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動き出す2.5日

お久しぶりです。

今回で一気に登場人物が増えます。

混乱しないよう、ご注意ください。

 1つの果実が実っていた。

 木登り上手なサルがいた。

 木登り上手なサルは果実を食べた。

 木に登れない者はサルを羨んだ。

 木に登れない者はサルを殺した。


 ◇


 ましろと歩き始めてはや30分が過ぎようとしていた。

 とうに話題は尽き、2人の間に流れる沈黙は空気をさらに重くしていた。

 これはいかん、と思いつつも、彼女と共有できる話題も持ち合わせてはいない。

 こういう時、誰かほかに女の子がいれば、いいのかもしれないけど……。


「―――――――― 」


 そんな時、ふと、何かが耳をつついた。


「~e a ……d in……e s~♪」


 それは、声だった。

 もっと突き詰めれば、おそらく女性の、歌声。

 俺たちは、どちらからともなく、そちらへと足を運んでいた。


「 …………kle, twinkle, little star, How I wonder what you are」


 美人……と言うよりは、可愛らしい女の子だった。可憐、と言うべきか。

 そんな女の子が、木箱に腰かけて、歌っていた。

 シャープな顔立ちに、つややかな髪。

 パーツだけ見ていけば、俺と同い年か、年上かなのだろう。

 しかし、その全体から醸し出される雰囲気は、彼女をやや幼く見せてしまっていた。


 歌い終えた女の子が立ち上がり、こちらを向く。

 俺と目が合うと、彼女は微笑んで見せた。

「こーんにちは。かなー?」


 セミロングの髪を飾っているリボンの控えめな色とは対照的に、花が咲いたかのようないい笑顔だった。


「残念、おはようございます、だ」


 俺は彼女に腕時計を突出し、言う。


「むー、おしかったなー」

「別におしくない、かも」

「…………んん!?」


 ましろのツッコミに彼女はがずずい、とましろに顔を寄せる。


「きゃー! かーわいいー!」


 かと思えば、突然抱きしめてしまった。

 ましろの小さな頭が彼女の豊満な胸の中へとすっぽりと納まってしまう。


「むぐ、むぐむぐ!」


 何とか脱しようと四肢をばたつかせようとしているのが見えたが、ハッキリ言って焼け石に水である。


「あー、この抱き心地…………ほぅー……」

「あのー、ちょっといいか……?」


 恍惚としている女の子に話しかけてみる。


「ん? 何かなー?」


 ましろを腕に抱いたまま、首だけ向けて応対してくれる。


「ましろが窒息する前に離してやってくれないか?」

「へ? あー。うん、ごめんね。つい……」


 言われてようやく気づいたらしい。

 手にかかっていた力を弱め、ましろを解放する。

 ましろは新鮮な空気を取り込むべく、深呼吸を始めた。


「えっと、この場所にいるってことは、2人とも『SHOW』だったけ。ゲームに参加してる、ってことかなー?」

「ま、そうだな」

「(こくこく)」

「ふむふむ…………ある程度本気ってことかなー」


 ただの天然さんかと思ったが、そうでもないらしい。

 意外とけっこう冷静に物事が見れる人のようだ。


「そーだ! 今どこにいるかわかるかな?」

「え? ああ。それか。大体……この辺りだな」


 携帯の画面を見せてやる。これでマーカーとの距離も大体わかってもらえるだろう。


「地図は本物……と」


 手帳にメモを取るあたり、マメな人だな。

 それと、彼女の反応は俺に安心感を与えた。

 彼女のような割と冷静な人間でも現在地を把握はできていないのだから、頭の回らない人はもっと時間がかかるはずだ。

 思えば、こちらはましろと2人で役割分担していたのだから、素早くマッピングできたのは自明の理だったか。


「――――本気かもしれないんだねー? 私たちをさらった人」


 顔はにこやかなまま、ただ、声の中に含まれる心はかなり真剣に、語りかける。


「…………今のところは。否定できる材料が無い」


 俺もそれ相応の真面目さをもって対応する。


「なるほどなるほど。じゃ、おねーさんがんばっちゃうからねー」

「え?」


「――――大丈夫、3人とも助かるよ。ただの勘だけど」


 その笑みは、どこまでも深く、決して壊れないと錯覚させるような力強さがあった。



「じゃ、とりあえず自己紹介だねー。私、『吉見よしみあかり』まだ18歳の大学1回生」


 なるほど、同い年でも、学年が1コ上だったか。

 まだ、と強調するあたり、多少年を気にしているということだろう。

 見た目はむしろ若く見えるから気にする必要ないような気もするんだが、乙女の胸中と言うのはユークリッド幾何学では表現できないからな……。


「烏丸正臣。高3だ」

「日十詩ましろ、中3……」

「じゃあ、さおみんに、シロちゃんだねー。よろしくー。あ、私は『あかり』って呼んでくれていいからねー」


 ましろを背中から抱きしめながら、星が俺たちのあだ名を宣告する。

 シロはともかく、さおみん……。…………。ああ! 名前から『ま』を抜いたワケだ。


「いや、それにしても『さおみん』、なあ…………」

「? ダメ?」


 ましろの頬をつつきながら、首をかしげられてしまう。

 おお、ふにふにしてる。かなりの弾力があると見た。


「いや、ダメってことはないけどさ」


 シロはまだわかるけど、さおみん……とは。随分新鮮なあだ名だ。


「じゃ、いいんだね。けってーい」

「……もうさおみんでいいです」


 なんだかこの人、天然さんは天然さんなんだけど、狙ってやってるんじゃない? とか思ってしまうのはなぜだろう……。

 いや、実際この人は見た目よりずっとしたたかだ。

 かと言って、この天然っぷりがわざとらしいかと言われれば、そうでもない。

 この人は素で天然で、素でしたたかな、不思議な人なんだろう。


「さてさて、呼び名も決まったところで、出発しよっか」


 星はましろを解放すると、肩かけ鞄をかけなおし、出発を宣言する。

 主導権は完全に彼女に握られてしまっていた。


「死にたくないし、ね」


 ◇


 移動の間は、特にこれと言ったトラブルもなく、新たな出会いもなかった。

 だが、やはり女の子という存在は大きかった。

 星はましろともすぐに打ち解け、俺が蚊帳の外になる事態はたびたび起きても、話題そのものが絶えることはなかった。


「マーカーで記されてたのはこの辺り、だよな」

 気がつけば俺は2人を先導するナビ役に徹していた。

 適材適所と言うべきなのだろうが、それはそれで悲しいものがある。


「うん、ここみたいだね」


 大部屋らしい部屋の前まで来たが、そこにはわざとらしく『ココだよ!!!』と記されていた。


「で、誰が開ける?」


 ここまでわざとらしい部屋だと、誰だって開けたくはない。


「うーん、ここはひとつ、男の子に譲ってみようかなー」

「いやいや、レディファーストと言う言葉がありましてね?」

「そんな、いいよ。私まだ『淑女』って歳でもないし」


 二人の間で静かに火花が飛び散る。


「……………………ったく、しょうがないな」


 結局根負けした俺が開ける羽目になった。

 ましろはどうしてたかって? 俺たちの気迫にオロオロしてただけだが。


「あ、来たみたいですね」

「何人?」


 中には先客がいたらしい。

 それも数人。

 まず出迎えてくれたのは俺と同年代の少年。今振り返って人数報告している。


「3人です。こっちは…………4人ですから」


 足して7人。どうやら間に合ったようだ。


「よかったわね。まだ空きがあるわよ」


 続いて目に入ったのは木箱に腰かけたショートヘアのラフな感じの女性。

 目にできた深く濃いクマはかなりハードな勤務をこなしていたであろうことが想像できる。


「あ、コードはあっちね」


 その女性は部屋の奥、壁に貼り付けられたポスターを指さしながら言う。


「そりゃどうも。じゃあ…………ましろからやるか?」

「あ、うん…………」


 手際よく、カメラを向けQRコードを読み込ませる。

 さすがは現代っ子、ということか。


「じゃあ次、私かな」


 続く星の方は、どうもうまく合わないらしい。

 カメラを傾けてみたり、近づけたり遠ざけたりしている。


「…………ちょっと失礼」


 なんとなく、なんとなーく、だが。この天然さんならやりかねない事象をひとつ思い浮かべてしまったので、携帯を拝借。


「…………やっぱノーマルのカメラモードにしてたか……」

「はえ? ダメだったの!?」

「いやいや。ここはな……」


 取説があればわかりやすかったであろう説明を一からする羽目になって、けっこうな時間を取らされた。


「いやー。こういうことだったんだねー」

「ひょっとして星って、機械苦手?」

「んー、自覚はないんだけど、そうなのかも。普段はこんなのなくてもパソコンで事足りちゃうし」


 星は携帯派ではなく、パソコン派らしい。

 基本携帯でできることならパソコンはその何倍ものスペックをもって処理できる。

 パソコンの使用条件さえ整っていれば、携帯を使う利点などあって無きに等しい。


「…………と、これで読み取れただろ?」

「うん、そうだねー。さおみんの教え方もよかったよ」

「そ、そうか?」


 素直に褒められると、やはり何歳になってもむず痒いというか、なんというか、落ち着かない嬉しさに襲われる。


「じゃ、じゃあ、俺で最後だな」


 照れを隠すように、俺は顔を背けてQRコードを読み取る。

 やはりワケのわからない文字列でリンクが張ってあるので、接続する。


《クエストクリア! おめでとうございます!》


 やけにポップな絵柄の動物たちに彩られたクリア報告画面が表示される。


   ▼けっか▼


 獲得ポイント

 R:0(目標まであと300000)

 G:0(既に目標値に達しています)

 B:0(目標まであと995602)


  ◇おしらせ◇

 違反事項一覧が更新されました!

・QRコードの意図的な損壊・隠匿行為


 平時評価一覧が更新されました!

・殺人すると1人につき Rを50万・Gを30万・Bを20万加点する。 

・生存中のプレイヤーの携帯を破壊すると全ポイント70万加点。


 注意事項一覧が更新されました!

・全員がファーストクエストを終了すると、その後3時間は全プレイヤーが攻撃禁止プレイヤーとなる。



「これで7人目がクリア…………か。あと半分切ったね」


 女性の隣に腰かけていた初老というには若く、中年というには老け顔な男性がつぶやく。

 しかし、半分切ったとはいえ、まだまだ時間はありそうだ。


「けど、まだまだ時間はありそうね…………自己紹介でもしておきましょうか?」


 今まで部屋の隅で立ったままだんまりを貫いていた眼鏡の女性――そこそこ気品のある人だった。着ているものも、装飾品も、おそらくブランドものだろう――がようやく口を開いた。


「『神尾かみお弥生やよい』よ。こう見えてもちょっとした会社を経営してるわ」

 いわゆる『社長さん』らしい。道理でいいものを身に着けてらっしゃる。


「えっと……『瀧田たきた紀明のりあき』、高1です」

 隣にいた少年が自己紹介を引き継ぐが…………まあ、予想通り。平凡な高校生らしい。


石動いするぎ照彦てるひこだ。地方公務員をやってるよ」

 続いたのは初老もどきの男性。これまた予想通り。平凡な方のようだ。


小日向こひなた綾香あやか。誘拐される覚えがないくらい平凡な、しがない会社員よ」

 最後に、ショートヘアの女性。

 自分で平凡だと言い張る人ほど怪しいとは言うけれど、この場合嘘は言ってなさそうだ。


「じゃあ、次は私たちかな?」


 続いてこちらも一通り自己紹介する。


「……ふむ、じゃあ後やるべきことは……情報交換だね。君らは誘拐される前、何をしていた?」

「「「学校です」」」


 3者口をそろえる。

 当然だろう。昨日は平日なのだから。


「…………あー、まあ、そうか。じゃあ、こちらも一通り説明しておいた方がいいかな」


 全員の状況をまとめると、こうだった。

 石動さん:職場からの帰宅途中。具体的には職場の最寄駅に向かう途中で記憶が途絶えている。

 神尾さん:仕事が終わり全員が帰った後、帰る前にひと眠りしていたらここにいた。

 小日向さん:帰宅途中に誰かがつけてきているような気がしたのでコンビニに駆け込んだが、記憶がここで途切れている。

 瀧田くん:俺たちと同じ。下校途中から先の記憶がない。


 一番具体的な証言は小日向さんだが、それでも犯人に結び付くような情報には程遠い。

 今この段階で、俺たちの中に誘拐犯が紛れ込んでいる可能性を考えるのは早計というヤツだろう。


「誰が犯人かは、この際どうでもいいでしょう。まずは脱出する算段を組まないと」

「そうだね。このままじゃ無断欠勤になっちゃうし」


 神尾さんがケータイを取り出すのに呼応して、石動さんたちも続く。


「今私たちが持ってるルールをそちらに転送するわ。データリンク起動して」


 ◇おしらせ◇

 違反事項一覧が更新されました!

・攻撃禁止プレイヤーが他プレイヤーに攻撃

・腕輪の解体を試みる



 平時評価一覧が更新されました!

・館内に配置されているトランプを集めることでポイントを獲得できます。

・集めたカードでポーカーの役を作ることで高得点が狙えます。

・カード所有は、およそ50秒間『身に着けている状態』を維持することで認められます。(つまり、拾って、いらないカードだった場合は、所有するまでもなく破棄できます)

・ツーペアはG・Bポイントを1000ずつ加算します。

・さそり座がふたご座を殺害した場合、通常の殺人点に加えてR・Bポイントを20万ずつ加算します。

・ゲームに参加していない(クリア、または死亡した)プレイヤーの携帯を破壊すると全ポイントを40万()()します。



 注意事項一覧が更新されました!

・星座ごとに用意された違反事項が存在します。注意してください。


「ちょこちょこ見かけてましたけど、やっぱり星座ってゲームに関係あるみたいですね?」

「……でしょうね。わざわざ『12人』誘拐してくるぐらいだもの」


 とはいえ、俺は自分が何座なのか、まだ把握できていない。

 だからと言って、だれか信頼できる人、というのもこの場にはいないから訊くこともできない。

 とりあえず、形だけを見るに、矢? いて座か? とは思うものの、確信がない。


「今後のことを考えると、自分がどの星座なのかは言わない方がよさそうだねー」

「――――そうだな」


『ふたご座を殺害する』なんて得点条件がある以上、自分の星座は迂闊に公表しない方が身のためだ。


「もう交換する情報もないわね。これを元に今後の対策を練りましょう。まず、このままいくとクエスト終了時、確実に1人が死んでしまうわ」


 いつの間にか主導権は神尾さんが握っていた。

 考えてみれば、社長なのだからまとめるのが得意なのかもしれない。委員長気質というのが適切だろう。悪く言えば、仕切り魔か。


「でも……クエストクリアできないと……最後に残った人、この後クエスト受けられなくなって殺人に走る――――かも」


 ましろが、おずおずと、物騒な、ただ……的を射た意見を述べた。


 カードで得られる点など、殺人に比べれば雀の涙ほどだ。俺たちは現状、安手しか把握できていないから、まだ判断するのは早計かもしれないが…………『殺人を超えるポイントがもらえる役』がそう簡単に作れるとは思えない。


 焦った人間が何をやらかすかを、俺はまだよく知らない。

 ただ、これだけは言える。

 少なくとも俺は――――顔も知らない誰かのために死んでやれるほど人間ができちゃいない。

 他人を自分の定規で図るべきではないだろう。だが、この場合は自分の定規しか判断材料はない。

 ここは、自分の定規で測りうる最悪の事態を考慮しよう。


「その可能性は否定できないわね。でも、このままだと確実に1人が死んでしまうわ。贅沢は言ってられない状態なの。これぐらい我慢してもらわないと、死ぬ可能性があるのよ」


 ここにきて、連中の真意がわかっていないことが問題となっていた。

 本気なら当然、クエストクリアと同時に殺される。


 だが、狂言だった場合は?

 ジョークで終わるはずのゲームで人死にが出ることになるかもしれない。


「くそ……確実に全員が助かる方法があればいいのにな…………」

「……ぁ……………る……け……は……」


 あんなに明るかった星もやけに真剣な表情で何かをブツブツと呟いていた。


「何かいい案ないか?」


 ブツブツ呟けるということは、それだけ悩める要素がある、ということなのだろう。


「んー……あるには、あるよ? けど、これは……まずいよ」

「何が?」

「確実性がないってこと、だよ。下手すると死んじゃう人が出るかも」


 リスクがある方法ってことか。でも、案として聞いておく価値は…………。


「論外ね。確実性のない方法で全員を危険にさらすのは馬鹿のすることよ」

「…………ですよね……」


 神尾さんの歯に衣着せぬ物言いにバッサリ斬られた星はしょぼくれてしまう。

 星の案……聞き出そうにも、聞き出しづらい空気になってしまった……。


「とりあえず、12人目が来たら、QRコードを読み込ませない。この方針を換える必要性はなさそうだけど、今後どうやって乗り越えるか、それが問題よ」

「この場にいる全員で協力し合うんじゃないんですか?」


 瀧田君が至極まっとうな意見を放り投げてくれるが、残念ながらそうはいかないのが今、この状況だ。


「ムリね。アナタだって、初対面同然の人間に背中を預けたりはできないでしょう?」


 60時間フルタイムで起き続け、警戒を怠らない状況を維持できない限り、全員同時に行動なんてできやしない。ということだ。

 当然無理にそんなことをしようものなら、精神的摩耗で疑心暗鬼に陥るヤツも出てくるだろう。疑心暗鬼になってるヤツがいるのではないかという猜疑心も生むかもしれない。

 つまるところ、団体行動のデメリットはあまりに大き過ぎるのだ。


「じゃあ、何人かで行動したい人だけ集まって……」

「それも駄目よ。寝首をかくために同行するのが出てくるわ」

「つまり、神尾さんは12人そろった時点で全員散らばるのがいい、と?」

「ええ。それがいいでしょう? お互いに」


 神尾さんの一言に、この場にいる全員が沈黙してしまう。

 俺はちらりと、今まで同行してきた2人を見やった。

 過酷な現実の中、まるで風前の灯のように儚げな少女と……確かな意思が灯っている大きな瞳が印象的な、天然な女の子。


 ――――俺はどうする? 2人を捨て置いて単独行動に出るか?


 奇妙な沈黙の中、思考だけが堂々巡りを続けて、数分が経過しただろうか。


「…………で……が……い?」

「ああ」

 

「――――?」

 何か、外から人の気配がした。


「じゃ、行くわよ」


 今度は、はっきり聞こえた。

 間違いなく誰かいる。2人以上の人間が。


「誰か来たみたいです」


 俺は沈黙を破る。皆も薄々ながらでも感づいていたのだろう。全員うなずく程度であったが反応を返してくれた。

 扉が――――ゆっくりと開かれる。


「……人いるじゃないですか」

「…………みたいだな」


 入ってきたのは、見覚えのある学生服…………って、ウチのじゃないか!

 その学生服姿の少女そのものにも、見覚えがあった。

 あんまり話したことはなかったが、確か同じクラス…………柳川、だったか。


「…………ッ!?」


 向こうもこっちに気づいたらしい。ひどく驚いた顔でこっちを睨むように見てきた。


「ま、何にせよ大丈夫そうだぜ。見ろよ。まだ7人だ」


 もう1人は大男。ラフな感じではあるが、どことなく底が知れない雰囲気を醸し出している。


「え、ええ……そうですね」

「ほれ、アレだ。サッサと読み込んじまいな」


 柳川は男に押し出されるように、QRコードの前まで誘導される。

 ただ、こっちのことが気になるのか、読み込む間もちらちらと横目で見てきていた。


「ふぃー、クリアっと。殺されずに済んでよかったぜー…………で、なんでみんな黙ってんの?」


 天衣無縫。この男にはそんな言葉が似合うかもしれないな、と考えつつ、誰も返答しようとしない状況から、自分が一歩前に進んで、状況の説明を行う。


「……………………なるほどね。つまるところ、12人目には我慢してもらおうってワケだ」

「それでも、殺されるよりはマシだと思います」

「そりゃそうだ。で、その後は全員解散だって? チーム組もうってヤツはいないのか?」


 言っては悪いが、俺個人としては、この人とチームを組みたいと思わない。

 だって、あからさまに軽薄そうだし、裏切りそうだし。


「ま、誰も見ず知らずのヤツに背中預けたくはないよな」


 全員が黙りこくっている中、彼は1人勝手に納得していた。


「とりあえず、全員生きて帰れればベストってことで、お互い頑張ろうぜ」


 応える人間はいない。


「反応悪ぃなあ…………」


 男はそのことに対して不満そうにつぶやく。

 だが勘弁してもらいたいものだ。何せこの状況だし。


「…………ま、いいや。隣失礼するぜ」


 男はわざわざ木箱を引っ張ってきて、俺の隣に腰を下ろす。


「あと3人…………どんな奴が来るかね?」

「知りませんよ。そんなこと」

「つれないねえ…………『かわいい女の子とかがいいぜ!』ぐらい言えばいいだろ?」

「1人で言っといてください」

「…………ホント、つれないねえ……」


 男は嘆息すると、何を思ったか立ち上がり、出口へと歩いていく。


「どこへ行くんです?」

「なに、お前らがそこまで警戒するんなら、俺がいる意味なんて無い。

 ……気にすんな。どうせ後で解散する予定だったんだろ?」


 男の言うことはある意味でもっともだ。

 どうせ後で解散するなら、今から動き始めて装備を整えるなりをした方が賢明というものだ。


「んじゃ、そゆことで」


 軽く手を振ると、男は軽快な動作で扉の向こうへと姿を消した。


「……………………」


 先ほどから柳川は1人、取り残されるような形でポツンと突っ立っていた。

 蚊帳の外、孤独、と言っていいだろう。

 まあ、当然か。こんな空気の中、自分を連れてきた男はどこかへ行ってしまったのだから。

 知り合っている程度で、俺も彼女とそこまで話したことがあるワケではない。


「…………んー?」


 そんな中、星の視線だけが忙しなく俺と柳川の間を行き来していた。

 正確には、俺と柳川の制服の胸ポケットに描かれてるエンブレムの間、か。


「(もしかして、知り合い?)」


 小声で耳打ちする星に、俺はうなずくことで応える。

 まあ、お互いチラチラ見合ってたし、同じ校章の制服着てたらそりゃ疑いもするよな。


「…………何こっち見て密談なんかしてるのよ?」


 どうやら見られていたらしい。別に隠しているワケではなかったが。

 近づいてくる彼女に、俺は面倒な感じになるな。と内心毒づきながら、対応する。


「別に、俺と柳川の関係が知り合いレベルだって、そう伝えてただけだ」


 関係ない。と突き放せばますます険悪な雰囲気になるのはわかりきっているので、素直に伝えることにする。

 隠すようなことでもないし。


「……ふうん…………仲いいのね。こんな状況で」


 今日の彼女の口から紡がれる言葉は妙にトゲトゲしていて、冷たい視線もオマケでついている。

 誰かが死ぬかもしれない状況――それも死ぬのは自分かもしれない――で知らない人間の仲間を作るのは自爆もいいところだと言いたいのだろう。


「敵は少ない方がいいだろ?」

「どうかしら。誰が裏切るかわからないわよ?」


 …………確かに。それはそうだ。

 仲間だと信頼させておいて、自分だけが助かろうという魂胆の人間がいるかもしれないのだから。


「そんな風に神経とがらせてる方が保たないんじゃないか?」

「何が?」

「精神力が」

「余計なお世話」

「さいですか」


 ハッキリ言って、こんな時は思考を放棄して、信じ切ってしまうのが一番楽なのは本当だ。

 当然、相応のリスクは付きまとうが。


「じゃあ、1人だけでクリアするつもりか?」

「ううん、協力してくれるっていうなら歓迎はするわ。同行は認めないけど」


 携帯を取り出して、暗に『データリンクのみの協力は受け付ける』と言う柳川。


「……お互い死にたくないし、協力もできると思うんだけどな…………」


 俺も携帯を取り出し、情報を交換する。


「甘ったれた考えね。この中に誘拐犯がいないとも限らないのよ」


 それはそうではあるが、俺はその可能性は低いと見ている。

 俺が誘拐犯で、こんなデスゲームじみたイベントをやらせようというのなら、高みの見物に徹するだろう。

 参加すれば大なり小なり、死の危険が伴ってしまうのだから。


「じゃあね。お互い生きてたらまた学校で」


 柳川が踵を返し、扉に手をかけようとした瞬間、ドアの方が逃げるように開いた。

 必然的にドアをつかもうとしたままの姿勢で固まる柳川。

 ドアのすぐ向こうに人がいたことに驚いている先方。


「ど、どうも……」

「あ、いえ、こちらこそ……」


 互いに面食らったようで、適当な言葉しか出てこない両者。


「QRコードの場所は、こちらでよろしいのでしょうか?」


 部屋に入ってきた人間は2人。両方とも男だ。

 一方は、優男風といった感じの痩身の男。いい人そうには見えるが……どうだろう。

 一方は、オッサンという言葉が似合いそうな、傲慢な雰囲気漂う中年の男。


「はい、こっちです……」


 外に出ようとしていた柳川は一転、とんぼ返りで部屋の奥へと戻される。

 なぜか、状況は柳川を案内役へと仕立てあげていた。


「僕は後でいいので、お先にどうぞ」


 年長の方を優先、という精神だろう。この状況でよくそんなことができるものだ。

 俺にはとてもじゃないが、そういうことはできないぞ……。


「おお、すまんね」


 オッサンがQRコードを読み込み終える。

 入れ替わりで優男が読み込みを始めようとしたその時――――。


《ハーイ! 12人の読み込みが終わったみたいだねー! それじゃ、罰ゲームスタート!》


 ファーストクエストの、終了宣言がなされた。

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