表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
曹操孟徳の長男として  作者: 二人兄弟
宛城の戦い
3/14

何か肝心なことを忘れているような気がします

「ねぇ、しゅーちゃん?」


 頭は痛いわ、肋はきしむわ、で非常に身体がえらいことになってる僕。


 古びた廊下を数歩歩いては立ち止まり、数歩歩いては立ち止まる――という牛歩を繰り返していた。


 紛いなりにも高校3年間、体育会系で「押忍押忍」言いつつ、尻バットを甘んじて受けてきた僕ですら、かなり痛い。きっと、常人なら全くもって動けないだろう。


 雨に加え、次第に風も強くなってきた。かなり寒い。


「ねぇ」


 典韋の野郎……後で覚えてろよ、必ず尻バットならぬ尻竹刀食らわしちゃる。


「ねぇ…ねえったら!」


「なんだよ今典韋の尻で忙し……って、え?」


 どこから湧いて出たのか、仙人のような男が道をふさいでいた。


 生きているのか死んでいるのかわからない。そんな飄々とした立ち振る舞い。


 右に左に小刻みに揺れていた。


「これはこれは曹安民殿。ご機嫌いかがかな?」


「げっ……」


 バツの悪そうな顔を隠そうともしないアン。知り合い?


「『げっ』とは随分ご挨拶ですなぁ?」


 紗帽さもを浅く被った白髪の老人。額は広くその眼は眉程も細い。


 信用できない。一目でそう感じた。直感だけど。


「すみません。気にしないで下さい」


「……ふむ」


 値踏みをするように、仙人はアンと僕を見つめていた。


「こちらの方は?」


 僕は不用意に言葉を発してしまった。


「おや?忘れてしまわれたのですかな?」


 しまった……。 


 後悔してももう遅い。万が一、この方が僕と旧知だった場合、怪しまれるかもしれない。


 なんとか、乗り切らないと。


「あ、いや……ええと……勿論、覚えておりますが」


「そうでしょうなぁ、わしとは長い付き合いになりますからのぉ、ほっほ」


「は、はい。そ……そうですよね」


 「かっかっか」と空笑いをする男と、苦笑の僕。


 つまらない冗談を飛ばす野球部の顧問との居心地の悪い会話を思い出した。


 とりあえず苦笑いでやり過ごそうとするのは僕の悪い癖だと思う。


 僕は男の様子をうかがう。すると、男の空笑いが含み笑いに変わった。


 ――何故?


「ふざけるのはやめてください!……そういうの嫌いです」


「いやはや戯れが過ぎましたかのぉ?」


「ご冗談が過ぎます、賈詡かく殿。昨日顔を合わせたばかりじゃないですかっ!」


「かっかっか」


「……」


 僕の服の裾をつかむアン。虚勢を張ってはいても、この男――賈詡が怖いのかもしれない。


 賈詡といえば、知る人ぞ知る策謀家だからな。相当腹黒いだろう。


 正直、僕はまだこちらに来たばかりだからこの男がさほど怖くない。それが何か危機回避的な意味で、重大な欠陥であるような気がしてどうして良いかわからず。裾をつかんだアンの手を取り、強く握った。


「曹昂殿?」


「……はい?」


 僕にこれ以上何の用だ?ぼろが出ないようにしないと。


 今度は気をつけよう。


 気を引き締めて――さあどうぞ。


「思ったよりもお元気そうで何よりでございました」


「え?」


 拍子抜けしてしまった。


「ではこれにて。曹昂殿、そして……曹安民殿?」


 にやっと笑ったようにも見えたが気のせいだったかもしれない。


 くるりと踵を返し、立ち去る賈詡。


 ――何しに来たんだ?用事があったんじゃないのか?ご機嫌伺い?(縦社会では大事です)


 あの男がそんな殊勝か?


「……ふんっだっ!」


 『あっかんべー』からの『べろべろばー』の繋ぎ技とは流石だな、妹よ。


 よっぽど嫌いらしい。


 頭良さそうだったな、まさに「食えない奴」って感じ?


「しゅーちゃん」


「ん、何だ?」


「信用しちゃダメだよあいつ」


「わかってるさ」


「きっと殺そうとしてる」


「それは言いすぎだろ、無闇に疑っちゃいけないぞ?」


 賈詡は後に曹操に多大な貢献をする。天下分け目の官渡かんとの戦いや対馬超戦で大活躍。


 まさに使える男、かっこいい。あれ……でも……?


 なんか肝心なことを忘れているような――?


「こわいよ……すごくこわい」


「守ってやるさ、にいちゃんがな」


 頭をナデナデすると、子犬のように鼻を鳴らしてそれを受け入れた。


 アンは静かに眼を閉じる。


 でもすぐ開けた。


「……はっ!」


「どうした!?」


 いきなり頭を上げるなよ……びっくりした……。


「アンはおねえちゃんって言ってるでしょーがっ!」


「はいはい、そうでしたねー」


 まさに自分でもびっくりするくらいの棒読み。


 いやー人間本気になれば、徹底的に感情抜けるのね。新発見だ。


 ありがたやー。


「何やってんの?」


「手を合わせて拝んでる」


「何に?」


「棒読みの神、強いんだぜ?」


 何に、だ?我ながらテキトー過ぎた。すまない。


「……」


 流石にバカにしすぎたか。ギャグセンスとしてもいまいち。


「……なにそれ会ってみたい!どこにいんの!?」


 まさかの食いつき。


 どうしよう?


「……」


「ワクワク!ワクワク!」


 やめて、そんな純粋な眼で見ないで!


「……ごめんやっぱなし」


「え」


「神は死んだ」


 〇ーチェ的に。フルー〇ェじゃないよ?


「え、いつ?」


「さっき」


「え、ほんと?」


「残念だったな。まあそのなんだ……いつか会えるさ」


 遠い目。かつての戦友を思い出すような――そんなイメージ。


 ってイメージかい!?


 ……キャラじゃなかった。


「二代目いないのかな?」


「いるんじゃない?」


「そっか」


「……めんどくさ」


「え?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ