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序章─天人に選ばれた少年─2

 爆音が空気を震わし、炎魔法による攻撃でヘーゲリッチの地は地獄と化していた。

 熱に身体(からだ)を焼かれ、皮膚が剥がれ落ち、血を流し死んでいる男性だと思しき人が転がっている。顔は(みにく)く歪み、原形すら留めていない。

 藍色の髪の少年は恐怖に怯えることもせず、その死骸を見ていた。少年の衣服は所々焦げてしまい、衣服はみすぼらしい物になっている。転んで傷がついたのか、腕や膝小僧には掠り傷が出来ており、血が(にじ)んでいた。

 少年は一人呟いた。

「――ふざけるなよ」

 表情は固い物であるが、口から溢れた言葉には怒りと憎悪(ぞうお)が明らかに滲んでいた。

 突如として起こった悲劇。抵抗する人間を虫でも殺すかのように武器を振りかぶり、無慈悲に殺す賊は、このヘーゲリッチで美人として崇められてる女性を無理矢理捕らえては、巨大な飛空船に連れ込んでいった。

 抵抗をせず、怯え震える民すら、賊の計画で次々と連行され、厳しい拷問(ごうもん)を強いられている。

 少年は黒煙のせいで黒くなった顔を気にした素振りを見せずに走り出した。

 ……彼奴らの目的は『天竜』だ。

 これまで足を運んできた欲深い旅人達とは違い、強行突破といってもいい程荒々しい。

 少年の耳にある生物の鳴き声が聞こえた。嘆き悲しむ、儚くも美しい声。少年はその声を知っていた。この地に生まれて十年――年端もない幼い少年ではあるが、この地で育った人間なら誰もが知っている。

 ――天竜が、この悲劇に対して心を痛めている。

 少年は奥歯を噛み締めた。悔しげに顔を歪め、少年は走りに走る。

 頭の中を占める言葉は、ただ一つ。『彼奴らを絶対に許さない』。

 抵抗する力は彼にはなかった。体力も成人に比べれはなく、未成熟な為身体は作られていない。

 少年が我武者羅に走っている時に、男性と衝突してしまった。

 少年は尻餅をつき、目の前の男性を見上げた。

 血のように赤い鮮血を連想させる赤髪を後ろに撫で付け、格好は戦闘する気はないと言っているくらいの軽装備。だが、男の妖しげな眼光を放つ紫の瞳には、どこか愉悦の色を宿している。

 男はゆるりと口角を上げた。そして、少年を見てゆっくりと言葉を発した。

「――嗚呼、とてもいい目だ……。その憎しみに帯びた瞳は酷く(オレ)を興奮させる。少年の名前はまだ聞かないでおこう。……また会える日を、少年」

 酷く淫靡(いんび)な笑顔を浮かべ、人間離れした美貌(びぼう)を持つ男は少年に手を差し伸べることさえせずに横を通り抜けて行った。

 

 

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