第五話 ~不運の剣士、木刀のドクマ。~
「けほっ、けほっ。まったくおヌシは、先祖代々つたわるワシの貴重な書物を……。」
部屋中の埃に咳き込みながら、ユウリがぶつくさと文句を言っている。
オレたちは、オレの『一刀両断』によって訓練場内に散らばった、本棚の残骸を片付けていた。
「だから悪かったって、さっきから何度も謝ってるだろ?」
そう言ってオレは、親指で自分を指しながらユウリに訊く。
「それよりどうよ、オレの『一刀両断』!ユウリたんが言ってた剣士の極致とやらに、一瞬でたどり着いて見せたぜ、オレは!」
嬉々としたオレの表情とは裏腹に、ユウリは黙ったまま、両断された訓練用人形を拾い上げた。
「……聞くが、おヌシが斬ろうとしたのは、この人形だけか?」
ユウリの質問に、オレは気まずく答える。
「そうだけど……。」
「人形だけを斬るつもりが、後ろの本棚もろともぶった斬りおったのか。確かに威力は申し分ないが──。」
ユウリは一度目を閉じると、オレに両断された本棚の、鮮やかな切り口を見ながら呟いた。
「おヌシを召喚した主として、ワシは正直よろこんで良いものか、内心複雑な気分じゃのう。」
「……。」
ユウリの召喚者としての、オレの能力のひとつだろうか?
この美少女妖狐の杞憂が、なんとなくわかる気がする。
たしかにオレは、大きな力を手に入れたのかもしれない。
だが、このオレの『一刀両断』が、もしも──
罪もない人たちを巻き添えにしたら。
「わかってるよ、ユウリたん。『一刀両断』は、戦闘以外では使わない。それと、この力を上手くコントロールできるように、今後は努めるよ。それでいいだろ?」
不安げなユウリをなぐさめるように、オレは明るく言ってみせた。
ぴとっ。
不意に訓練場の隅に立てかけていた木刀が、オレの手に吸い込まれた。
オレの手もまた、木刀を勝手に握り直す。
「ん?なんだ、コレ?」
……いや。
まさか、これって──
木刀の握り手部分に、セロハンテープで貼られた『激安!在庫処分品!』と書かれたタグがある。
オレは、そのタグの裏を静かにめくった。
そこには小さな文字で、異世界の言葉が書いてある。
ユウリの召喚者としての、オレの能力のひとつだろうか?
見たこともないはずの文章が、すらすらと読むことができた。
「『当商品はあくまで観賞用であり、呪われております。装備した際のあらゆる損害は保証いたしかねますので、あらかじめご了承ください』……ユウリたん?」
木刀の注意書きを音読したオレは、ゆっくりとユウリの方を見る。
「さ〜てと!ドクマ!腹がへったじゃろう!?今晩の夕飯は、ワシが腕によりをかけてつくってやるからのう!おヌシ、なにか好きな食べ物はあるかの〜!?」
ごまかすような大声で訓練場を去ろうとする妖狐のしっぽを、オレは力強くつかんだ。
「……おい。コラ。」
ユウリは、ふぎゃっ!?と小さな悲鳴を上げたあと。
……ふー、ふーふふー!
にらむオレから目を背け、とぼけたように、明らかに吹けてない口笛を吹いている。
……。
要するにオレは、召喚一日目にして、呪われた木刀をつかまされたわけだ。
はは。
はっはっはっはっは!!
木刀の呪いか、単なるオレの絶望の失笑か。
「き、気を確かに持て!ドクマ!!」
とつぜん笑いだしたオレに、あわてふためくユウリ。
「ユウリたん、考えてもみろ!買ったばっかのゲームで、レベル1で、最初の村で、真っ先に装備したのが、ダガーでも、ショートソードでもなく、呪いの武器だぞ!?前代未聞、いや前人未踏の経験だなあ、オイ!!?」
ユウリにとっては意味のわからないことを、笑いながら言いつづけるオレ。
うええええええ……!
美少女妖狐は地面に突っ伏し、後悔にむせび泣く。
安さに釣られて品定めをおこたった購入者の、典型的な末路。
その哀れな姿を見て、オレはこう思った。
──泣きたいのは、オレだよ。




