第四話 〜覚醒、『一刀両断』。〜
「どうじゃ?こんな見目麗しい妖狐に同伴できるなんぞ、光栄の極みじゃろう!」
力説を終えドヤ顔のユウリに、オレは当然の疑問を投げかけた。
「それ……オレがいないとダメなのか?」
オレの冷めた反応に、肩透かしを食らった様子のユウリ。
「ど、どういう意味じゃ?」
そのまま、オレは言葉を続ける。
「たしかにオレは、機械にはある程度の知識がある。だけど、ここは異世界だろ?外に出れば、モンスターだっているんじゃないか?」
「それは、まあそうじゃが……。」
「妖狐のおまえがどれだけ強いのかは知らないけど、これからたくさんのモンスターと戦闘になるとしたら、素人のオレは、かえって足手まといになる。ユウリたんは、そんなオレを守ってくれるのか?」
異世界には当然、異世界の怪物たちがいる。
ここに来て、オレは不安を一気に噴出させた。
そんなオレに対し、ユウリは。
──ふっ。
自信に満ちた含み笑いと共に、妖狐はオレに語りかける。
「ドクマ、あまりワシを甘くみるでないぞ。二百年という長い歳月で鍛え上げられた、このワシの数多の陰陽術。有象無象のモンスター共など、とうてい足元にも及ばぬ。」
妖狐ユウリの強者の余裕に、おもわずオレは、ごくりと息をのんだ。
200年──人間のオレに、その重みは想像もつかない。
「しかしまあ、おヌシが心配するのも無理はない。ここは人里離れた山の中じゃ。山を下る道中、モンスターとの戦闘は避けられぬところじゃろう──場所を変えるぞ、ドクマ。」
そう言って、ユウリは試練の間を出ようとする。
「おい、どこ行くんだよ?」
あわてたオレの声に、ユウリは振り返った。
「決まっておろう?おヌシのための『訓練場』じゃ。」
「ふむ、『一刀両断』か。剣士としての、ひとつの極致といえるな。」
「ああ。ひとまずオレは、そいつを会得したいと思ってる。」
「無理じゃな。」
ユウリと一緒に訓練用の部屋に来たオレは、訓練用の木製の人形を前に、訓練用の木刀を持っていた。
「あの、ユウリたん?」
「……なんじゃ?」
腕を組んで見守るユウリに、オレは木刀を構えたまま質問する。
「鋼鉄の剣、とかっていうのは?」
なんなら、銅の剣でもいいんだが。
「剣士の家系でもないワシの家に、そんな野蛮な代物があるわけなかろう……その棒っきれでガマンせい。」
「……。」
「よいかドクマ、心身を一体化せよ!心を落ち着かせ、目の前の敵に集中しろ!精神を研ぎ澄まし、全身全霊の一撃を繰り出すのじゃ!」
剣士でもないクセに、なんだかそれっぽい言葉を並べる妖狐。
オレはそれに耳を貸さず、静かに眼を閉じる。
……。
ふと脳裏に、あの時──死んだ瞬間の記憶がよぎる。
こぼれたおでんのコンニャクの熱さであやふやになっていた、最初で最期の──『一刀両断』の体験。
自分の中に眠る、あの時の感覚を掘り起こす。
オレの首に、突如として飛んできた糸ノコ。
糸ノコで切り離された、オレの頭と胴体。
そこに残るのは、分断された、オレだった二つの物体。
オレという元々ひとつだったものが、ふたつになる。
……?
オレが、増える……?
一刀両断とは、破壊ではなく……創造?
「……。」
オレは、イメージする。
例えるなら、分裂する細胞。
倒しても倒しても、増殖するスライム。
無限に増えてゆく敵モンスター。
その困難を超えた先にあるのは、大量の経験値という栄光──レベルアップする、新たな自分。
……もしかすると。
一刀両断とは。
ただ敵を倒すのではなく。
オレ自身の未来を創り出す力。
それが。
それこそが。
一刀両断の、「極意」──?
「はァッ──!!」
オレは、目を見開くと同時に。
構えた木刀を、訓練用人形へと解き放った。
古めかしい木製の刀が一瞬、研いだばかりの日本刀のように煌めいた気がした。
「──なっ……!!?」
ユウリの、驚愕の表情。
オレの木刀の、木刀らしからぬ鋭さの剣閃を浴びた人形は斜めに切断され、それどころか。
人形の背後にあった大きな本棚までもが横方向に真っ二つとなり──斜めに崩れ落ちていく!
……ズーーーン!!
土煙のように巻き上がる埃と、本棚ごと切断された大量の本のページが、訓練場の宙を舞う。
「ハァ、ハァ……。へへっ……。」
たぶん、目の前の光景に一番驚くべきなのは、オレ本人なんだろうが。
胸の中に、この結果への謎の確信が、今のオレにはあった。
『一刀両断』──安済独真、此処に至れり!




