなれば話は別ではあるが、彼女の両親らしき人影は全く姿を現さない。
フェニードルは口を開く。
「お前、親父さんとお袋さんはどうしたんだ?」
「……っ。……え、と。両親は今、出稼ぎに行っていて……」
「……この国に変な奴らは来なかったか?」
「変な奴らと聞かれても、心当たりは……」
「例えば『空賊』とかな」
「――――っ!」
顔を青ざめさせ、少女は恐怖に身体を震わせ出した。
聞いた張本人であるフェニードルは、予想が見事に当たったとしても、喜ぶことはせずに、顔を曇らせたかと思えば少女に宿泊する期間を伝えて、開いている部屋を要求した。
……彼奴らは一体何が目的なのか本当に分からねぇ。けど、この女の子も傷付けられたんだ。この子の両親を俺は救いたい。
フェニードルは固くそう決心し、少女の案内のもと、自分の宿泊するする部屋に辿り着いたのだった。