あの日
授業が終わる。
三月は、戻っては来なかった。
「四月、三月とは?」
「あっ、うん。話したよ。だけど、1人でいたいって」
「一人ってどこに行ったの?」
「どこって言わなかったけど」
「何で、1人にしたのよ」
「五月どうした?何でそんな焦ってるの?」
「もういい」
私は慌てて教室を飛び出す。
もしも、運命が私達を1度目の人生に引き合わそうとしているなら。
「五月どこ行くんだよ」
「四月、何かあったのか?」
「わかんないけど、五月が走って行って」
「何で?」
「三月を1人にさせたからかな?」
「何でもいいからついてくぞ」
「う、うん」
後ろで四月と六月の声がする。
私は、2人を気にせずに走って行く。
ーー神様、諦めるから。
頑張って四月を諦めるから。
だから、お願い。
そっちの運命に引き戻さないで。
お願いだから、神様。
私は、祈るように走る。
階段をかけ降りて、下駄箱で靴を履き替えて。
次は、絶対。
三月を助けに行く。
だから、神様。
お願いだから、神様。
私達の運命を。
捻れた運命を……。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
ーーいない?
よかったってこと?
1度目の人生で、四月と私が付き合ったのを知ってしばらくした三月はこの場所に来た。
この場所で。
近づかなきゃわからないか。
私は、ゆっくりと近づく。
あの時は、間に合わなくて。
「危ない、五月」
「ちょっと離してよ」
「あんなとこに行ったら危ないだろ」
突然四月に腕を掴まれる。
危ないのはわかっている。
特に今日は海からの水が多く送られてきているのか、水かさがあるのがわかっていた。
「大丈夫だよ、溺れないから」
「わからないだろ」
「大丈夫だって、離してよ」
「嫌だ!」
「何でよ、三月がいるかも知れないでしょ」
「わからないだろ」
「わかった、わかった。俺が見てくるから」
運命ってのは残酷で。
私の思い通りにはいかないものだ。
「だめーー」
叫び声がこだまする。
運命を変えるのは簡単なことじゃない。
そんなの誰にだってわかること。
傾斜を六月が滑り落ちるように下に降りていく。
「四月、離してよ!!」
「何でいるの?」
「み、三月……」
驚いた私の声で四月が手を離してくれる。
「やっぱりそういう関係なんだ。だから、決めたのに。何なの?わざわざ見せつけに来たわけ」
「違う、そんなんじゃない!」
「言い訳はやめてよ」
三月が走り出す。
追いかけたいけど、六月が心配。
「四月は行って、早く追いかけて」
「でも」
「でもじゃない!早く行く」
運命を変えるなら突き放さなくちゃ!
四月の背中を押すと走り出した。
頑張れ!
絶対に死ぬんじゃないぞ!
四月の背中に無言で声をかける。
「六月ーー、聞こえる?」
「おお」
「三月居たから、戻ってきてーー」
「わかったーー」
橋のたもとに行っていた六月が戻ってくる。
よかった。
これで、もう大丈夫。
「階段から上がりなよ」
「めんどくさくて」
「もう、ほら手」
「ありがとう」
ーーえっ?
やっぱり思うようにはさせてくれない。
「五月……?五月、五月」
「こういうのって何て言うんですっけ?」
「お前!!五月に何したんだよ」
「ハハハハハハハハハハハ」
運命は残酷だ。
「ごめん、六月」
「もう喋んな!待ってろよ!お前は俺と一緒に来い」
「ごめん……」