序章─天人に選ばれた少年─1
六つの大陸で分けられているこの世界『ヴァレージュ・ミレー』には、魔力を体内に身を宿す人間や生物が数多存在していた。
魔力を持つ、人とはならずの存在を人々は魔物と呼び、愛玩用の魔物を白魔、酪農家や商家、移動商家らが飼う魔物を商魔と、大まかに分けられていた。だが、魔力を持つ生物で位が最も高いのが、『竜』だった。中でも、空を自由に飛び交う翡翠色の竜――『天竜』は重宝され、天竜が与える恩恵にあやかりたい人間や、天竜が有する力を欲する欲深い人間が後を絶たずに、天竜の住まう地――ヘーゲリッチに足を運んでいる。
ヘーゲリッチは、穏やかな気候の地だ。春になれば桃色の花を咲かせ、夏になれば青々とした深緑の季節になり、秋になれば深緑の葉は赤く色付いていき、冬になれば木々は裸になり、しんしんと雪が降る。広大な大地であり、一際目立つ木々もない、ヘーゲリッチの本土から離れた祭壇のような石台がある崖には、ヘーゲリッチの人間は近付くことはしない。まるで、そこの空間には選ばれた人間しか立ち入れないかのように、地面に生える草花がそう諭すかのように、誰も近付かなかった。
ヘーゲリッチは穏やかで平和な地でもあった。ヘーゲリッチに住む人々は皆笑顔を浮かべ、時には家族内で喧嘩をし、自分達の仕事を全うする者達で溢れていた。
……しかし、その平和を壊す者が現れた。
それは、穏和な地には似つかわしくない飛行物体が空を飛んでいた。黒で統一された、巨大な禍々しさを感じさせる飛空船が一隻。赤い鉱石のような丸い球体を象ったのが船に目立つ。悪魔のような毒々しい外装の船がヘーゲリッチの上空を飛び、人々はもうそこまで来ている良からぬ未来を感じ取った。
巨大な飛空船の後ろを追うかのように飛んでいる小型の船が、ヘーゲリッチの地に降りてくる。
一隻の船から、三名の男が降りてきた。男達の服装は、黒と赤に統一された、お世辞にも上品とは言えない、物々しい格好だった。
一人の男は無線機のような物で、敬語で連絡を取り、他の二人は警戒心を剥き出すヘーゲリッチの民を薄気味悪い笑顔を浮かべて見ている。
唐突過ぎた攻撃が空から放たれた。
巨大な飛空船からの砲撃だ。
人々は悲鳴を上げ、生まれた地を、暮らしてきた地を破壊されたことに酷く悲しみを抱いた。
だが、大地を削られただけではなかった。ヘーゲリッチに住む民達は、突如として現れた賊共が発動した魔法の餌食となっていった。
――その光景を呆然と見詰めている、藍色の髪をした幼い顔立ちの少年が居た。