チョークぶつけられて異世界へ 〜転移先は魔王城、スキル〈チョーク投げ〉で魔王にぶつけて説教したら何故か魔王に任命されました〜
いつもの教室、いつもの授業風景。
いつもの日常が、いつものように繰り返されていく。
そして今も、フサフサの髪の毛が実はカツラである国語の先生の授業が滞りなく進んでいる。
───カッ、カカッ、カッ。
黒板を叩くチョークの音が、静かな教室に響き渡る。
その耳に心地良い音が、今日も貝塚ジョウを深い眠りへと誘っていく⋯⋯。
(もう、ダメ⋯⋯)
「貝塚、寝るなぁーッ!」
先生の怒号と共に、細くて硬くて軽い何かが額に直撃した。
───カァーン。
「あで⋯⋯っあ?!」
「ちょ、貝塚君?!」
不安定で眠りこけていた罰か。
チョークをぶつけられたオレはバランスを崩してしまい、そのまま後ろに倒れてしまう。
視界は黒板から天井へと流れ、後ろの席の女子のスカートへ⋯⋯。
───ごっちんっ!
「!?!!! ⋯⋯⋯⋯」
「ちょ⋯⋯。貝⋯⋯、大丈⋯?!」
「⋯い、しっか⋯、塚⋯!」
薄れゆく意識、遠ざかる周囲の声。
それが、オレが感じた最後の音だった。
◆ ◆ ◆
「⋯⋯zzZ」
「⋯⋯、⋯きろ」
「⋯⋯んん、むにゃむにゃ⋯⋯」
「起きんか、この大馬鹿者ぉっ!」
「あだぁっ?!」
強烈な一撃を頭に受け、オレははっと目覚めた。
その目の前の光景に、オレは絶句した。
「⋯⋯は?」
いかにもな暗い雰囲気の部屋。
真っ赤のカーペットに豪奢な椅子⋯⋯いや玉座か? そこにどっしりと座ってこちらを睨みつける、黒と赤の鎧に身を包んだ美少女。
「綺麗だ⋯⋯」
思わずそう漏らしてしまうほどの美貌。漆黒の長髪に深紅の角が見事に映える。
その威厳、その美しさに、オレは思わず見とれていた。
「こらっ! 魔王様に向かって何という視線を向けるのだ、この人間め!」
「痛っ! 痛い、痛いって!」
豚頭と牛頭にボコスカと殴られる。
「っていうかこれ、どういう状況だよ!?」
「む?」
「おいあんた! 確か魔王と言ったか? 初対面に対して何を⋯ぶふぅっ!」
「おいクソ人間! てめえ、魔王様に向かってまた!」
「魔王様! もう、こいつやっちゃいましょうぜ!」
「そうだな」
魔王と呼ばれた少女は、退屈そうに目を閉じた。
「処刑するか」
「は⋯⋯?」
───どくん。
今、アイツ何て言った?
処刑? オレを?
こんな何も分からない状況の中、何も知らされずに死ぬのか、オレは⋯⋯?
「⋯⋯くそっ!」
思わず唇から血が流れる。
このまま⋯⋯。
このまま処刑されてたまるかぁっ!
───ピコン。
───スキル〈チョーク投げ〉を獲得しました。
「ちょ⋯⋯、ちょっと待てやゴラァッ!」
「「うおおおっ?!」」
オレは豚頭と牛頭を振りほどき、どこからとも無くチョークを取り出して2人の額にぶつけた。
───カカァーン。
「ぶごっ?!」
「ぶもぉっ!」
2人は床に倒れ、激しくのたうち回った。
その光景を見た魔王はすっくと立ち上がり、玉座の背後にある巨大な剣を取ろうと手を伸ばした。
「動くなっ!」
───カァーン。
「あだっ?! ⋯⋯っつぅ」
正直何が何だかよく分かっていないオレは今、先生にチョークをぶつけられた時の記憶が脳内にフラッシュバックしていた。
その時の感覚を頼りに、しかしてヤケクソ気味に魔王に詰め寄っていった。
「おい魔王っ!」
「っ!」
「こっちの話もよく聞かないで、いきなり殺そうとするんじゃない! 理不尽過ぎるだろ!」
「な、何を訳の分からない事を⋯⋯っ!」
「そ、そうですよ、人間さんっ!」
「あぁ?!」
突然後ろから、ふわっとしてて甘ったるい声が耳に届いた。
振り返ってみると、そこには両手が鳥の羽のようになっている少女が立っていて、彼女は両羽をまるでお願いをするように合わせていた。
「こ、この魔王城に突然現れたのはあなたですよ? それを⋯⋯」
「うるさいっ!」
───カァーン。
「あいったぁっ! な、何をするんですかぁ?!」
「今は魔王とお話中だ! 邪魔しないでもらいたい!」
「ふ、ふえぇぇ⋯⋯!」
「良いか魔王! あんたはもっと相手の声に耳を傾けるべきだ」
「な⋯⋯?!」
「あんたも王なら、あんたを慕ってついてきた配下たちの声を聞いてるだろ? それを、捕らえた相手にもしろって言ってるんだ」
「な、何を言って⋯⋯!」
「相手の話も聞かずに殺そうとするなって言ってるんだっ!」
「っ!」
そう。
今オレが怒っている理由は、つまるところそこなのだ。
もちろん、この訳の分からない状況でボコスカ殴られた事も理由のひとつではあるが。
せめて、オレの弁明も聞いてくれれば話はもう少し違っていたはずだ。
「話を聞くっていう事は、相手の目線に立ち、相手の立場になって物事を考えながら理解を深めていくって事なんだ。話も聞かず、一方的に排除しようとするその考えは、決して上に立つ者がやっていい事じゃない」
「⋯⋯」
「分かったか? 分かったなら、少しはオレの話も聞いて⋯⋯って、聞いてる? もしもーし?」
「⋯⋯⋯⋯」
俯いたまま、魔王は黙っていた。
部屋全体が、気づけばシーンと静まり返っていた。
ふと魔王の配下の方へと目を向けると、配下たちは揃ってぷいっとそっぽを向いた。
(な、何だ?)
「⋯⋯⋯ぅ」
「ん⋯⋯?」
ようやく漏れ出る魔王の声。
そして⋯⋯。
「うるさいっ、うるさいうるさーーーいっ!」
「うおぉっ?!」
魔王はいきなり大声でわんわんと泣き叫び始めた。
「わたしだって、一生懸命なんだぞっ! 先代魔王が病気で急死して、兄上たちも行方不明でっ! それでもっ、父上の配下たちの為になりたくもなかった魔王を継いでっ! 一生懸命、い、いんしょうけんめいに、がんばってきてたのにぃっ!」
自身の抱えてきたもの全てを吐き出すように、魔王は涙を溢れさせながら想いの全てを吐露していった。
特に最後の方はぐちゃぐちゃで、ほとんど聞き取れなかった。
ちらりと後ろを見ると、魔王配下の者たちはぐすりと思わず涙ぐむ者、『なーかした、なーかした』と手拍子しながら囃し立てる者など様々なリアクションを取っていた。
鳥の手をした女の子は、オロオロと右往左往しながら両手をパタパタと忙しなく上下に動かす始末。
もうどうしたら良いんだ、この状況⋯⋯。
「な、なぁ魔王様? そろそろ、この辺で泣き止んで⋯⋯」
「⋯⋯もう、やめる⋯⋯」
「へ?」
「魔王、辞める!」
「ちょっ?!」
突然何を言い出すんだ、この魔王は?!
魔王は真っ赤に目を腫らしながら、玉座の後ろから魔剣を引き抜き、頭上に高々と掲げ、そして言い放った。
「私、エクセラ・ダークフェルは魔王の座を返上し、そこの人間を次期魔王に任命する!」
「は⋯⋯?!」
「「「は?」」」
『はああああああああああああああああ?!!!!』
突然の魔王辞職宣言。
そして、これまた突然の次期魔王任命に、オレと配下の全員の悲鳴が魔王城全体にこだました。
え?
次期魔王?
「そこまで説教するんだったら、アンタが魔王をやってみなさいよっ!」
「そんな無茶苦茶なーーー!」
こうして。
突然異世界へと飛ばされたオレは、突然魔王へと任命される事となった。
前途多難過ぎて未来は見えず。
果たして、オレは魔王として上手くやって行けるのだろうか⋯⋯?




