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聖獣の保父さん  作者: 結城大輔
第一章 俺は君と出会う
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第十話 虹の橋

第一章のスタートです。

これからもよろしくお願いします。


 透き通るような青空。見渡す限りの草原。


 まるで夢のようなこの場所で、俺と大吾郎は一緒に遊んでいる。


 俺がボールを投げると、大吾郎は一目散に駆け出し、ボールを銜えて戻ってくる。


 その尻尾は大きく振られていて、大吾郎も楽しそうだ。


 その様子に、俺も嬉しくなってほかの人には向けない、満面の笑みを浮かべる。




 大吾郎は賢く元気で、空気の読める頭のいい犬だった。


 俺が泣いていればすぐに近寄ってきて慰め、俺が喜んでいれば、尻尾を大きく振りながら一緒に喜び、俺が怒っていれば、全身を使って慰めてくれた。


 俺と大吾郎は、子供のころからいつも一緒だった。


 子供のころ、俺はいじめられていた、あの頃の自分は感情をあらわにすることが苦手で、いつも無表情だった。うれしい時も、悲しい時も、寂しい時も、怒っているときも。


 今思えば、あの頃の自分は子供らしくなく、気味の悪い子供だったのだと思う。


(みんな、僕とは違う生き物なんだ。だから、僕は苛められるんだ)


 でも、あの時の自分は、ほかの子供たちと違うことがわからず、何で苛められるか理由がわからず、周りにいるすべての人たちが恐ろしい別の生き物に見え、ふさぎ込んでいた。


 そんなときに、自分の前に現れたのが、大吾郎だった。


 様子のおかしい俺をどうしたらいいのかわからず、友人から犬を飼えばいいとアドバイスを受けた母が、ブリーダーをやっている友人からもらってきた子犬が、大吾郎だった。


 初めて見る子犬に戸惑っていた俺だったが、大吾郎はそんな俺のことなど気にせずに、暴れまわった。


 大人になった大吾郎は頭のいい犬だったが、子供のころの大吾郎は、やんちゃで無邪気な破壊神だった。


 当然のことながら、その被害に一番遭ったのは、幼いころの俺だった。


 元気に暴走する大吾郎を追いかけ、ぬいぐるみに噛みつく大吾郎を止めようとしていつの間にか噛まれたり、散歩のときには元気に暴走する大吾郎に引きずられ迷子になったり、田んぼに飛び込もうとする大吾郎に引きずられて頭からダイブしたり。


 へこんだりする暇もないほど忙しく、今思い返してみれば、充実した日々だった。その頃の俺は、自分に降りかかる厄災という名の大吾郎のおかげで、そんなことを思う暇などなかったが。




 時が経つにつれ、やんちゃだった大吾郎も大人になり、いつの間にか暴走することもなくなった。


 俺が本を読んでいれば、いつの間にか俺の近くに寄ってきてもたれかかるように眠っていたり、新しく家族になった子猫の鬼平をまるで母猫のように甲斐甲斐しく世話をしたりしていた。


 大吾郎の暴走に耐えられるようにいつの間にか鍛えられていた俺だったが、そんな大吾郎の行動がうれしくもあり、寂しくもあった。




 俺も大吾郎の成長と一緒に成長していき、中学生、高校生になっていった。


 高校生になれば、友人と呼べるような存在もでき、大吾郎と遊べる時間も少しずつ減っていってしまったのだが、大吾郎と過ごす時間が俺にとって何物にも代えがたい大切な時間だった。


 朝夕の散歩、お風呂、トリミングは俺の仕事だったし、気が付いた時はいつも一緒だった。


 俺にとって、大吾郎と過ごす日々はかけがえのない日々だった。




 ここ二三日元気のなかった大吾郎が、俺が高校から帰ってくるなり、嬉しそうに尻尾を振って体当たりしてきたのだった。まるで、俺が返ってくるのを待ちきれなかったとでもいうように。


 俺を押し倒し、顔を舐めまわす大吾郎。俺はその様子を見て単純に喜んだ。大吾郎は何時寿命が来てもおかしくない年齢だったから。


 その後も、俺に体をこすりつけたり、気を引こうと甘噛みしたり。まるで子犬の頃に戻ったかのようだった。俺も嬉しくて大吾郎を転ばしたり、抱き上げたり、一緒にはしゃぎまくった。


 夜も更け、寝ようと自分の部屋に戻ろうとした時、大吾郎は俺のパジャマの裾を噛み、一緒に寝たそうに見上げた。


 俺は頷き、大吾郎と一緒に布団に入った。


 大吾郎の頭をやさしくなでると、気持ちよさそうに目を細める。


 何時の間にか大人になっていたのに、今日の大吾郎は子犬の頃と一緒だね、そうつぶやくと、大吾郎は尻尾を揺らす。


 俺が「お休み」というと、大吾郎は大きな声で「ワン!」と鳴き、目を閉じた。


 朝、起きた時、大吾郎はすでに冷たくなっていた。


 信じられなくて何度も何度も体を揺さぶったが、大吾郎が目を覚ますことはなかった。


 “親友”が死んだ。


 我を忘れるほど号泣した。




 遊び疲れた俺たちは、目的地を決めずに歩き出した。


 心地よい風が俺と大吾郎の間を駆け抜ける。


「大吾郎」


 返事はない。


「楽しかったか」


 返事はなかったが、ふさふさの尻尾が足に触れてきた。


「うれしかったか?」


 大吾郎が体をこすりつけてくる。


「待たせて、悪かった。これから、ずっと一緒だ」


 返事はなかったが、大吾郎は突然走り出した。


 慌てて後を追いかけるが、追いつけない。


 どれくらい追いかけていたのだろう。大吾郎が立ち止ってこっちを振り返ったので、俺も足を止めた。


 そして“それ”に気が付き呆然とした。


 “それ”は“虹の橋”。


 愛犬が愛しい飼い主が迎えに来るその時まで過ごす場所。


 そこは年老いた体が元気になり、ご飯も水もたくさんあり、温かくてたくさんの仲間もいる。


 ただ、そこには彼らのご主人様だけがいない。


 いつか、ご主人様が迎えに来て、愛犬と一緒にわたる場所。その先には、暖かで、幸せな日々が続く天国へつながる橋。


 そこに大吾郎がたっている。


 俺はためらうことなく、その端に向け歩き出そうとするが、足が動かない。


 全身全霊力を込めて歩こうとするが、足が動かない。


 そんな俺の様子を、大吾郎は悲しそうに、寂しそうに、そして嬉しそうにみている。


 泣きたくなった。俺は無性に泣きたくなった。


 また、また大吾郎を一人にしてしまう。


 だが、泣けなかった。泣いたら、大吾郎が不安になってしまう。


 こんな幸せな、天国のような場所にいるのに、俺のせいで悲しませてしまう。


 意識が遠くなってきていた。真っ白な霞が俺の意識を覆う。


 一言だけ。一言だけ、大吾郎に聞きたいことがある。


 声を出したら泣いてしまうかもしれない。でも、一言だけ。この一言だけ。


「大吾郎。幸せだったか?」


 不安だった。最後の時は一緒に過ごすことができたが、今までいっぱい迷惑をかけてしまった。悲しませたこともあっただろう、苦しませてしまったこともあっただろう。


 大吾郎が死んでしまったあの時、俺は後悔した。俺なんかと出会わなければ、もっと幸せに過ごせたのではないか。幸せな家庭で過ごせたのではないか。


 なのに、なのに大吾郎は、



 わん!



 嬉しそうに幸せそうに、尻尾を振りながら答えてくれた。


 ああ。よかった。


 大吾郎は幸せだったのか。俺は大吾郎を幸せにできたのか。


 世界で一番大切な親友を。


 大吾郎。もう少しだけ、もう少しだけ待っていてくれ。


 絶対に、絶対に迎えに来るから。


 それまで、もう少しだけ待っていてくれ。



 愛してるよ、大吾郎。


 嬉しそうに尻尾を振る大吾郎の姿を目に焼き付けながら、意識を手放した。



この話に使われている『虹の橋』は有名?な詩です。

私の大好きな詩です。詳細は↓で書かれています。


http://homepage2.nifty.com/AWS~dogs-cats/newpage50.html


悲しい話ですが、亡くなった犬たちが最後には幸せになれる。そこに救いがあると思います。


湿っぽい話になってしまいましたが、これからは楽しいもふもふ話を書いていきます。よろしくお願いします。


ご感想をお待ちしています。

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