あの日
ーーピーポーピーポー
救急車のサイレンが聞こえる。
六月が呼んでくれたんだ。
意識が遠のくのを感じる。
「五月、五月、もう大丈夫だから」
な、何で……。
「六月から連絡が来たから急いで戻ってきたんだ」
何で、戻ってくんのよ。
「心配しなくて大丈夫だから、俺がついてるから」
ついてなくていいの。
ついてなくていい。
だから、お願い。
早く、運命を戻さなきゃ。
だから。
・
・
・
「よかった、目が覚めて」
「六月……」
目が覚めた私の目の前には、六月がいた。
四月は、三月と一緒?
「俺のせいで、本当にごめん」
「何で、六月が謝るの?」
「五月を刺した子なんだけど」
「もしかして、さっきの子?」
「うん。あの子。たまたま試合先の高校でマネージャーやってた子で」
「マネージャー?」
マネージャーなら、私も彼女を知っているはず。
だけど、私の記憶にはない。
「五月が熱出して休んだ時の試合」
思い出した。
3ヶ月前の県大会に繋がる試合。
私は、高熱で不参加だったんだ。
その時に出会った女の子が何で私を……?
「それから、ストーカーみたいになっててさ。話しかけてくるわけじゃないし。ただ、後ろからついてくるだけだから、まあ、いっかってほっといたんだけどさ。こないだ、俺達が二人でゲーセンにいるとこ見て。許せなくなったらしい」
ゲームセンターに行った時にいたんだ。
って事は、運命が少し変わったってこと?
「だから、五月が刺されたのは俺のせいなんだ。本当にごめん」
「六月のせいじゃないよ」
「いや、俺のせいなんだよ」
「そんなわけないじゃん」
「だって……」
正しい運命に戻そうとする歯車は、力強く回り出す。
乗り遅れないようにしよう。
頭の中にあるものなど、消してしまって。
私は、先に進まなきゃ。
そうじゃなきゃ、四月は……。
「ごめん、急に告白みたいなのしたよな」
「あっ、ううん」
「いや、何か四月が三月を好きだって聞いて。それで、俺もチャンスあるのかな?とか思っちゃって。ごめん、何か」
「謝らないでよ」
「退院したら、ちゃんと言うから。だから、さっきのは聞かなかったことにしてくれない?」
「わかった。いいよ」
「よかったーー、ありがとう」
六月が私の手をギュッと握りしめてくる。
ずっとこうしたかった。
わかるよ。
私の心臓は、五月蝿いぐらいに胸を叩く。
ちゃんとわかってるよ。
私の気持ち。
わかってるけど。
「よかった、五月」
病室の扉が開いたのがわかった六月は、手を離す。
そこにいたのは、三月と四月だった。
「三月」
「四月から連絡もらったの。電話出ないつもりだったんだけど。あまりにもしつこかったから。大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。この通り、元気だから」
ーーズキッ
背中に痛みが走って、少しだけ顔を歪ませる。
「大丈夫じゃないのに、無理すんなよ」
「四月……」
「痛いのに無理して平気なふりして笑おうとする癖やめろよ」
「えっ?」
「そうだったの?気づかなかった、ごめんね」
「ううん、大丈夫だから」
「大丈夫なわけないだろ。たくさん出血してたんだから」
「たくさん何て大げさだよ」
「四月どうしたの?やっぱり、2人って」
いやいや、これはまずい。
三月に怪しまれて、この計画がダメになるのは困る。
「俺は」
「そんなわけないじゃん。私達は、何もないよ。ほら、四月が一緒にいてくれたから。それで、心配してくれてて」
「そうなの、四月?」
「あーー、うん。ちょっと気が動転してたかも。大切な友達をなくしたくなかったから」
ーーズキン。
まただ。
友達って言葉に胸が締め付けられる。
「三月、四月。もうそれぐらいにして帰ろう。五月だって少しは休みたいから」
「そうだよね、ごめんね」
「ううん、いいの」
「ごめん。気づかなくて」
「ううん、気にしないで」
いろんな痛みに耐えながら、歪む笑顔で笑う。
「無理すんな!痛いんだから」
六月の言葉に胸の鼓動は早くなる。
やっぱり。
私は、六月が好きなんだね。
「じゃあ、帰るね」
「また、明日来るわ」
「ゆっくり休んで」
「ありがとう」
3人が出て行ったのを見届けてから、私は布団で顔を隠して泣いた。
せっかく気持ちを固めたのに、どうしてあんな言い方するの?
四月は、おかしいよ。
何も知らないくせに……。
何で。
何で。
何で。