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螺子を巻け、螺子を巻け。
発条が切れるその時まで。
螺子山が潰れるその時まで。
巻いて巻いて巻き続けろ。
◇
俺は今開始時の部屋に戻っていた。
なんでも、ここに上の階につながる階段が隠されているらしい。
なし崩し的にとは言え、言われるがままになっている自分に疑問を抱いてはいなかった。
他に何も思い浮かばなかったからかもしれない。思い浮かばないから、身体を動かしているのかもしれない。
「…………くそ」
どこにも見つからなかった。
当然のごとく天井は調べた。壁も、机の裏も、ベッドの裏もだ。
しかし見つからなかった。万策尽きたと言っていい。
こういう時は…………
「叩けば解決!」
力技! そう、力技しかない!
脳みそ筋肉と言ってくれるな。どうやらアタリを引いたらしいから。
自分が叩いた部分だけ、妙にもろかった。
巧妙に偽装してあったため、始めは気づかなかったが、周りがコンクリ―トなのに対し、ここだけ石膏ボードのようだ。
「よっしゃ!」
わかってしまえばこっちのものだ。
部屋に置いてあった数少ない家具のひとつ、椅子を持って、殴りつける!
石膏ボードの壁に穴が開き、向こう側が見える。
階段らしい。ほぼ確実にアタリだ。
「とりゃ、たりゃ!」
もう一撃、もう一撃と椅子による攻撃を加えるたび、石膏ボードは崩れ、階段があらわになる。
「ふぃー……」
計10発ほどぶちかましてやったころには、壁も手で崩せるくらいにもろくなっていた。
いい汗をかかせてもらった。受験シーズンで運動不足気味だったしな。
しかし……ここに連れてきた連中はどうやって俺を監禁したんだ?
こんな壁作ってる余裕なかっただろうし…………。
「…………ま、いっか」
俺は机の引き出しの二重底構造、そしてその先にあるドアコントローラーに終ぞ気がつくことなく階段に足をかけた。
◇
薄暗い。
2階――地下9階だっけ?――に出てきた時の感想はそれだった。
部屋の方もたいがいのものだったが、こちらにはさらに陰鬱とした雰囲気が漂っている。
端が見えないこの廊下は、どこまでも続いているかのような錯覚さえ覚えさせる。
とりあえず、現時点で目的がわからないので、俺は携帯を開いた。
どうも新着メールがあるらしい。情報が少しでも欲しい俺はそれを開くことにした。
《此度は我々主催のゲーム『SHOW』に参加いただき、ありがとうございます。
ゲームの概要説明はすでに受けていらっしゃると思いますが、ここではより詳しいルールをお伝えさせていただきます。
まずは、下記URLよりファイルをダウンロード、起動してください》
URLは見たこともないような意味不明な文字の羅列だった。
恐らく独自回線で用意してあるのだろう。
とりあえず画面の誘導に従い、ファイルをダウンロード、起動する。
何かのインストーラーだったらしい。作業終了後、待ち受けに5つばかりアイコンが追加されていた。
それぞれ『ルール一覧』『地図』『クエスト掲示』『ポイント照会』『データリンク』とある。
俺はまずルール一覧を開くことにした。
無機質な待ち受けから、コミカルな画像つきのページへと画面が切り替わる。
~ルール説明~
▼1章・概要 ▼
はじめに
本ゲームはいわゆる『脱出ゲーム』ですが、ただ出口に辿り着けばいいというものではありません。
地下1階から地上に出る際、一定以上の『ポイント』を獲得する必要があります。
ポイントには『Red』『Green』『Blue』の3種類が用意されており、プレイヤーごとに初期の所持値、ノルマも異なります。
頑張って目標ポイントを獲得し、クリアを目指してください!
ポイントについて
・ポイントの獲得方法には大まかに3種類あります。
『クエスト』『譲渡』『平時評価』この3種です。
クエストに関しては次項で解説させていただきます。本項では『譲渡』『平時評価』について解説します。
・譲渡ですが、これは読んで字のごとく、プレイヤー間でポイントを受け渡しするというものです。
これは『ポイント照会』から行うことができます。
ただし、引き渡したポイントは元のポイントの80パーセントとなります。小数点以下は切り捨てられてしまうので、引き渡しを行うときはよく考えてからにしてください。
・平時評価とは、常に行われている評価で、自分の行動によりポイントが上下する、というものです。
基準はここには記しません。後程紹介します。
クエストについて
・時々、主催者側から『こんなことをやってほしい』という要望が出されます。
それをクエストオーナー(以下オーナー)が仲介し、距離、性格などを判断して適した人材に斡旋します。
この斡旋された要望のことを『クエスト』と呼びます。
・たとえば『○○を殺してほしい』などの要望が出されたとします。
それをオーナーが仲介して、××さんに斡旋します。
この時点で報酬として与えられるポイントが告示されます。
××さんがそれを受けると決定することで(クエスト掲示YES・NOの選択肢)クエストが成立します。
そして、××さんが○○さんを殺せれば依頼は成功となります。
・成功した場合、事前に通知されたポイントが付与され、場合によっては物品が授与されることもあります(武器の配置データなど)
殺せなかった場合(ゲーム終了時までに○○さんが生存した場合または赤の他人に殺された場合)は失敗となります。
基本的に失敗となってペナルティが課せられることはありませんが、クエストを受けれるのは1度に1個までです。
例のように期間指定の無いクエストを安易に受けてしまうと、ゲーム終了まで他のクエストが受けられなくなる可能性もあります。
クエスト選びは十分に注意して行うようにしてください。
・クエストは原則として、1人で行う必要はありません。他の誰かと協力してクエストを実行することもできます。
ただしその場合、協力者にポイントは入りません。ご了承ください。
携帯電話と腕輪について
・プレイヤー全員には腕輪が装着されています。
腕輪には毒液が満たされています。一滴でアフリカゾウ500体が殺せるほどの特濃タイプです。
皮膚からの吸収も行われるため、人間ならちょっと触っただけで死にます。
この自慢の毒液が入った腕輪を外すには、地上にいる係員の電子キーが必要になります。
頑丈には作ってありますが、絶対に無理に取り外そうとしないでください。
また、毒液が漏れ出た場合の責任は負いかねます。ご了承ください。
・ゲーム開始前にプレイヤー全員には携帯電話が配布されています。
携帯電話ではルールの確認、クエストの受注などを行う、いわばこのゲームにおけるプレイヤーの相方とも言える存在です。
携帯電話を紛失してもクリアは不可能ではありませんが、ゲームの進行が困難となるので紛失されることのないよう、お願いします。
他のプレイヤーに位置を気取られないよう、初期設定ではサイレントモードになっています。
着信音を鳴らしたい場合は設定を変えてください。
クリアについて
指定されたノルマポイントを獲得し、地下1階にあるエレベーターに向かいます。
このエレベーターには個人認証機能が存在します。
この機能でどのプレイヤーかを識別後、ポイント集計を行います。
集計の結果、条件を満たしていた場合のみ、エレベーターは上昇。地上へと向かいます。これがクリアです。
もし満たせていなかった場合は、エレベータは動きません。ゲームに戻り、ポイントを獲得してください。
追伸・エレベーターの積載限界は100キログラムです。あまり重いものは持ち込まないようにしてください。
▼2章・違反事項に関して ▼
はじめに
このゲームにはいくつか違反事項が存在します。
これらの行為を行うと、腕輪が爆発し、そのプレイヤーは毒液で死ぬことになります。
爆発は腕輪内部のみで行われる指向性のものです。周囲のプレイヤーに被害が及ぶことはありません。ご安心ください。
違反事項
以下の行為を行ったプレイヤーは残念なことに死んでいただくことが決まっております。ご了承ください。
・地下1階のエレベーターの破壊
・攻撃禁止プレイヤーへの攻撃
・???
▼3章・平時評価に関して ▼
以下の行為を行った場合、加点ないし減点されます。
・いて座がふたご座と行動を共にしている場合(半径10メートル以内に互いの腕輪がある場合)両者にBポイントを1秒ごとに1ずつ加点。
・スペードのクイーンを所持している人にはGポイントを400加点します。
・???
▼4章・その他注意事項▼
ゲームプレイの際には、以下の点にご注意ください。
・上記のとおり、クエストは1度に1つしか受けられません。
・ゲームの時間制限は60時間です。それを過ぎると強制終了となり、腕輪が爆発します。
・???
▼FAQ▼
Q.荷物を預かってほしいのですが……
A.各所に設置してある『荷物お預かりBOX』にお持ちください。ゲーム終了後、返還いたします。
ただし、武器等、一部持ち出し不可のものもあります。
Q.違反事項と平時評価とかの『???』って何?
A.現時点で閲覧不能なルールがあるということを示します。
QRコードより取得するか、他プレイヤーより転送してもらい、取得してください。
転送はデータリンクにて行えます。
Q.で、そのデータリンクって何よ?
A.他プレイヤーと情報を共有するシステムです。
共有する情報の範囲は自分で選択できます。
Q.QRコードってどこにある?
A.この施設全域に点在しています。詳しい場所までは言えませんが、がんばって探してください。
Q.エレベーターの個人認証って何するの?
A.腕輪で認証します。ですので何があっても腕輪だけは死んでも守ってください。
Q.人殺すって言うけど、大丈夫なのかよ!?
A.大丈夫です。ここで起こったことは全て犯罪にはなりません。
人を殺そうと、殺した死体をどうしようと、あなたの自由です。
…………長い。
読み終わるまでにかなりの時間がかかってしまった。
しかも、気分が悪くなるような演出が随所に設けられていた。
ブラックジョークにしてはタチが悪すぎるものが、だ。コミカルではあったが、恐ろしい毒が含まれていたと言えるだろう。
まったく、気分が悪くなる。
読み終えた俺はサッサと待ち受けに戻して、携帯をしまう。
その時だった。
耳障りな放送が、俺の耳を突いたのは。
《あーあー、マイクテスマイクテス。プレイヤーの皆さん聞こえるかな~?》
嫌でも聞こえるほどの音量を垂れ流してくれているのは俺の頭上のスピーカーだ。
《こっちの準備が整ったから、まず証拠を見せるよー。携帯を見てみて!》
指示に従い、しまったばかりの携帯を再び手に取る。
《全員、基本ソフトウェアはインストールできたみたいだね。そんじゃ、証拠を見せがてら、クエストを実際に受けてみよっか!》
クエスト、か。
誰かを殺せ、的なモノじゃないだろうな?
《今、キミたちの携帯はこっちで遠隔操作させてもらってるからね。ちゃんと待ち受けに戻ったかな?》
戻ったもなにも、今取り出したばっかであるが。
《さて、ここでクエスト掲示を選んでもらうよ。今回はこっちで操作するけど、次からは自分でやってね》
勝手にクエスト掲示を選び、開かれる。
コルク状の背景に、画鋲で留められた白い紙に見立てたグラフィックがいくつか表示される。
《白紙のがいくつかあるけど、これはキミらが受けられるクエストが4つ未満であることを意味してるんだ》
言い終えると、こちらの心の準備もお構いなしに手続きが進められてゆく。
《これがクエスト詳細、受注画面。ここで『受注する』を選べば依頼内容の再確認と受注確認が行われるよ。ここで、決定すればクエストの受注は完了だ!》
内容を見る暇もなく受注され、待ち受けに戻される。
結局、流れの確認はできたものの、肝心の依頼が全く確認できなかった。
《じゃ、クエスト説明しようか。さっきのじゃ見れなかった人がほとんどでしょ?》
向こうにも自覚はあったらしい。クエストの説明をしてくれる。
《じゃあ、もう1度『クエスト掲示』を選んでみて。あ、ここからはボクが操作したりしないから、自分でやってね》
やるだけ急ぎでやって、後は放置かよ。何があってもこのクエスト受けさせたかったんだな。
あきれていても仕方がないので、クエスト掲示に選択範囲を合わせる。
クエスト掲示でなく、『クエスト確認』と表示が変わっていた。
《さあ、クエスト確認画面は開けたかな? 今回はみんなに同じ内容の依頼を受けてもらったよ。がんばってね!》
依頼内容はこうだった。
依頼名:ファーストクエスト
目的 :特定の位置にあるQRコードを他のプレイヤーよりも早く読み込む。
備考1:クエスト中は、QRコードの位置が地図上に表示される。
備考2:この依頼に限り、ペナルティが存在する。他の11プレイヤーよりも遅れて読み込みを行った場合(1番最後にQRコードを読み込んだ場合)その人物は殺される。
――――やりやがった。連中、本気かもしれん。
とにかく、急いで指定された地点に向かいたいところなのだが…………現在位置がまったく見当もつかない。
地道にマッピングして、まずは現在位置を特定しないと、近いのか遠いのかすらわからない。
「ま、ぼちぼちいくか」




