一枚のキヲク
私は漫画家をしている。
かれこれ3年は連載をしていない。
別に書いていないわけではないのだ。書けない事もままあるが、書いてはいる。書かなくなったり、書く努力もしなくなったらもう漫画家ではいられなくなるから、それだけはできない。
なんとか書き上げたものを編集社に持って行くこともあったが、つき返されてしまっていた。もう漫画家ではいられないのだろうか、と何度思ったことだろう。
今は、以前連載していた頃の蓄えでなんとかやっている。
ある日、部屋のあまりの汚さに気がついた。部屋の汚れ具合は心の乱れ具合と言わんばかりに汚れきっていた。さすがにこれは片付けようという気にもなった。丁度一息つきたかったところだ。一日でも二日でもかけてきれいにしよう。そう思った。
片付けていると布団のわきからヒビのはいったケースに入ったCD-Rが一枚出てきた。
今時CD-Rか…。DVDなりブルーレイが主流の今時、CD-Rを見ることはとんとなくなっていた。
――何が入っているんだい?
埃のかぶったパソコンのCDトレイに入れて再生してみる。
そこにはデータが容量ぎりぎりに詰まっていた。見てみると、ファンタジーものの漫画だった。
――思い出した。
私がまだ十代の頃に書いて、そのまま仕舞っておいたものだった。
よく読んでみる。
――おもしろいじゃないか。
私にはこんなにおもしろいものが書ける。今ではもうこんなに純粋な物語は紡げないだろうが、私には書く事ができていたのだ。
自信になった。これで十分だ。
掃除が途中であることも忘れてデスクに向かった。一心不乱に書いた。このネームがあがったら、また持ち込んでみよう。きっとまた連載を取れる気がする。いや、取れなくてもいい。CD-Rに残されていたあの頃の私が蘇っただけでも十分だ。
自身に満ちていた私が、今はCD-Rの外にいる。