プロローグ 〜レトロゲーマー、死す。〜
オレの名前は安済独真。ファミコンとかスーファミとかの昔のゲーム、いわゆるレトロゲームのオタクだ。
つねに最新トレンドを追い続ける現代人たち──美麗ムービーやオーケストラ音楽をふんだんに用いた、豪華絢爛なゲームを追い続ける周囲を尻目に。
オレは真っ暗な自室のなかで、ドット絵中心の2Dグラフィックや独特な電子音ミュージックといった、新作ゲームにはないレトロゲーム独自の魅力を日々堪能していた。
とくにお気に入りのジャンルは、レトロRPG。
人間、エルフ、スライム、ゴブリン、ドラゴン、天使、悪魔、魔王、神……それらが織り成す、現代の倫理感では考えられないような、昔ならではのブッ飛んだストーリー展開。
そんな世界で、ひとたびモンスターとの戦闘に入れば──そこは死地。
モンスターの何気ない通常攻撃で、HPが半分持っていかれるのはザラ。防御力の低い魔法キャラなら即死亡。
死んだ仲間の蘇生には、莫大なMPの魔法や貴重なアイテムが必要となる。
そして、不運にもオレのキャラたちが全滅した場合は──GAMEOVER。
セーブポイントまで巻き戻され、経験値も所持金も、きれいさっぱり元通りの再スタートという情け容赦の無さ。
そんなひりつくようなレトロRPGのバトルの中で、オレが主に愛用する攻撃法は「即死魔法」。
殺される前に殺すという、シンプルだが効率的な戦術。その特化型。
もちろん、すべてのモンスターに有効ってわけじゃない。ゾンビとか幽霊とか、元々死んでるアンデッドの類いには通じない。
そこで──「一刀両断」。
通常モンスターはおろか、アンデッドモンスターをも真っ二つ!物理的に再起不能にする即死攻撃。
魔法が効かないボスであっても、設定の穴として、一刀両断が効いてしまうことだってある。
「こんなのが最初から使えたら、ラクなんだけどな……。」
一刀両断で消えていく敵モンスターを見て、オレはつくづく思う。
即死魔法だけなら、せいぜいゲーム中盤あたりで手に入る。だが一刀両断となると、ストーリー終盤、へたをすればクリア後の隠し武器なんてゲームもある。
敵を一刀両断できる頃には、失敗率も考えると、通常攻撃や攻撃魔法の単純なダメージで倒した方が、はるかに効率も良かったりするのだ。
「一刀両断、か……。」
序盤で使うには強すぎて、ようやく手に入る終盤の頃には、せいぜいザコモンスター退治の稼ぎ道具。
「カッコいいけど、切ないな。」
オレは小腹がすいて、コンビニへと出掛ける。
コンビニでおでんを買って、その帰り道。
ヴイイイイイイイイン!!
低木の枝を、糸ノコで切る作業員の姿。
「……。」
オレはふと立ち止まり、その光景を見る。
糸ノコ……チェーンソーみたいなもんか。
これもある意味、一刀両断──だよな?
「ごめんねえ!!うるさいよね!?」
足を止めたオレを勘違いして、作業員の人が大声で謝る。
「いえ!大変ですね!がんばってください!」
オレはかえって迷惑をかけてしまうと思い、その場を立ち去ろうとした。
きゅるきゅるきゅるきゅる……
……? 機械の故障だろうか?
糸ノコの音が徐々に弱くなる。
「あれっ?どうしたっ?」
作業員が、糸ノコのエンジンを何度もかけ直す。
──ギュルルルルルルルッ!!
唐突に回転を再開した糸ノコ。
それと同時に。
円盤状のカッターが外れ、それがオレの首へと手裏剣のように飛んできた。
「──え?」
オレが最後に感じたのは痛みではなく、おでんのコンニャクの熱さだった。
こうしてオレ、レトロゲーマー安済独真の一生は、糸ノコの不慮の事故、首の一刀両断により……幕を閉じた。




