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曹操孟徳の長男として  作者: 二人兄弟
宛城の戦い
9/14

口は災いの元、そして「家族」会議へ

 于禁うきんの案内で大きな門構えの屋敷の一室に通され、彼の粋な計らいで見事に立てられた、お茶が出されると、僕らは一斉に着席した。


 さて、一息ついたものの――。


「うむ、本日はお日柄も良く……」


「ほんとだねっふふっ」


「ごっ……」


「んー?」


「ごっ……ご趣味は?」


「お茶かな、それと裁縫」


「しっ知っている」


「うん、そうだろーね。43回目だもんねーその質問。うんうん、今日も元気そうで何よりだねっ」


「ああ」


 ――何この和やかムード……。


 あれ……僕は一体何をしに来たのだっけ?何で僕は目の前でいちゃつかれてるんだろう?


 この光景はどう見ても――そう。


「お見合いかっ!?」


 思わず立ち上がり、ツッコんでしまった僕だったが、これは仕方ないだろう。完全にお見合いである。アンが女物の着物に着替えているから尚更だ。娘(ではないが)は嫁にやらんぞっ!


 僕とアンは于禁とその隣にちょこんと座る老人(誰だ?これで父親とかだったら本当に「お見合い」だ。笑える。)に対面して座っている。畳の状態が悪いのかちくりと足を刺して痛い。


 まあ畳はどうでもいいか。ガマンできない程ではないから。てゆうか畳どうでもいい。


 僕は今ショックで、現実逃避の真っ最中である。まさかここまで仲が良いとは聞いていない。


 さてさて、後は若いもんでゆるりと……ね。


 ――ってなるわけないだろっ!僕は何をしに来たのか?


 そうだっ!「紹介したい人がいる」って……その人のところに行かなくていいのか?ちらりと横を見ると、


「あー……変かもしれないけど。気にしないでしゅーちゃん。いつもこんな感じだからっ」


 ニコっと眩しく笑うアンがいた。至って冷静である。僕は全く落ち着かないけどねっ。


 さっきの剣呑な雰囲気はどこへやらである。


「さーて、もう察しが付いてると思うけど。この人がアンの紹介したい人で、于禁。あざなは文則。見てわかるようにすごくカタイ人。でも良い奴だよ。ちょっとまじめすぎるけど」


「余計なお世話だ、安民あんみん


 不機嫌そうに鼻を鳴らす于禁だった。隣の老人は静かに微笑んでいる。どんぐり眼が小猿を彷彿させた。


 于禁は僕の方を向くと、さっきとは打って変わって穏やかな雰囲気になった。よく見れば、なかなかの美男だ。ううん、悪くない。


「若殿。アンからは若殿のご近況、かねがね伺っております。お初にお目にかかります、それがしは于禁と申します。殿並びに諸将の皆様、及び南陽の民の安全を……」


「あっもう大丈夫、于禁さ……いや――于禁」


「はっ」


「それと――敬語は要らないです、堅苦しいのは嫌なので」


「っ!?噂は本当でありましたかっ!それがしのような身分の低い者にまでお気遣いなさるとは……誠に恐悦至極」


 于禁は平伏したが、すぐに言って頭を上げさせた。


 なんというか――すごくめんどくさい。軽く感動して泣いているし。



 それから「いや敬語いらないって」「ですが分というものが」「だからそういうのは」「ですが」というやり取りを数分間に渡り繰り返し、僕はついに疲れ果てて于禁に敬語を使うことを許可した。


 アンは始終苦笑い、謎の老人は微笑みを保ったままお茶をすすっていた。元々このような顔なのだろうか。


「あの……この方は?」


 老人を指差す。そろそろ紹介してもらわなければ。


「父です」


「……ビンゴ」


 予想通りでした。というか完全に「お見合い」です。何この地獄?


 老人は于温うおんと紹介された。老人は茶器をそっと置き、軽く会釈した。喋らない。


 もしかして喋れないのか?まあ無理矢理話させることもないだろう。



「「びんご?」」


 意味がわからず、きょとんとするアンと于禁。僕は構わない。


「えーと、アン?」


 アンは傾げた小首を元の位置にすくっと戻した。僕は「ちょっとすみません」と言って、耳打ちの格好を取る。当然小声だ。


「なーに?」


「何でここに来たの?まさか于禁を紹介したかっただけとかじゃないよね?」


「もちろんっ文則はね。しゅーちゃんの力になってくれることになったからこうして来たんだよ」


「参内の折に、若殿が突如倒れられたと聞きました。そんな中、アンから若殿がそれがしを頼りたいと仰っていると伺い、半信半疑ではありましたがこうしてわざわざ足を運んでくださったところを見ると本気のご様子。誠に恐悦至極に存じます。何なりとご命令ください」


 小声なので聞こえていないはずだが、会話の内容は察したのだろう。


「文則はね、頭がすごくカタイんだけど、口もカタイんだよ」


「ほっとけ」


「それと財布の紐もカタイ。おごってくれないっほんとけちっ」


「……ケチではない、倹約だ。馬鹿者」


 アンは膨れっ面になり、「べーっだ」と舌を出してあっかんべーをしてみせた。


 なんでこいつら、いちゃついてんだよ……ちょっと壁とか殴っていいですか?軽くでいいんで。


 あ、だめですか。そうですか。そうですよね。


「……でねでねっしゅーちゃんが未来から来たって話もして――信じてくれるって、よかったねぇしゅーちゃん」


「若殿、どんな理由であれそれがしを頼ってくださったこと、感謝致します」


「……」


 「どんな理由であれ」って、ねぇ?


「どうかなさいましたか?」


 信じてないよね、絶対。まあいいけど。「味方」は一人でも多いほうがいい。


「……アリガトウゴザイマス」


「発音がちょっとおかしいですね……はっまさかっ!倒れられた拍子にどこかいけない所を打ってしまわれたのでしょうか?――心配です」


 この人もしかして天然なんだろうか?すごくイライラするこの感じ――なんだろう?


 悪い人ではないんだろうけど。


「さっそくなんですけど、聞きたいことがあるんです。いいですか、『于禁』さん?」


 『文則』とは呼びません。絶対に。


「それがしのお答えできる範囲であれば」


 キリッとした表情に変わる于禁。まさに仕事モード。


 職務中との落差が激しいな、この人。張繍ちょうしゅうとのやりとりの時もそうだけど。なんというか。


 真面目故の危うさがある。そんな気がする。


「アンとは一体どんな関係なんですかっ?」


「……へ?」


 あ。于禁が固まった。やばっ。


 間違えた。いけないいけない、僕としたことが。つい取り乱した。今は大事の前の小事だ。何より聞かなければならない、大事なことがある。于禁は任務の関係で張繍軍には詳しいようだから。


 咳払い。ゴホン。


「最近の張繍に何か不穏な動きはありませんか?」


 于禁もまた咳払いをし、


「健全なお付き合いを……」


 そして赤面した。僕は誰が見ても明らかな程にポカンとしている。


 は?


「「へっ?」」


 さあ「家族」会議の幕開けである。


 于温さん、お話があります。


 後で。

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